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地属性精霊術師は風属性精霊術師を可愛がりたくてしょうがない  作者: 黒笠
第一章

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25 コボルト迎撃⑤

「ちょっと、君、ケイズ君だったかな」

 肩で息をしながら、並んで座る自分たちに声をかけてくる。気まずそうな表情を浮かべているから、あまり良い話ではないだろう、とケイズは思った。少なくとも『コボルトを20匹倒してくれてありがとう』と言ってもらえそうな雰囲気ではない。

(それとも一応、20匹でもコボルトを間引いたから依頼達成で帰れってことかな)

 ケイズは首を傾げる。だが、巣の掃討云々と言っていたから、多分殲滅をご希望のはずだ。

「あのコボルトの串刺し死体は君たちがやったんだろう? みんな気持ち悪がって困るんだ」

 村長の口から出てきたのは予想の斜め上の言葉だった。

 村人たちの何人かが日の出とともに作業をしていた。死体に気付いてすぐ、村長に『何とかさせろ』と強弁したのだろう。

(自分らで駆除しろって依頼しといてどういう了見だ)

 ケイズは呆れてしまうも、角が立つので口には出さなかった。ただ文句をつけられてなお、丁寧に応対しようという気にまではなれない。

「あいつらは、略奪班で群れの中でも下位。まだ倍近い数が巣にいるはず。連中を誘き出すのに死体が有効なんでね」

 質問に答える代わりに淡々とケイズは説明した。下らない話に付き合うつもりはない、という意思表示でもある。

 隣りにいるリアが欠伸をした。下らないことだ、とリアも思ったのだろう。

「しかし、村の周りに死体を放置されるのも困るよ。そもそも、こういうのは根城を探して倒しにいくんじゃないのかね? ん?」

 しつこく村長が言い募ってくる。

 勝手な言い分に腹が立った。依頼してきた以上、方法については任せてほしい。

「俺は待ち伏せするほうが得意なんで。根城を探すより誘き出す方が早く、安全で確実に終わる」

 昨日同じことを告げたはずだ。

 ケイズは村長をにらみつけて続ける。

「ここでやめれば、まだ倍くらいはいるはずなのに、それを放置することになる。村の人達だけで打ち払えますか?やるっていうおつもりなら、どうぞ。俺たちは死体を片付けて帰りますよ」

 片付けること自体はたやすい。自分の魔力を使い、土の中に埋めてしまえばいい。ただ、駆除した数の倍を生かしておいても、また元の木阿弥に戻るのは目に見えている。

「分かった」

 渋々といった様子で村長がうなずく。

 自分がやめて困るのはタソロ村の住民たちの方だ。

「本当は20匹駆除した以上、依頼を達成したってことで帰ってもいいんですからね」

 ケイズは忘れられては困ることを念押しで言う。

 二人の受けた依頼は『コボルト20匹の討伐』だ。殲滅までするのはあくまで善意である。

 村長がケイズの言葉には答えずに戻っていく。

「昼までに、コボルトが来なかったら、きっと偉そうにするね。あの人」

 リアが珍しく苦い表情をしている。

「そうだな、でも、ここで帰っても意味がないのは、目に見えてるのになぁ」

 ケイズの言葉を聞いても昼まで様子を見てやろうくらいにしか思わなかったようだ。

(やたら根城、根城ってうるさいのも、冒険者たるもの根城に行っちゃえば、数関係なく殲滅するに違いないから、だろうな)

