後日談〜真面目に国王をする
いつもお世話になります。
なんとか式くらいまで、書き上げたいなと。後日談に着手してみようと思います。
不定期更新ですが、宜しくお願い致します。
いつもどおりケイズは王宮(仮)を抜け出して、ダイダラの街をスタスタと歩く。国として産声を上げてからまだ余り時間が経っていない。
(別に家があるから王宮とか、要らないけど)
ケイズは脇目もふらずに歩きつつ思う。
ナドランド王国だった頃、ここはランドーラ地方だった。その領主の館をゆずりうけて改築し、王宮とする手筈らしい。
(税金とか、よく皆、払ってくれるよな、と思う)
強力な精霊術師であるケイズと婚約者リアの実力を背景に、成立した国である。他国も容易に攻め込まない治安の良さを宰相サナスが売りにしていた。
昔からの住人も移住者もそれで国と認めてくれる。
(俺なんかが思いもよらないぐらいに働いている人がいて。考えているのは、よく分かるけど)
ケイズは歩きながら自分の手を見る。微かに指先が震えていた。
自分は婚約者のリアと会わずにいると手が痙攣するのである。
首都であるダイドラの商店街だ。人通りが多い。栄えていると言っても良いと思う。
「まさか、今のは陛下?」
時折、買い物をしている人が見咎める。
夕刻前、食事の準備を始めているようだ。素直に平穏であることは嬉しい。
ケイズは茶色いローブに、二本の杖を背負う。『双角』と呼ばれていた冒険者の頃から装いは変わらない。
(周りがうるさいからローブを洗うようになったのたけが違う)
ケイズは護衛も何も連れていない。
本気を出せば、護衛を撒くことも倒すことも容易いのだ。
やがて横に広い木造の建物前に至る。
冒険者ギルドのダイドラ支部だ。躊躇することなくケイズは足を踏み入れた。
「あら?陛下?リアちゃんなら依頼をこなしに出ましたよ?本人から聞いていませんか?」
ギルドの受付嬢であるフィオナが告げる。ダイドラにリアとともに来たときからの付き合いだ。口調こそ丁寧だが昔と変わらずに笑顔を向けてくる。
「リアからは聞いていたけど。リアは細かいことは言わない」
性格が大雑把なのである。
(リアはそこが可愛い)
更にケイズはのろけるのだった。
「うお。陛下のケイズ様だ」
誰かが呟き、ギルド支部内をどよめきがはしる。
自分もつい先日まで冒険者だったというのに、距離を置かれたものだ。
強力な精霊術師だから国王に担ぎ上げられたのである。それだけの戦果を仕方ないとは言え挙げてしまった。
(リアと一緒になるためだから仕方ないけど)
ケイズは嘆息する。
軍事国家ホクレンの筆頭将軍クロウの妹がリアだ。婚約するにあたって実力だけではなく、身分も必要になった。
少なくともケイズにとってはそういうことで、元あったナドランド王国が滅んでしまって統治者を必要としたのがランドーラ地方の人々だ。
(つまりは利害の一致)
リアもまたこの土地に愛着を持ってしまったから、ケイズは国王様をするしかないのである。
「そりゃあね。追っかけ回して、国のことなんかそっちのけで。陛下はそうなるのが目に見えているものね」
フィオナが苦笑いだ。王様になる前からの付き合いなので、気の置けないことも言う。
「リアの方が国よりも大事だから」
ケイズは即答した。
「そのリアちゃんが大切にしている国ですよ」
笑ってフィオナが告げた。
リアが楽しそうに笑って生活しているのも事実だ。ケイズは重々しく頷く。
「だから、ちゃんとサナスなんかの言う事を聞いて、きちんとやってる。おとなしく」
ケイズは告げてフィオナに背中を向けた。
リアに会いに来たのだから、いない以上、用事は無いのである。
冒険者ギルドダイドラ支部を後にすることとした。
杖を一本、掴んで地面をつつく。魔力を地面に張り巡らせる。
特に不穏なものは感じない。肩透かしのように感じるほど、ランドーラ王国が平和なのであった。
(依頼なら、クランに戻るほうが早いかな)
ケイズは歩き出してから思案する。依頼先を聞いて追いかけたい気持ちもかなりあるのだが、行き違いになると目も当てられない。
指先がかすかに震えている。一定期間、リアに会えないでいると禁断症状があらわれるような体質となってしまった。
リアに会うか会わないか、は自分にとって死活問題なのだ。
湿原に魔獣の多いランドーラ地方では冒険者業が盛んであり、その中で最上位、一級冒険者であるリアは忙しい。
(あまり広くないし、気楽なもんだと思っていたんどけど)
狭いから何もしなくていい、とはならないのであった。
平穏に暮らしている人たちを見ると、悪い気はしないのだが。自分としては思ったとおりに暮らせてはいない。
(隣は大きい帝政シュバルトだし。クロウ義兄さんのホクレンとも仲良くしなくちゃならんし。イェレスはよく話しかけてくるし)
ここでの『話しかけてくる』とは使節をやたらと送ってくるということだ。歴史的に領土拡張の野心が強い、東の大国帝政シュバルトを他国は基本的に警戒している。
「まぁ、そんなことよりリアなんだよ」
ケイズはボヤくのであった。




