んな、なれなれしいな。
一柳とカイトは、朝飯を食べ終わった後、
とりあえず俺たちが座っている席で仮眠をし始める。
食べ終わったあとすぐ寝ると豚だか牛になるとか聞いたことあるが、
そんなのお構いなしに、ぐっすりと眠ってしまっている。
「……わりぃな、早く起こしちまって……。」
かわいい二人の寝顔を見つつ、
俺はフリードリンクから持ってきたコーヒーを飲んでいる。
こうでもしないと二人の眠気に負けて俺も寝てしまいそうだった。
それにしても、やはり俺の予想通り人の通りが多くなってきた。
俺たちと同じくお金のことに関して話すものもいれば、
なにも気にせず発券機を押して料理を食べに来るものもいる。
時刻が9:45を回る頃、食堂は満席に近い状態にあった。
普通の時間に起きていたら、俺たちは席に座れなかっただろう。
「ふふふ……。早くついた分、俺たちはゆっくりできるのだよ……。」
と、席に座れない生徒たちを見ながら愉悦感に浸る俺。
「あのぉ〜、隣いいですか?」
そんな中、突然誰かに声を掛けられた。
振り向いた先にいたのはゴマスリポーズの女子生徒。
「……ひとりか?」
「ええ、ひとりでございます。
4人席で3人座ってらしゃったので、私も座りたいと思いまして。」
「……危害は加えぬと約束できるなら、座っていい。」
俺がそう言うと、間髪言わずにそいつは座ってきた。
「すみません、お名前を聞かせてもらえませんか?」
「俺はレイト。あんたは?」
「私の名はカゲマルと申します。以後お見知り置きを。」
「カゲマル。朝飯は食べたのか?」
「ええ、さきほどコンビニでサンドイッチを召し上がりまして。
それはそれとして人との交流がしたいと思い、私はここにいます。」
……人との交流って、一柳と同じでパーティが組みたいってことか?
それとも、純粋に友達とか親友が欲しいって感じなのか、それとも___
「交流って? どういうことをするんだ?」
「いえいえ〜! 純粋にお話がしたいな〜って思いまして!
これから異世界を冒険する中ですし、仲良くしたいなーって!」
「アハハ、ソウカソウカ。ソウナンダナー。」
なぜだろうか。一柳と違ってなぜかドキドキしない。
見た目は可愛い、はず。喋り方には裏があるように感じる。
簡単に言えば胡散臭い。なんなんだろうかこの生徒は。
「ところで、この席に座っているお二方はどちらさまで?」
「ああ、左のピンクツインテールが一柳 美月。
そこで寝ている眼鏡の少年はカイトっていうやつだ。手を出すなよ。」
「私が手を出すわけないじゃないですか〜! やだなーもうっ!」
なんか腹たってきた。なんというか、俺の嫌いなタイプだ。
だからと言って追い出したら周りからの俺の印象が悪くなるかもしれん。
どうする? 印象良くこの場から切り出せる方法はないか……!?
「……あ、そういえばだ。そろそろクエストが始まるな。」
「そうですね! 10:00からですけど……あと1分で開始ですね!
どんなクエストなんですかね!! どこでもできるみたいですけど!」
スマホで内容が確認できるため、
学園のどこにいても大丈夫なクエスト……。
突然、学園の建物から偽物のスライムが沸くとかか?
それとも、宝探しゲームが始まるとか、探索ゲーか?
なんて思っていると、周りの生徒のスマホが一斉になりだす。
「クエスト開始か。おい、一柳、カイト! 起きろぉ!」
俺が大声で呼びかけると、2人は目を覚まし、
「……ぁ、おはようございます……。」
「……ふぁ〜……眠い……。」
2人とも寝ぼけ眼のままだが、まぁいいだろう。
俺がクエストの内容を確認して、ゆっくり後で教えればいい。
と、俺がスマホを取り出し電源をつけると、
『クエストの内容が開示されました。
この通知をタップし、内容を確認してください』
なんてものが来ていたため、文面通り通知をタップする。
すると、スマホが勝手に横画面になり、ノイズの映像が流れ始めた。
「諸君、学園には慣れたかな?
安心したまえ、このクエストで意地でもなれさせる。」
そんな声が聞こえたと思えばノイズが消え、
入学式にいたロゼとかいう存在が画面に映り始めた。
彼女は豪華そうな椅子に座り、かっこつけながら語り始める。
「まずはおはよう。アロディルデ学園校長、ロゼ・オルティだ。
朝食を取り、生徒同士との交流、のんびりと朝日を浴びるなど、
各自優雅な朝を過ごしたと思うが……私はそんなに優雅じゃない。
そもそも、君たちと違って私は、校長の役目があるんだ。
ああ、君たちは今後、いろんな世界をめぐっては人を助け、
胸踊る冒険、甘酸っぱい恋、感動の瞬間がたくさん起こるだろう。
だが、私は仕事があって忙しい。仕事づくしだ、仕事しかない。
入学式後とかマジで忙しいんじゃ。あと4日分仕事が残っている。
というわけで私は、仕事を抜け出して自由なことをしたいと思います。
あーもう、もう仕事とか嫌なんじゃ、なにが帳簿確認じゃ、なにが__」
愚痴を言いながらロゼは画面から消えてしまう。
だが、すぐさま画面に寄宿舎の受付嬢が映った。え?
「みなさま、大変です。ロゼ校長が脱走してしまいました!
なんっとしてでもロゼ校長を捕まえて仕事をさせたいので、
緊急クエストを開始いたします! クエストの内容はこちらです!」
いかにもわざとらしい演技で受付嬢がそう言うと、
スマホの画面が切り替わり、クエストの詳細が現れる。
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【学園内にいるロゼ校長を探し出し、工夫して校長を捕まえろ。】
校長が脱走! 学園内で暴れまわる校長をなんとかしろ!
捕まえたら報酬金100万円を贈呈! 制限時間は10時間!
校長以外の死人・怪我人を出さない、
建物の大破壊をしなければ手段は問いません!
・クエスト報酬入手法
『ロゼを捕まえ校長室に連行』
100万円 付与(先着)/ 貢献度ポイント 1000付与
『ロゼの背中についているQRコードを読み取る』
5000円 付与 / 貢献度ポイント 50付与
『?シークレットミッション?』× 2
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※なお、ロゼ校長は8人に分裂しております。
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「あ、あー……なるほどね。」
要するに、鬼ごっこってわけか……。
でも工夫するってなんだ? 手段は問わないとは……?