 コボルトの討伐数を20匹と少なく設定することで、依頼の報酬を安くしている。実際に依頼を受けた冒険者たちのやらされる作業はコボルトの殲滅だ。20匹どころではない。

「うん、せっかく来たんだし、ちゃんと問題解決したいね」

 リアがニッコリと笑う。村長に渋面を向けられたばかりでささくれだったケイズの気持ちを、癒やそうとしてくれているのかもしれない。

 ケイズとしても、リアとの初仕事であるから、しっかり戦果を上げて引き上げたい。

「武器使ったり、仲間の死体で誘き寄せられたり、コボルトって、なんか人間の軍隊を相手にしてるみたい」

 リアが感心したように言う。軍事国家ホクレンの出身らしい感想の抱き方だった。

「まぁ、なんであれ、生き物が集まると似たような部分が出てくるのかもな」

 ケイズも相槌を打った。

 ちらほらと、また姿を見せ始めた村人たちの視線は冷たかった。一応、言われずとも柵の外へは出ないでくれているのだけが有り難い。

「隊長格みたいに、強いのもいるのかな」

 リアも村人の様子には見向きもしていない。強くなったもので、王都にいたときは令嬢たちからの冷たい視線に縮こまっていた。

「コボルドリーダーって上位種がいる。上級の魔獣で、腕力もあって身のこなしも素早い」

 ケイズは頷いて、知識をリアに披露する。

 それからリアととりとめのない話をしながら時間を潰す。内容がだんだん尽きてきたせいか、ぶつ切りの話になってしまったが、内容を探すのも楽しかった。

 昼頃、太陽が頂点に差し掛かる。ケイズは自らの知覚範囲に多勢の動く振動を感知した。背中の杖を抜いて立ち上がる。リアも察して立ち上がった。

「来た、思ったより多いな」

 足の数が100本、つまり50匹分の振動だ。見立てていた2倍という数字よりも大分多い。ゆっくり用心しながら進んでいることも歩調から伝わってくる。きちんと警戒している、というのも予想外ではあった。

 まだ、村内を村人たちが自由に動き回っている。

「リア、村の人達に伝えて、全員、家に入ってもらってくれ」

 屋外に自分とリアだけ、という状況が望ましい。反感を持っているようだったので、全員が言うとおりにしてくれないかもしれないが。

「うん」

 リアが直近の大人に駆け寄っていく。

 何事かを二言三言やり取りしたあと、村人が大声を出した。

「コボルトが来るぞぉっ。全員、家の中に入れっ」

 叫び声が響く。村人たちが急いで家の中へと急いだ。逃げ遅れそうな者にも、声をかけていた相手が説得して帰宅を促す。

 やがて視界には誰も村人はいなくなった。

 リアが駆け戻ってきた。

「何て、言ったんだ? 素直に全員入ると思わなかった」

 感心してケイズは尋ねる。

 最悪、土で更に壁を作る羽目になるかもしれないと覚悟していた。

「ケイズの技は屋外にいる人に無差別に反応するから危ないよ、だから強いんだよって言った」

 上手いことを言う、とケイズは思った。

 言い方はともかくとして、言っている内容はいつも的確なのだった。コボルトの死体を晒していたことまで有効に活用している。

「ただ、50匹もいる。想定してたより、ずいぶん多いな」

 ケイズは柵の方へとむかう。

「なんでだろ」

 リアが首を傾げながらついてくる。

「昨日、地針避けたヤツいたけど、何か関係あるかな?」

 今もコボルトたちは用心してゆっくり近付いてくる。

 昨日避けた個体が、自分の放った地針を罠か何かと勘違いしたのだろう。本来コボルトには、罠を疑う、その程度の知恵すらない。

「だから、わざわざ今日は襲ってくる方に近づくの?」

 リアがケイズの意図を察して尋ねてくる。

「あぁ、また避けたら今度は逃さず仕留めたいからな」

 柵の下に至る。昨日、串刺しにしたコボルトの臭いにケイズは顔をしかめた。

 ちょうどコボルトたちも森の端に着いたようだ。藪の中から様子を窺っている。

(やっぱり罠を警戒しているな)

 ケイズとリアの姿は柵越しに見えているはずだ。それでも出てこないのはコボルトらしからぬ警戒をしているからだろう。

 矢が飛んできた。石の弾丸を生み出して、ケイズは矢を叩き落とす。体の直近、魔力が覆う範囲でならば自在に石や砂を生み出せる。錬成の速さは生み出す物体の大きさや繰り出す技の威力次第だが。

 茶色い毛のコボルトが木の上にいた。コボルトアーチャーという弓を使う亜種だ。

「生意気な」

 ケイズは真下から地針を発射し、コボルトアーチャーを枝ごと貫いた。

 仲間の死に、残りのコボルトが猛る。

 雄叫びを上げて一斉に藪から柵へと押し寄せてきた。50匹もいるのでなかなか壮観だ。


 

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― 新着の感想 ―
[良い点] 村長さんに言い返すケイズさん、素晴らしい! 男らしくとてもカッコよかったです!これはリアたんもイチコロなのでは!? 毎回思いますが、やはりケイズさんって戦闘面では凄く優秀ですねぇ。精霊術…
2024/04/21 02:35 退会済み
管理
[良い点] 20匹という数字にはそんな意味合いがあったんですね。 村長の気持ちも分かりますが、何ともセコい。 [一言] こういうお金の話が少しでも出ると現実味が増してリアリティが出る感じがします。 …
[良い点] 街から離れた村ですから経済的にも大変なのは良くわかります。 でもコボルトをなんとか低予算で対処して欲しい…… 生活水準が下がるとなかなか他人を受け入れられなくなってしまうのかも。 お二人…
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