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地属性精霊術師は風属性精霊術師を可愛がりたくてしょうがない  作者: 黒笠
第3章

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20 バンリュウ出奔②

(しかし、義兄さんも、引き留めれば引き留めた分だけ嫌われるって分かんないのかな)

 自分のことを棚に上げてケイズは思うのであった。

 呼び出してはリアに蹴られたり怒られたりするクロウの姿を目の当たりにすることも多い。だが、怒られても性懲りもなく2人をホクレンに引き留めようとするのである。

「あっ、ドゥガン将軍だ。どうしたんだろ」

 いつものとおり、リアがいち早く客人の来訪を察知して告げる。まだ姿が見えないうちだ。

 遅れて、ノックの音がコンコンと響く。

「ケイズ殿、リア様、将軍閣下がお呼びです」

 5万もの大軍を率いる将軍だが見た目は、色黒、細身の小柄な男性だ。大きい目がじっと1点を瞬きもせずに見つめる。どこか人間離れしているものの、知的な風貌であり、ケイズとしては親近感を覚えてしまう。

「珍しいね、ドゥガン将軍が自分で言いに来るの」

 リアが首を傾げて告げる。

「義兄さんの呼び出しじゃ、無視できないな。リア、行こう」

 ケイズの言葉にリアも頷く。ドゥガン将軍を寄越したということで、いつものようなじゃれ合いの雰囲気ではない、と察したのだ。

「私の友人に関する話なのですよ」

 涼しい声で言い、ドゥガンが先に立って歩く。

 しばらく歩いて、クロウの執務室前にたどり着いた。本当はもうケイズ1人でも迷うことはない。

「閣下がするであろう話、1つ私からも宜しくお願い致します」

 薄く笑って頭を下げるとドゥガンが立ち去っていく。

 ノックぐらいはしていってほしかった。

「なんか嫌な予感がするなぁ」

 ケイズは呟く。

 ぼやくケイズを尻目に、リアがバアンッ、と豪快に木製の扉を開けた。

「もうっ!ダイドラに帰るっ!」

 リアが高らかに宣言した。あらゆる挨拶も前置きもなしだ。

(よほど、不満がたまってたんだなぁ)

 ムン、と薄い胸を張るリアの背中を見て、ケイズは思う。そうしていると綺麗な肩甲骨の線がよく見えるので、ケイズとしては当然の凝視である。

「クスッ、もう、リアさんったら」

 クロウの婚約者ネリスも一緒だった。並んで置いた椅子に腰掛けて和やかに微笑む。

 いつもなら式がどうの、どこぞの要人にケイズを義弟として紹介したいから待て、だのとつべこべクロウが言い募り引き留めて、とてもリアを怒らせるのだが。

 今日は少々、趣を異にするようだ。

「あぁ、そのつもりで、ちょっと」

 とても歯切れの悪い口調でクロウが言い募る。

 簡素な執務室の向こう側に座っているのがケイズにも見えた。

 リアにとっては願い通りの言葉なのだが、素直に喜びづらいようだ。一旦、ケイズの方を見てから、また向き直って首を傾げる。

「何?兄様、どうしたの?もしかして、珍しい、真面目なお話?」

 純真無垢なリアが悪意なくクロウの心を抉る。

 いつもふざけてばかりいたクロウの過去がうかがい知ることのできる一言だった。

「兄ちゃん、いつも大真面目なんだけどな」

 少し傷ついた顔をするクロウ。

 その背中をヨシヨシとネリスがさすってやっていた。仲睦まじいのである。

「ええ、リアさんを溺愛している時以外は、本当に凛々しくて毅然としていて、とっても素敵ですよ」

 ネリスがどこか硬い声で告げる。

 心なしかクロウの背中を撫でる手の動きも実は機械的にそうしているだけのような印象をケイズは抱いた。

「本当、私と婚約したのに、リアさんの前ではデレッとだらしなくて。口を開けばリアさんのことばっかりだし。実の妹さん相手に、本当に」

 わなわなと震えながら言うネリス。顔にはとても硬い笑顔が浮かんでいた。

「いや、ネリス、そのっ、いやっ!」

 慰められていたはずのクロウが再び大慌てである。

 欲をかいては両方をし損じる、というやつだ。

「あっ、ネリスがやきもち妬いてる、可愛い」

 なぜだかケラケラと笑うリアも少し変わっているのであった。少なくともケイズとしては、ネリスが不憫である。

(あぁ、それにしても話がまるで進まない)

 変態でもあるが常識人でもあるケイズは深くため息をつく。

 いつ見てもリアの後ろ姿が可愛らしいのである。今は肩の線に見惚れていた。

「すいません、義兄さん、で、本題は?」

 出来る義弟でありたいケイズは義兄クロウに助け舟を出した。

 助かった、という顔でクロウがうん、と1つ頷く。

 心象が少しでも良くなってくれれば嬉しいという打算がケイズにはあるのだった。

「いやな、お前とケイズの婚約に伴って、兄ちゃん、シュバルトにランドーラ地方への侵攻をやめさせただろう?」

 クロウがさらっと言う。

 実際は大変なことだ。一国の侵攻計画を圧力だけで止めてしまったのである。帝政シュバルトの現皇帝も若く、ケイズとは違った意味で義兄弟と自称して慕っているから出来たことだという。

(あんなところにも、知らないところで恋敵がいた)

 ケイズは思い返すにつけてヒヤリとする。

 リアのこともクロウと義兄弟になりたいからという理由で狙っていたらしい。順調にリアが帰国していたら危なかったかもしれないのだ。

(でも、それが今回の呼び出しとなんの関係があるんだろ)

 ケイズは疑問に思うのだった。リアも同様で可愛らしく小首を傾げている。

「身内だしな、もう同盟みたいなもんだからってな。実際はもっとちゃんとした通達を送ったけど」

 クロウの言葉にケイズは頷く。いつもは怒らされてばかりのリアですら、あのときは兄にとても感謝していた。

「奴も、リアさんを義理の妹だと思って大事にしますって納得していたけど」

 くどくどしくクロウが言う。

 いい加減、本題に入って欲しい、とケイズは切に思うのであった。

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