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地属性精霊術師は風属性精霊術師を可愛がりたくてしょうがない  作者: 黒笠
第3章

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19 バンリュウ出奔①

 ケイズとリアの婚約は軍事国家ホクレン筆頭将軍クロウ・クンリーの名で、周辺国へ大々的に広められた。

 奇しくもエリスらがクロナガスダイルと格闘していたのと同時期であり、ケイズとリアとしてはまだ、彼らの奮闘を知る由もない。

(嬉しかったけど、忙しかったな)

 つい二日前にも婚約の式典が大々的に行われたばかりであり、はしゃぎ過ぎた義兄のクロウが裏ではリアに折檻されていた。

 式典の本番では、ケイズもリアもカチコチに緊張して、ただ置物として座っているしかなかったのだが。一応、2人共きちんと正装することとなって、リアの方はもちろん、ケイズも真新しい茶色のローブに着替えさせられた。

(初対面のときのせいで、すっかり身だしなみはダメなやつって評価がついちゃったからな)

 そこは大いに反省するケイズなのであった。

「ぷぅ」

 2人のために設けられた軍営の客室で、リアが頬を膨らませる。

 リアの部屋は暮らしていた当時のものがそのまま残っているらしい。自分と一緒にいたいということで、戻らないのである。

(ふふっ、もうすっかり公認の夫婦)

 ケイズはそれなりの後ろ盾を得た上で阿呆なことを思うのだった。

「どうかした?」

 ケイズは穏やかな心持ちで尋ねる。心にゆとりがあるのを感じていた。

 本当は訊くまでもなく、頭では分かっている。

 リアが不機嫌なのは、まだダイドラに戻してもらえないからだ。早く帰りたくてウズウズしているのだろう。

「兄様が邪魔する。ケイズも怒んなきゃだめだよ。兄様は、すぐ調子に乗るんだもん」

 呟くとリアがペチペチとケイズの背中を叩いてくる。どうやら一緒になって怒ってほしいらしい。

(こんなに機嫌が良いから、怒るって心情つくるの、難しいんだよなぁ)

 なんなら叩かれることすら嬉しいのである。

「大丈夫だよ。そこは義兄さん、あ、義兄さんっていいな。じゃなくって。確約してくれただろ?理解もしてくれたし。ちゃんとダイドラには戻してくれるよ」

 ケイズは苦笑いして応じる。

 流石にホクレンの軍属とされることはないだろうと思っていた。一度、その話をしたきり、もう促されることも強要されることもない。

(やっぱり、身内を1箇所に固めすぎるのも多分、この国には良くないんだろうな)

 なんとなくケイズは思っていた。

 ホクレンの筆頭将軍の地位は世襲なのである。

(将来的に俺とリアの子供が跡目争いの種になりかねないって、世間的にはそうなんだけど、ふふふふふ)

 自分とリアの子供、と想像するだけで、心の内側で気持ち悪い笑みをこぼしてしまうのだった。

(それに、ついに、リアの兄弟を義兄さんって、最高だ)

 頭のもう片側の部分でも阿呆なことを考えていた。

 ケイズとしては、どこをどう取っても幸せの絶頂にいるのである。

「こういうときにのんびり、次にどうするか。例えばダイドラの家をどうするのか。建て増すのか建て直すのか、とか。子供は何人にするのか、とか。考えておくんだよ」

 ケイズは既に楽しい新婚生活に想いを馳せていた。当の愛するリアとの会話がまるで噛み合っていないことにすら気付けないほど。

「お馬鹿っ!」

 リアがペチィッと愚かになったケイズのおでこを叩く。

「ヒエドラン王子が軍隊を連れて、ダイドラの近くに行ったんだってマカントも言ってたでしょ!攻められるかもしれなくて、とっても危ないんだよ。私、心配なの、皆が」

 リアがケイズの両頬をつまんでフニフニと痛めつけてくる。

 いくら怒ろうとただ可愛いだけだ。

「義兄さん、帝政シュバルトを留めてくれたろ。挟み撃ちならともかくさ、ヒエドラン王子の単独指揮じゃ、ウィリアムソンとガイルドの軍にとって、なんの脅威にもならないよ。あの人、軍才ないし」

 ケイズは頭の中で地図を広げつつ告げる。

 ウィリアムソンとガイルドの軍も強化されており、今、対峙している両軍は数の上では互角なのだった。エリスやステラを通じて、イェレス聖教国からの支援もあって武装も充実している。

 後ろ盾も何もない状態でやってきたヒエドランの軍勢ではどうすることも出来ないだろう。

(突破力のある、武人でもいれば別だけど。ダン・ラダンも死んだって聞くし)

 心配する要素は何もない、とケイズとしては思うのだった。

「でも、ケイズ、6万だよ、6万!いっぱい兵隊いるんだよ」

 更にリアがぐいと身を乗り出して言い募る。

 可愛らしい顔が眼の前に迫り、いつもどおりケイズは幸せだった。

 確かに言っていることは正しい。6万というのは大変な数だ。

「ふむ」

 ケイズは頷いた。

「確かに数は馬鹿にならないけどさ。指揮とか質とかだって大事だっての、リアも知ってるだろ?」

 全てがしっかりして初めて強力な軍と言えるのだ。

「うん、それはそうだけど」

 リアも軍事国家ホクレン育ちなのだ。戦のことはよく分かっている。

 コクンと素直に頷いた。

(分かっていても、エリスとかフィオナとかステラとか。友達が心配なんだな、可愛いなぁ)

 ケイズにはリアの気持ちが手に取るように分かった。リアとしては兄のせいで、よりにもよって大事な時期に引き離されてしまった格好だ。

 自分もまた戻る以上はダイドラ近辺の情勢は気にかかる。

(でも、この幸せな時間をとりあえず楽しみたい)

 ケイズはため息をつく。

「実際問題、いつまでもダイドラを空けてはいられないんだけどな」

 あまりリアの顔を曇らせてばかりもいられないので、ケイズは告げた。しおれた花のようになってしまうのも悲しいのである。

「ね、兄様を2人でやっつけて、早く出発しよ」

 そうするとまた、ぱっと嬉しそうな眩しい笑顔でリアが告げるのであった。

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