唐突に言われてもやる気とか起きないし……
Qー3クラス教室。黒服の人物に案内され、
俺と、おそらくこのクラスの生徒たちがこの場所にいる。
なつかしいようなそんな感じがする場所なのだが、
周りの生徒は不安げな表情をしているものが大半だ。
中には怯えているものもいれば、なんともなさそうなものもいる。
この教室の一番後ろ、そして一番左にいるため様子がわかりやすい。
ふと右横を見たとき、長髪の女子生徒と目が合った。
その生徒は俺を見た途端、あわあわしたと思えば、
こっくりと挨拶をするように頭を下げた。
「……お前も、転生者なのか?」
「えっ、あ、はい。私も転生者です。」
……人見知りなのだろうか。少しぎこちない返事だった気がする。
というかなぜだろう、どこからか冷たい目線で見られている気がする……。
「なぁ、なんなんだろうな、この世界……。」
「そう、ですね……。いろいろと、はちゃめちゃですし……。」
「ま、これからよろしくな。俺は……レイトだ。」
「あっ、えっと……斉藤 創といいます。よ、よろしくお願いします……。」
サイトウハジメ? ……なんだろう、この違和感は。
確かに感じた名前の違和感の正体がわからない。
俺はレイトなのに、彼女はサイトウハジメ? 名前が長いからか?
それともこれも転生前の記憶と関係してるのか……?
なんて思っていると、教室の扉が開き、誰かが入ってくる。
「おー、そろっておるの。」
入ってきた人物は紫髪で狐のお面を頭につけている。
服装も着物のようなものを着ていて、とても和装が似合っている。
どうみても生徒には見えない。それともう一つ気になるところがある。
それは彼女の背丈。どうみても小学生にしか見えないのだ。
「ふぅ、まずは皆の衆。わらわがQー3クラス担任、シルベじゃ。
先に言っておくのじゃが、わらわも転生者のようなものじゃ。
この学園のことは一昨日に知ってばかりで、とても困惑しておる。
しかし安心せい。ちゃんとこのクラス面倒を見てやるからの!」
シルベ先生の言葉には元気が感じられた。
だが、やはり不安はあるのであろう。教室の中は暗い雰囲気のままであった。
それもそうだろう、今もわけのわからないまま話が進んでいるのだから。
「先生! 質問いいですか!」
そんな中、元気よく手を上げて席を立つ一人の男子生徒がいた。
「ん? おぬしは……」
「俺の名前はハルトと言います! !
この世界のことについて教えてくれると嬉しいな!!」
勢いのある自己紹介に教室内の雰囲気が変わる。
「あ、いや、わらわもこの世界のことについては理解しておらぬ。
じゃが、この学園のことなら、大半のことは知っておるつもりじゃ。」
「そうであれば! いろいろ教えてください!」
「うむ、ではこの学園について説明するぞ。それと、
話を聞くのは自由じゃ。いまは心を休める時間でもあるからの。」
そういってシルベは、この学園のことについての説明を始めた。
この学園の名前は、新立アロディルデ学園。
異世界転生者、異世界転移者への教育を主として行う学校らしい。
転生転移者という存在の異常増加のため、
この国、アロディルデは転生転移者へ向けた教育制度を開拓。
転生する場所、転移する場所を学園内の体育館に絞り込み、
前世の記憶がなかろうともこの世界で生活できるよう、
最低限の知識を与えるようにしたそうだ。
「___前世の記憶がない理由はわからぬ。
じゃが、この世界の危機を救えば記憶が戻る、らしいのじゃ……」
「『らしい』って、どういうことですか……?」
入学式の時に俺の横のにいた、
メガネをかけた男子生徒が手を上げて質問をする。
「……ただの空想じゃがな。理事長の話によればじゃ、
アロディルデに異世界転生者が増えた原因は、
『世界になにかしらの危機が迫っているから』といっておる。
世界自体が必死に救済を求めているのかもしれないというわけじゃ……。」
「なるほど、世界の危機を救うと。
それで、私たちは何をすればいいのですか?」
「簡単に言えば、クエストじゃの。」
くえすと……クエスト?
