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地属性精霊術師は風属性精霊術師を可愛がりたくてしょうがない  作者: 黒笠
第3章

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28 ケイズ発つ①

 いざ、参戦するとして具体的にはどうしたものか。

 サナスとの密談から3日が過ぎてなお、ケイズは決めかねていた。以前なら、気軽に身一つで突っ込んでいくのだが、密談の内容が重く、なんとなく動きづらい。

「ケイズ、何にも手伝ってくれない」

 憮然とした顔でリアが告げる。

 ずっと忙しく、家中を掃除してくれていたのだった。動きやすい格好で、埃を拭き取り続けている。

「ごめん、つい、見惚れてた」

 素直にケイズは頭を下げる。嘘ではない。思い悩むことがありつつも、自分の目はずっと自動でリアを追っていたのだから。

 長く一定期間、会えなかった反動である。

「ケイズは本当にいけないなぁ。お掃除、全然してないなぁ」

 気を取り直したのか。拍子をつけて、口ずさむリアが掃除を再開した。

 怒られても叱られてもケイズは幸せなのである。

 リアの方も気の所為ではないと思うが、実に楽しそうだ。ずっとこうしていたい。

「だが、いつまでもこうしてはいられない」

 ケイズはポツリと呟いた。

 メイズロウの西方にヒエドラン王子の率いる軍隊が展開している。ダイドラを始めとするランドーラ地方を窺おうという位置取りだった。

(俺が目当て、か。まぁ、間違いはないんだろうけど)

 何度も自分に戻るよう要請していたことを、ケイズも覚えていた。サナスとも話をしたことだ。

(もう、ナドランド王国もなくなったっていうのに)

 ケイズは実際に目の当たりとしたクロウ・クンリーによるリアの溺愛を思い返していた。怖い人ではあったと思う。戦場で、敵として出逢えば、だ。

 家族となれば、話は全く違う。

(義兄さんが、しくじることも手を緩めることもしなくて、結局、ナドランド王国を滅ぼすところまでやった)

 クロウ・クンリーも強かなのだ。妹の婚約を破棄した国を滅ぼして、義弟となる自分にも密かな圧力をかけている。

(リアの幸せに暮らせる、しかも名誉も維持できる場所を作れってことだ)

 自分がもしどこかの王となれば、リアもどこかの王妃となる。結局、クロウも諦めてはいないのであった。

(俺ももう、そうするしかないかって思ってる)

 結局のところ、ケイズはヒエドランを信用できないのだった。ヒエドランの復権を許しては、一度、破談されたリアには身の置きどころがなくなってしまう。

 ケイズはふっと顔を上げる。いつの間にか俯いてしまっていたのだ。

 可愛らしいリアの顔面が目の前にあった。

「キャー」

 気づくとリアが腕の中でもがいている。

 抱きしめた自分がちょうど口づけをしようと迫っているところだった。

「だめっ!急はだめっ!」

 リアもリアで不思議な拒絶をするのだった。急でなければ、場合によっては良いということなのだろうか。

(あぁ、今までにも、婚約を正規にしてから)

 思い返してみれば、既に何度かはあったのである。きっと不意討ちが駄目なのだろう。不意でなければいいのだ。

 考えている間にリアが腕を振りほどいて逃れる。

「心配してたのにっ!ケイズッ!もうっ!本当に、もうっ!」

 ぷりぷりと腹を立てているリアが可愛い。もう一度、抱きしめたかった。

 だが、距離を置かれてしまっては、素早いリアを自分が捕らえられるわけもない。

「こんな近くで可愛くされて、俺が平常心でいられるわけもない」

 ケイズは正直に開き直るのだった。

 何事か深刻に考えを巡らせていたはずなのに、もうどこに行ったかも分からない。よって、ただリアの可愛い顔を眺める。

「だめっ!」

 リアが真剣な顔でむくれる。

「ケイズは真面目にしてた方が、しっかりしてて格好いいよ」

 婚約した今となっては、リアもリアで惚気返してくれるのだった。

「えっ、そうかな?」

 ケイズは真に受けて、一瞬、どうしたものかと考え込んでしまう。

 所詮、自分は自分でしかないとすぐに思い至るのだが。

「う、うん」

 リアが顔を真赤にして頷く。かなり恥ずかしいことを口にしてしまったのだった。

(本当に、いつまでもこんな感じでいたいんだけど)

 ケイズは思いつつも立ち上がった。腰は重い。それでも持ち上げないわけにはいかない。

「どこ行くの?」

 性懲りもなく、可愛い生き物がまた近づいてきた。

「とりあえずは戦場。バンリュウ将軍を生け捕りにしなくちゃいけないから。どうせ近場の戦場にいると思う」

 ケイズは考えを巡らせていた。バンリュウのことだから単純に一対一で戦いたいわけでもないのだろう。自分が殺されて終わりはないか、と。

(多分、合戦。そして、今、最寄りの、しかも俺が出てきそうな戰場はどこかって考えてるはず)

 自分が出れば、バンリュウも出てくる。それもおそらくは敵側だ。

「しかも、部下を私事には使えないっていうんで、ホクレンに追い返してる」

 ケイズは独り言を呟く。妙なところで律儀に義理堅い男ではあるのだった。

(なら、少しは俺への迷惑も考えてほしい)

 戦いという最大の面倒事を強いられる自分が一番可哀相だ、とケイズは思う。

「私も行く」

 リアがいつの間にか、いつもの碧色の道着に着替えていた。白い太腿が眩しい。

「ごめん、頼りにしてる」

 バンリュウ相手であれば、どうしても手練れの前衛が欲しい。リアを危険な目に晒すことともなるが、決して退くこともないのだろう。

 ケイズは頷き、2人は家を後とするのであった。

 



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