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地属性精霊術師は風属性精霊術師を可愛がりたくてしょうがない  作者: 黒笠
第3章

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SIDE⑦エリス〜ダイドラの危機⑥

(人に話して楽になった)

 エリスは聖女の自分にも人並なところもあるのだ、とそう思いつつ、ステラとともに冒険者ギルドの待合いスペースへと向かう。

 人の出入りが裏手へ行く前よりも盛んになりつつあった。

 ジード以外にも身軽な者がダイドラの冒険者の中にはいる。今は索敵をしてきてくれた者たちから、クロナガスダイルについての報告をギルドマスターのレザンが受けているところだった。

「エリスさん、ステラさん」

 フィオナが自分たちのところに駆け寄ってきた。ジードのことがあるからか、どこか気まずげな顔だ。

「レザンさんが御二人にも」

 集合をちょうどかけつつあるところだったらしい。自分たちに気付いたレザンも目配せしてくる。

 いよいよ作戦に取り掛かるということだ。

「はい」

 エリスは微笑んで応じることが出来た。もう割り切ったのである。ステラも同様だ。ほほ笑みを浮かべていた。

 次第に冒険者たちが待合いスペースに集まってくる。

「さて、始めようか」

 予定していた面子が集まったのか、レザンが声を張り上げて切り出した。

「どうやら、奴は一旦、ランドーラ湿原に落ち着いたらしい」

 ジードが後を受けて告げる。

「今もランドーラ湿原にいるが、いつ気まぐれでこの町に向かってくるかも分からん」

 更にジードが言う。魔獣の気の向きようなど確かに読みようもない。

「迷惑ですね」

 顔をしかめて、エリスは端的に口を挟んだ。

「ええ、現にどこかに巣でも作りたいのか。陸をうろうろ歩き回っている時間も長い。おかげで一般人が近くを通るのは極めて危険だ」

 ジードも一瞬、エリスに微笑みを向けてから、クロナガスダイルの厄介な現況を知らしめる。

 他の一同からも呻くような声があがった。

「まずは一旦、タソロ村に移動する。そこを拠点にして罠を仕掛け、クロナガスダイルの動きに合わせて迎撃する」

 穏やかな口調でレザンが告げる。

(確かに私たちから近づいて、戦場をランドーラ湿原にしたほうが、町への被害も少ない)

 エリスもレザンの言葉に納得してコクコクと頷く。

 元より準備などは出来ている。

(とりあえずこの杖と、私自身がちゃんとしてれば、後は大丈夫)

 エリスは同じく既に準備を整えていたステラとともに歩いてダイドラの街を後にした。

 他にも三々五々、冒険者と思しき面々が町を出ていくのを目の当たりにする。もともと個人での活動が中心となる冒険者たちなのだ。

「では、お二人も気をつけて」

 オルストンとエメ、ルゥが見送るため、城門に来ていた。3人は第5等級に達していない。居残り組なのだった。

「任せてください。私がいれば大丈夫」

 エリスはどん、と薄い胸を叩いて宣言してみせた。

「昨日と言ってることが違うじゃないですか」

 ルゥに苦笑いで、返されてしまう。

「元気が出たの。責任感もね」

 冗談めかしてエリスは告げて3人を残してタソロ村に向かった。

 数時間をかけて歩き、タソロ村に至る。

 既に住人は避難していたものの、慌てて避難させられたのか、手頃な民家を覗き込むと洗い物がそのままだったり、洗濯物が散らばっていたりと生活の残滓が垣間見えた。

「迷惑ですね」  

 ずっとあれやこれやと、自分の雑談の相手をしてくれていたステラが告げる。

「人間には人間の、魔獣には魔獣の暮らしがある。そりゃ、魔獣の都合は人間には迷惑なのだけどね」  

 エリスは歩きながらしみじみと告げる。

「魔獣も魔獣でただ生きてるだけなのかも。でも、どこかで人の暮らしとぶつかる。人も人で不幸にはなりたくない。当たり前よね、私だってそう、ある意味、人も魔獣も平等なのよね」

 誰も、或いは何も悪くはなくとも、良くない結果に至ることなどいくらでもあるのだ。

(私とフィオナさんもそう、好きな人がたまたま一緒だった。私には嫌な結果でも、別にフィオナさんが悪いのでもない)

 エリスは我が身と照らし合わせて痛感する。

 それぞれの足の速さも違うので、集合もバラバラではあるものの、着実に少しずつタソロ村に人が増えてきた。軍隊とは違うのである。装備も服装も何も統一はされていない。

 イェレス聖教国の軍とも行動をともにすることがあるエリスとしては目新しかった。

「では、各自、職業ごとに集まってくれ」

 少し遅れて姿を見せたレザンがまた音頭を取る。

「では、私は力自慢とご一緒してきますよ」

 冗談めかして告げるステラ。

「気をつけてね。いくらあなたでも、相手はとっても大きいんだから」

 エリスはここでステラと別れ、告げるのだった。

 クロナガスダイル討伐隊のうち、エリスは魔術師部隊に同行することとなっている。魔術師でもあるレザンも一緒だ。

「ここにいる合計20名の魔術師で、合体魔法のファイアーバードを放とうと思う。ただでさえ高威力な上、エリスさんの強化も乗せればクロナガスダイルといえど、ただでは済まないだろう。初歩だから、ここにいる皆が習得しているということも把握している」

 レザンが魔術師一同を見回して告げる。逆に言えばファイアーバードを撃てないものは呼ばなかったということだ。

「当たりますか?そんな大技が。あれは当たればデカいけど砦とかそういう動かないのを狙う魔術でしょう」

 ポツリと誰かが口を挟んだ。陰気そうな顔の痩せた男である。同じ意見の者も多いようで上下に首を動かす者も多い。

「そこで、落とし穴を大急ぎでいくつか掘っている。この村の近くでね。前衛職やその他力自慢たちが穴掘りをしてくれているよ」

 レザンが穏やかな口調で言う。

「それなら」

 先の質問を発した男が納得した様子で頷く。

「単純だけど上手くいくんじゃないかしら」

 エリスは口に出して呟く。

 単純であるということは、相手にとっても妨害しづらいということだ。

 穴を掘ることもファイアーバードを放つこともクロナガスダイルには防ぎようもないのではないか。

 また嬉しいことに自分が口を開くや皆が注目してくれた。陰気な男たちの集団だが聖女である自分を受け入れてくれているようだ。

「私が全員を強化したうえでのファイアーバード。どれだけ威力が出るか、ちょっと想像もつきません」

 笑みを作ってエリスは告げる。さらに一同を見渡した。

 大きな魔獣との戦いは怖い。少しでも味方を力づけることが出来ただろうか。

「ただ大っきいだけのワニなんて焼き尽くしちゃってくださいね」

 エリスは告げて、20人の魔術師から笑顔が返ってきたことに満足するのであった。


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