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地属性精霊術師は風属性精霊術師を可愛がりたくてしょうがない  作者: 黒笠
第3章

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27 密談と展望②

「先ほど申し上げたとおり、ウィリアムソンとガイルドの軍5万が、その6万と睨み合っております。所詮、軍事の才能がないヒエドラン王子指揮ですから、数で劣っても膠着に容易く持ち込めたのですな」

 サナスが慣れた口調で、しかし、丁寧に報告してくる。目上の人間に報告するような態度だ。

 リアがサナスの変貌にびっくりしている。一際強く、ケイズのローブをぎゅっと握り締めた。

「背後からホクレンやシュバルトやらが攻めてきかねないと、私も現場も警戒しておりましたがね。なるほど、そういうことでしたか」

 挙げ句、勝手にサナスが納得して頷く。

「何?確かにホクレン軍もシュバルト軍も兄様が止めたけど」

 リアがローブ越しに首を傾げるような仕草をしたようだ。首や肩が苦しいが、可愛らしいのでケイズは幸せだった。

「それは、妹と妹婿の治める地を攻める愚か者などいないでしょう」

 殊更に丁寧な口調でサナスがリアに言い聞かせる。『それぐらい分かっていただかないと困りますよ』というような態度であり、ますますリアが縮こまってしまう。結果、より一層、ケイズの首が絞まった。

「ケイズ、ごめん、この人、なんか気持ち悪い」

 リアがサナスについて評価を下した。ようやくローブを放し、耳元でひそひそと囁く。

「俺、ここ、治めてないぞ」

 相手の勝手な決めつけにケイズは反論した。

 ここはランドーラ伯の領土なのである。

「今後、対外的には。他国の者からはそのように見られる、ということです」

 サナスが言い切った。鋭い視線を自分に向けている。

 大体のところをケイズはこの言葉で察した。

(俺とリアのことを、サナスは祭り上げるつもりだ)

 なぜヒエドラン王子から離れてまで、今、自分の眼前に立っているのか。他にやりたいことが出来たからだろう。

「俺、ただの冒険者なんだけど」

 ケイズは相手の考えに乗りたくなくて告げる。

 リアと比べている以上、自分としては既に目的を達しているのだった。

「リア嬢と結ばれる、というのは、そういうことなのでしょう」

 真剣な顔のままサナスが告げる。

「ケイズに何か」

 大事なことを決める話を、不本意な形でされている。

 直感で察したリアが殺気を放つ。だが、直接の暴力で解決できるような話ではなくなっている。

 サナスがいなくとも、誰かがそうしようとすると、分かりきっているから自ら姿をさらしているのだ。

「言っている意味は分かる。でも、すごい唐突だと思う」

 自分を祭り上げてどうしようというのか。

 政治などしたことも考えたこともない。

 ケイズは懸念材料を仄めかす。自分はリアと自身の幸せだけを考えていたい人間だ。安住の地を作るため戦うことまでは良い。そこから先は違うのではないかと思う。

「細かい些事は私のような人間がすることとなるでしょう。あなたはその莫大な力で、象徴に居座ってくれればよろしいかと。あそこは誰の国なのか、それが見られる時代ですから」

 サナスも冷静に返した。

「ゴブセンとジエンエントの2城を率いて戦い、あのホクレンに勝ったこと。第1等級冒険者であること、ホクレン筆頭将軍の妹婿となること。この3点はとても大きいのです」

 ただの個人ではいられないということを、サナスが言う。

「ケイズに、このあたりを国にして、王様をしろっていうの?」

 黙っていると代わりにリアが口を開いて問う。静かな聞き方がかえって相手には怖いかもしれない。

「ここが国となった時に、御力を借りたいのですよ、我々は」

 リアの殺気に気づいていないわけがない。それでもサナスが言う。

「イェレスの聖女などはそのつもりで、接近したのではないですか?」

 サナスがさらに指摘する。

 エリスやステラたちのことだ。かなり自分の身辺を分析した上でサナスが話に来ているのだと分かる。

「エリスたちはお友達で、仲間なんだよ」

 リアが口を尖らせる。少なくともリアにとっては、打算ね根ざした関係性ではないのであった。

「リアと一緒になりたいって思った時から、それなりのことは覚悟してる」

 ケイズは静かに切り出した。竜とすら生身で戦っているのだ。大概のことをする覚悟はあった。

 だが、この世は自分とリアだけがいる世界ではないのである。

「ケイズッ」

 リアが驚いたように自分を見る。

「リアと楽しく暮らすためなら、国の1つぐらい、俺は作る。でも、あとは本当にそれが俺達にとって、一番いいのかが問題」

 まだ悩んでいる段階なのだ。ケイズは思っているままを伝えた。

「頭ごなしに否定されるよりはいい」

 肩をすくめてサナスが背中を向けた。

「行くぞ、ジェイレン。我々は、忙しい」

 護衛のジェイレンとともに歩き去ろうとする。

「リア、サナスをやっつけても、何も変わらないから、我慢」

 苦笑して、ケイズは可愛らしい暴れん坊に告げる。

「ううっ、でも」

 リアが短刀に伸ばしかけた手を止める。殴る蹴るだけではすまそうとしていないところがリアらしさだった。

(サナスをやっつけて、どうするつもりなんだろ)

 ケイズとしては、むしろ微笑ましいぐらいなのだが。

「まだ、優しいよ、サナスは。知らずに俺等が引くに引けなくなっちゃう前に声をかけて、下話を、してくれたんだから」

 サナス自身がどうこうしようというよりも、流れに便乗しているような印象をケイズは受けたのだった。

「うーん」

 腑に落ちないながらも、リアはコクンと頷く。

「王様とかするの、ケイズ、絶対に大変だよ?」

 リアが心配そうに言う。

「一緒に遊べる時間、絶対に減るよ?」

 確かに由々しき問題ではあった。

 今度はケイズが頷く番である。

「でも、ダイドラでクラン双角の仲間とか冒険者の仲間、知り合った人を守らないとな」

 自分たちだけで世界は回っているわけではない。いつの間にか、ケイズとリアにとっても、お互いほどではなくとも捨て難い存在が出来ている。

「大事なものとか人をまとめて守るのに、国っていう形は分かりやすい」

 頷くことをリアがしなかった。

「優しいね、ケイズは。私のために国まで作ろうなんて。でも、無理はダメだよ。それに独りじゃないからね。ケイズばっかり大変だと私、すんごく辛いから」

 真剣な表情でリアが言う。

 自分たちの間では話が決まったのであった。


 

   

 

 


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