寝起きドッキリなんぞ普通は怒られるものである。
周りに人が倒れている中、布団で寝ている校長少女。
生徒が倒れている要因は、間違いなくヤツの仕業だろう。
「……レイトさん、この人たちはただ眠っているだけのようです。」
一柳は倒れている生徒の様子を見ていた。
「気絶じゃなくて眠ってるのか。
となると、ここら一帯の生徒たちはみーんな熟睡ってわけか。」
「ロゼの能力でしょうか。」
「おそらくそうだろ。誰か一人を起こして、
アイツがなにをしてきたかを聞き出さないとな。」
「了解です。」
俺たちは布団で寝ているターゲットを警戒しつつ、
屋上の扉から近いところにいた男子生徒を持ち上げ、
とりあえず屋内の中へ運んで、生徒を起こそうと試みる。
「おい起きろ。」
「……ぅぅ、ぅぅん……。」
「起きてくれ、たのむ……。」
「……むぅ……。」
俺が肩を揺すっても生徒は起きる様子がない。
それどころか気持ち良さそうに眠る一方である。
どうやら、ヤツは眠りに関する能力を持っているらしい。
「さて、どうしたものか……。
眠らせる攻撃をする相手には、なにが効くだろうか……。」
「レイトさん、集合はかけますか?」
「いや、明確な特徴が分かるまではかけない。
仮に集まったとして、初見殺しで全員全滅とかもありえるからな。」
「了解です。」
「とはいえど、近づこうにも近づけない。
倒れている奴らは布団の周りが一番多いとはいえ、
入り口付近まで倒れている人がいるとなると……ん?」
「おっ、ちょうどいいところにいるじゃねぇか。
こんな隙だらけのヤツなら、誰だってやれるぜ。」
屋上への階段をゆっくり上がってきた男子生徒。
どこから持ってきたのか、彼の手には日本刀が握られていた。
「あ、あの……あなたもロゼを探しに?」
「ああ、手段を選ばず捕まえれば金がもらえるからな。
なんだ? もしかしてお前ら、俺の邪魔をするつもりか?」
その時、俺と一柳は心が通じ合い、顔を見合わせ頷いた。
「いや、邪魔というかなんというか……。
うん、あの悲惨な光景を見て……腰抜けちゃってね。」
「そもそも私たちは、あなたのように武器を持っていません。
なので、武器を持っていれば、やれそうだったんですけどね……。」
「ハハハッ! まったく、準備は怠るの駄目なんだよ……!
そんじゃ、準備のできる頭脳派の俺は、先に大金持ちになってるぜ。」
「……えっ? ず、頭脳派てっ、あっちょ……。」
刀を持った男は、俺の言葉を無視してロゼに向かって走り出した。
倒れている生徒を軽やかな足で避けつつ刃を向けながら走る姿は、
まるで獲物を見つけた狼のように思えた。たしかにそう思えたのが。
「ぅおぅらぁ!!!」
「んんもう、うるさい……。」
そうロゼは目をつぶりながら、
布団の中に隠していた光線銃を男子生徒の心臓に放銃。
俺たちは生徒の体を貫通する光線を目撃する。
「なっ……!?」
「容赦ないですね……。」
生徒に撃たれた光線は、そのまま光が薄くなる。
貫かれたはずの心臓、体には傷跡はないようだが、彼はフラついている。
「なん……だっ……? 目が、くらくなって___」
そして彼は刀を落とし、その場で倒れてしまった。
案の定、彼はロゼの攻撃をくらった。
そのおかげである程度の情報を見ることができた。
「どうやら、安眠妨害をすると撃たれるみたいだな。
目をつぶっているのに心臓に撃てれる射撃精密度……。
ロゼは寝ているときでも、的を外すことはないのか。」
「光線は貫通するみたいですから、
盾を持っていっても役に立つことはないでしょうね。」
「そうだな……それに、
ゆっくり近づいても撃たれるかもしれない。」
「あの……これは一体どういう状況ですか?」
屋上への階段からやってきた男女ペアの生徒。
「なぜこんなに人が倒れてるのかしら……。」
「ああ、あの向こうに見えるロゼがやったんだ。
みんなと一緒に捕まえようとしたんだが(嘘)……その、
あのロゼは音を立てすぎると光線を撃ってくるみたいで……」
「それでさっき、音を立てすぎて撃たれた人があそこに。」
男女ペアの生徒に真顔を向け、
先ほど刀を持っていた男子生徒を指さす一柳。
「光線を撃ってくるんですか!?
じゃぁ、音を立てずに行けばいいんじゃ……。」
「そうよ、忍足で行けばなんとかなるわ!」
「二人でなら、一緒に捕まえられるね!」
「私たちなら、できる!」
……そうラブラブとした二人は、そーっと忍び足でロゼに近づく。
というか、なぜ入学してそうそうに、そんなにラブラブできるのか。
一方的ならまだしも、もはや相思相愛のレベルになっているのだが……。
そんな中、一柳が俺に急接近し、耳元で話しかけてきた。
「レイトさん、ここは一度、散策を優先したほうがよさそうです。」
「ん?」
「おそらく、ここは今の私たちではどうしようもないと思います。」
一柳がそう言った瞬間、屋上の方から光線銃の放銃音が聞こえてきた。
外を見たときには案の定、二人はバタリと倒れていた。
「……うん、ゆっくり行ってもだめか。探そう他のロゼを。」
「ええ、行きましょう……。」
俺たちは、ロゼの安眠を妨害せず、
眠っている多くの生徒をとりあえず保留とした。