知らないことを知るための学園なのに、
卒業もせずにあれやこれやのクエストに挑むのか?
なんて思っている中、シルベは話を続ける。
「新立アロディルデ学園の成績は、
学園のギルド館に張り出されたクエストをクリアして評価されるのじゃ。」
「クエストをクリアって……そんなのできるわけない……。」
「俺らは何も知らねぇのにいきなり戦えとか言われても無理だろ!」
「……そうですね。私も、戦うなんて、怖いです。」
「それによぉ、俺たち学生なんだろ? 普通に授業受けりゃいいじゃねぇか。」
周りの生徒たちの雰囲気が徐々に悪くなっていく。
シルベはその様子を見て慌てているが……、それよりだ。
場所とやっていることが合わない、クエストなんて難しい。
戦うのが怖い、学生だからそんな面倒なことはしなくていい。
「じゃぁ、お前らはこの世界でなにをするんだよ……?」
「……え?」
……あ。やべっ、なんか喋ってた。
この教室内にいる全員の視線がこちらに向いている。
だが、これは俺の声を前に出せる絶好のタイミングだ。
「……みんなさっきから文句ばっかじゃねぇか。
それなら、この世界で何がしたい? 何ができる? 分からねぇだろ?
この学園は俺たちに、異世界での生き方を教えてくれているんだ。
分からない、面倒と言って投げ出してたら、なにもできもしない。
俺はクエストだろうがなんだろうが受けて立つ。
そうでもしなきゃ、立ち止まってばっかでつまんないからな!」
……立ち止まることは、一番怖いことだからな。
なんで怖いのかはわからない、だが止まってなんかいられない。
動かなけらば何も始まらないし、終われることもできないからな。
「この人の言うとおりですよ。」
そう言って立ち上がったのはハジメの右横にいた、
パンダみたいなダブルお団子で髪を結ぶ、黒髪の女子生徒。
カリスマ性のありそうな風格があるが……俺の苦手なタイプだ。
「文句というのは、なにかをしてから言うものです。
まだ何もしないのに文句を言うのは、食わず嫌いと同じですよ?」
「僕も、同じ意見です。」
そう言ってメガネをかけた男子生徒も立ち上がった。
「すこし怖いですけど……怖いまま動けないのは嫌です。
それに、僕たちの記憶を取り戻すのにも、力が必要なはずですから。」
「そうだよねっ! でも力をつけるのもいいけど、
せっかくの異世界だから楽しんだらいいと思うんだみんなッ!」
ハルトはいつのまにか教室の壇上に立ち、
うるさいほどの元気でクラスのみんなに呼びかけていた。
「……まぁ、そうだな。やるしかないか。」
「文句いってもやらないといけないんだろ? どーせ。」
「ちょっと怖いけど……頑張ります!」
「俺、ちょっと異世界で主人公になりますわ〜。」
そのおかげか、先ほどまで暗くなっていた生徒たちの顔が変わった。
形はどうあれど、やる気のある顔つきになっている。
「なんだか、いろんなことをやれそうな気がしてきたの!」
シルベ先生は笑いながら腕を組んでいた。
クラス全体を見回し、頷いたと思えば黒板上の時計をチラっと見た。
「よぉーし! それじゃぁ今日はここまでじゃ!
明日に備えて、今日はアロディルデ学園の寄宿舎でやすむとよい!」
「きしゅくしゃ……ってなんです?」
「ああ、ホテルとか、学生寮ってとこじゃな。
各自のスマホ……もとい電子手帳の中のアプリ、
マイプロフィールから寄宿舎の自分の部屋を確認することじゃ!」
マイプロフィール……?
写真ばかり見ていたが、そんなものもあったのか。
なんて思って自分の電子手帳を取り出そうとしたが、
その前にシルベ先生の話が耳に入った。
「この授業の後は寝るなり学校を散策するのは自由じゃ。
じゃが、夜の10時までには寄宿舎にいることじゃぞ?
今日は明日に備えて、しっかりと休んでもらうためじゃ。」
「明日? 明日なにやるんです?」
「ふふふ、チュートリアルクエストじゃ。」
彼女のその一言で、学校でよく聞くチャイムが鳴った。