30 捕獲依頼〜さすらい馬④
「私達も教会へ戻ります。装備を預けてますので」
ステラが言い、エリスを引きずって出口へと向かう。
「いいでしょ、ステラ。私はジード様と一緒にいたいの。杖ぐらい持ってきてよ」
不満げなエリスの声がこだまする。
2人はミレイリ聖教会のダイドラ支部に住み込むこととしたらしい。最近になってケイズも聞かされた。最初の頃は嫌いすぎて興味がなかったのだ。
装備なども日頃は神官らが厳重に管理してくれているとのことだ。
「私も着替えてくるね」
リアがとととっと駆け去っていく。
準備のいらないケイズだけが冒険者ギルドに残された。杖は背負いっぱなし、ローブも着っぱなしである。
ケイズはボケっとリアの戻りを待つ。
「最近、ケイズのやつ変わったか?」
「あぁ、クラン作ってからな。エリスさんやステラさんに噛みつかなくなったな」
「俺もあのクラン入りてぇな」
「やめとけ、宙吊りにされるぞ」
いやでも、冒険者たちの話が耳に入ってくる。クランについては概ね好評のようだ。
「お待たせ」
碧色の道着衣装を着込んだリアが帰ってきた。手には初めての旅でも持っていた小袋を持っている。
今回は長丁場となる予定だ。着替えなど最低限の必需品を入れているようだ。初めてのときと違い、小袋はパンパンに膨れている。
「じゃ、行くか」
既に手続きを終えたらしく、ジードの姿はギルドの中にはなかった。一声もかけてくれないぐらい勇み足で帰宅したようだ。
リアと連れ立って2人、ジードの家へと向かう。
ダイドラの町、南東部にある住宅地の一角。隣は空き地となる木造2階建ての一軒家である。もともとはただ、ジードの居宅であった。
今は入り口だけ改装されて、玄関にカウンター代わりの机と椅子が据えられている。クランの臨時受付のつもりだった。
「来たな」
勝手に扉を開けて中に入ると、奥の部屋からジードが顔を出した。
忙しく荷造りをしつつも、ジードが今回の依頼について詳細を教えてくれた。
途中でステラとエリスも合流する。
今回の依頼では、ロイズ牧場、というメイロウの街から北方にある、ナドランド王国軍に軍馬を提供している馬匹を拠点にするのだという。さすらい馬もまた、ロイズ牧場を中心に周回しているので丁度よいとのこと。
ロイズ牧場へは歩いて1日ほどかかる。
「すごい荷物ですね」
ステラがジードの矢筒や鞄を見て告げる。膨れ上がった鞄の中には野営の鍋から隠密用の魔法具まで満載されているのをケイズとリアは知っている。エリスも驚いた顔をしていた。
「あぁ、捕獲となれば、俺の腕の見せ所だからな」
ジードが胸を張って言う。ケイズとリアは慣れっこである。
飛竜の襲来から後、討伐依頼よりも、捕獲依頼となると張り切るジードをいつも見ているからだ。実際、とても上手なのである。自身では勝てない魔獣相手でも、ケイズやリアに適切な指示を飛ばして捕まえるのだ。
「確かに、ケイズさんとリアさんじゃね。今回の主役はジード様ですね」
エリスがしみじみと言い、ジードの腕に抱きついた。バランスを崩したジードが転びそうになる。
ステラが嫌な顔をした。自分が活躍しようとでも思っていたのだろうか。接近職で足の速いさすらい馬の捕獲は困難だとケイズなどは思う。
「今回は、依頼主が捕らえた後に乗るって言うから。俺とリアだと実際、走れなくしてしまう恐れがある。本当に3人とも、あてにしてる」
心の底からケイズは言った。ついでに頭も下げる。なぜか見習って、リアまで頭を下げてしまった。
「え?何?ケイズさんって、きっかけさえあればちゃんと良い人になれるの?」
エリスが戸惑っている。流石に失礼だ。
「私にはいつもこうだったよ」
