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みちくさ

続・フェイクマナーについて それでも私は「了解」を使う

作者: 斎木伯彦

 当該文章におきましては、侮辱や誹謗中傷の意図は全くありません。仮に侮辱や名誉毀損と捉えられるならば、表現の自由を侵害する行為ですから、残念でなりません。

 先日、「了解を目上に使うのは失礼」というのはフェイクマナーと私は主張しました。

 その事で同僚から有力情報を頂きましたので報告申し上げます。


 事の発端は神垣あゆみさんというフリーライターの方が平成十九年頃に出版された『仕事で差がつくできるメール術』という著書のようです。その著書の中で「目上のかたに了解を使うのに抵抗があり」「承知しましたが感じがいいなと思った」「以来、真似している」という、フワッとした個人的な印象論だけで「了解」を失礼な物言いとして追い込んでいく素地を作ったようです。

 但し、それ以前にも国語学者の中で「了解」の取り扱いは揺れ動いており、明確な答えはありません。

 中には酷い国語学者もいらっしゃって、「了解が敬語にならないのは、その使われ方が軽薄だから」とする論を展開し、使用例として「はいはい、了解了解」みたいなぞんざいな例文を紹介した上で「正解は、承知致しました」などと自作自演をしてしまう有様でした。

 この方法ならば「合点承知の助」は敬語として不適当、「了解致しました」を正解とする例文を作っても許されますよね?

 ですから私は断言します。


 「了解」を目上の方に使うのは失礼ではありません。


 むしろ一部の方が主張なさっているような「承知」を謙譲語にすると、いろいろと不具合があります。

 「皆さんご承知の通り」という使い方ができなくなってしまうのです。この美化語にできるかどうかというのは一つの目安になると私は思います。

 「ご承知下さい」「ご了承下さい」「ご承認下さい」「ご承諾下さい」と美化語にして尊敬の念を表現する言葉は、単語そのものに尊敬の念や謙譲の心はありません。

 謙譲語でもあり丁寧語でもある単語では「お参り」「お申し込み」などのように美化語を作ることができます。

 尊敬語では「お召し」「ご尊顔」などのように敬意を高める表現が少数ながらも存在します。

 一方で謙譲語では「存ずる」「承る」「拝見」など美化語にはできません。

 「了解」はどうでしょうか?

 「ご了解頂く」という使い方ができますね。つまり「了解」も「承知」も一般名詞であって尊敬語や謙譲語ではないということです。ですから「致します」などを伴って謙譲語にも変化させられますし、「ご~頂く」と用いて尊敬語にもできるということです。

 さて、「了解」と「承知」を実際に使って、その意味に曖昧さを感じないか試してみましょう。


 「部長はこの件について、了解していない」

 「部長はこの件について、承知していない」


 如何でしょうか、何か違和感がありますね。「了解していない」では承認や承諾、理解を得られていない拒絶の意思が強く出ています。部長は知った上で判断していると感じます。

 ところが「承知していない」では、そもそも部長は「知っていない」という意味にも取れます。


 「君、この件に関して、了解しておいてくれよ」

 「君、この件に関して、承知しておいてくれよ」


 如何でしょうか、これまた違和感があります。「了解しておいてくれ」では「理解した上で」責任を取らされそうな雰囲気が伝わって来ます。「承知しておいてくれ」では「知っているだけでいいよ、理解する必要はない」という曖昧な表現にも感じます。責任感もなく迷いが出ますね。

 つまり「了解」は承諾する意思が強く、責任感を伴う表現と言えるでしょう。

 一方の「承知」は「知っている」という意味にもなり、責任感が希薄な印象を伴います。

 「了解」について悪印象を抱いている方は、責任感が薄いのではないかと邪推したくなりますね。

 では、先程の文章をそれぞれの意味に変換してみましょう。


 「部長はこの件について、理解していない」

 「部長はこの件について、聞き入れていない」または「知らない」、「認めていない」


 「君、この件に関して、理解しておいてくれよ」

 「君、この件に関して、聞き入れておいてくれよ」または「知っておいてくれ」、「認めておいてくれ」


 これだけ意味に揺らぎが生じると、契約などの時に大騒動が起きかねません。

 仕事に差を付ける、「できる仕事人」は意味が明確な言葉を使いましょう。

 ですから私は「了解」を用います。責任感を持って物事に対処するからです。

 皆さんも堂々と「了解」を使って頂いて構いません。何か咎められるようであれば、拙論をご紹介下さい。他にも「了解を目上に使うのは失礼ではない」と主張する方がおられます。「了解」に市民権を取り戻しましょう。

 ご了解頂けましたら、高評価、ブックマーク、お気に入りユーザー登録を願い致します。

「存ずる」と「存知」「存じ」の違い。


 「存ずる」は「考える」「思う」「知る」「覚える」の謙譲語で、サ行変格活用動詞です。

 「存知」は知っていること、承知していることを意味する名詞で、「ご存知」と美化語にできます。

 「存じ」は知っていること、承知していることを意味し、「ご存じ」と美化語で用いられますが、「存じ寄り」は「思い付き」「考え」「意見」「知り合い」「馴染み」の謙譲語になります。

 また「存じ上げる」も「知る」の謙譲語になりますので、「存じ」は誤用が頻出し易い言葉と言えます。

 日本語は難しいですね。

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― 新着の感想 ―
[一言] 使われている漢字の意味的に言うと、おっしゃる通り、 『了解』は『言われたことを理解して受け入れ(了)たよ』で『承知』は『知ったよ。話を聞いたよ(『その話、知り申した』の単語化)』止まりなわけ…
[一言] こちらを読んでふと思い立ち、岩波新漢語辞典(1996年第四刷。古本屋で昔買い、ほとんど使っていないのでキレイ)を引いたところ面白いことが分かりました。 了解は「相手の言い分を良しとして納得…
[良い点] とても面白かったです。理論的でなるほどぉとうなる所がありました。 私はそれでも、了解は軽薄に感じがちです。そう感じる人が多いうちは使いづらいかな。日本中が直ればよいのですが。 いずれにせ…
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