リアが嬉しそうに言う。体を曲げて振り向いてケイズを見上げてきた。
「でも、良い方のケイズはいつも独り占めだったのに寂しいな」
冗談っぽくリアが言う。どこか憂いを帯びた表情もまた、ケイズには堪らない。
一方で言葉の内容に、ケイズは雷で撃たれたかのような衝撃を覚えた。ブラックの助言が裏目に出た格好だ。いつもニコニコしてくれていたので、まさか寂しさを覚えていようとは。
「ごめん、リア、わかった。この2人を今すぐ罵倒し倒すからな、良い俺はいつだって、リアのものだ」
今ならまだへそ曲がりな言い方がいくらでも頭に浮かぶ。ケイズは気合を入れ直して、エリスとステラを睨もうとする。
「ううん、やーだよ。そういうのじゃないの。また、2人に酷いこと言うと、嫌いになっちゃうかもだよ」
リアが真顔で言う。
釈然としないものもあるが、ケイズにとってはリアに嫌われるなどあってはならないこと。やはりブラックは正しいのだ。ケイズは安心して努力を継続することとした。
「すごい、ケイズさんをリアさんが翻弄したわ」
「まぁ、リアさんも思うところがあったんでしょうね、昔の態度」
エリスとステラが何やら話をしている。
「話がまとまったか、行くぞ」
ジードが呆れ顔で言う。
今回は、緊急依頼ではないため、馬車ではなく、歩いてロイズ牧場へと向かう。ダイドラの西門を出て、ダイドラとメイロウを結ぶ街道を西進する。
平坦な道のりであるが時折、木々の多い林となった。ダイドラとメイロウの間は森林が多いのだ。
急ぎではないものの、さすらい馬に逃げられたくない、という無意識の思いもあってか、自然、歩みは速くなった。
途中、北への細い分岐点に至り、5人は北へと進路を変える。分岐点にて、ちょうど夜を迎えたので野宿となった。
(うーん)
ケイズは隣で寝袋にくるまり、すやすやと寝息を立てるリアを見て、悶々とした。
近くにはいてほしいようだが、添い寝はしたくないらしい。
(なんでかなぁ、まぁ、女心は複雑だから、かな?)
勝手に一人で納得しつつ、ケイズも眠りについた。
翌日も北へと歩いて進み、昼頃になって、森を抜けて平野へと出る。
「くさい」
リアが憮然として言う。由々しき事態の顔である。
堆肥や獣の匂いが漂い始めていた。
「牧場だからな」
ケイズは言うにとどめた。
ステラやジードも気にしていないようだが、エリスもリアと同じく鼻をおさえている。そのうちに慣れるだろう、とケイズは思っていた。
遠くに柵、更に柵の向こうには馬舎が見えてきていた。灰色の尖った屋根。遠目に見てもかなり広い牧場だ。柵の内側を数百頭の馬が走っている。土煙で馬舎の屋根がくすんで見えるほど。
ロイズ牧場に着いたので間違いないだろう。
「わ!お馬がいっぱい!」
興味津々という表情でリアが声を上げた。
実際には広大な土地を利用して、牛や畑も育てているようだ。ちらほらと作業をしている人たちの姿も見られる。
すたすたと近づいていくと、敷地の四方に柵の切れ目、出入り口と思しき隙間かあるのが見えた。ケイズたちは開けっ放しの南側から敷地内へと進入した。
近くの馬舎で作業をしている男女二人に近づいていく。柄の長い熊手で、秣を作っていたようだ。男が茶髪、女性は水色の髪だ。
「すいません」
声をかけたのはステラだった。柔らかく笑みを浮かべている。
二人が作業を中断し、顔を上げて、ケイズたちを見た。
「こちらがロイズ牧場で間違いありませんか?我々はウィリアムソン様の紹介でお世話になる冒険者クランの双角と言います」
金髪碧眼のいかにも聖騎士という出で立ちのステラに話しかけられて、若い男女が見るからに緊張している。まだケイズやリアと同世代ぐらいと見えた。まだ少年少女という形容がふさわしい容貌だ。




