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地属性精霊術師は風属性精霊術師を可愛がりたくてしょうがない  作者: 黒笠
第3章

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SIDE⑦エリス〜ダイドラの危機④

 レザンの言葉を皮切りに皆が動き始めた。

 だが、『戦力の洗い直し』と言われても、実際に出来るのはフィオナたち受付、事務職員ぐらいのものだ。

(退屈)

 休憩場所の椅子に座り込んで中心となって書類と格闘しているフィオナをエリスは眺めている。

 するとジードが事務方の方へと近寄っていき、何事かフィオナに声をかけた。嬉しそうに顔を上げて、フィオナが微笑み、言葉を返した。

『何か手伝おうか?』・『大丈夫です』そんなやり取りではないか。やはり仲睦まじくてとてもお似合いの2人に、エリスには見えてしまった。

 年少のエメやルゥが忙しく近くを駆けずり回っていることすら、どこか似つかわしく思えてしまう。

(自分の出番は、実際の戦闘とか、その直前と、あと直後と)

 エリスは思うも、ふと自分以外はなんだかんだと皆、できることをしていることに気付く。友人のステラですら他の前衛職の人と何か言葉を交わしたり装備を確認し合ったりしている。

(なんなのよ、私)

 自分は必ずしもダイドラの人間とは言い切れない。イェレス聖教国の聖女にして、第1等級の冒険者という肩書だ。

 自分の能力に対する信頼は揺るがないし、現在の処遇についても不満はない。事務的な面では門外漢の自分が出しゃばるのは違う。間違っている。

(今、出来ることが無いから、もどかしいだけよね)

 半ば自分に言い聞かせるようにして、無理矢理、納得させることとした。

 怪我を誰かがしてからの回復か、戦う前の強化魔法か。自分に出来ることを並べ上げながら、必要な場面が来ればいつもどおり最上級のものをかけようと決意した。

(大丈夫、私は何も間違ってない。今までだって、そうやってきたんだから)

 いつもと変わらない自分でいようと思う。

「エリスさん」

 決意を固めていると、ギルドマスターのレザンから声をかけられた。年端も行かない小娘の自分にも丁寧な話し方だ。

(あと、2,30年、若ければ、きっと素敵な人だったのかしら)

 他国の聖女であるから実際は丁重なだけかもしれない。それでもエリスは素直に敬意を喜ぶ。有り難い気遣いだった。

「はい?」

 ゆえにエリスも愛想よく微笑んで、レザンの方を向く。

「クロナガスダイルは火に弱い。細かい点はまだ決めていませんが、方向性としては、ダイドラにいる魔術師総出で、炎魔術を放ち、焼き尽くそうと思う。無論、私も出る。エリスさんには魔力強化の術で援護をお願いしたいのです」

 穏やかな笑顔のまま、レザンが物騒なことを依頼する。

 当たり前に、冒険者でもあるとはいえ、他国の聖女でもあるエリスの力を使えるわけではない、と。形だけでも取ってくれるのがエリスとしては嬉しい。

(それに、単純だけど、合理的で良いと、私も思う)

 自分がいれば実行可能でもある。敵の弱点をつくのは基本中の基本だ。

(何人いようと私が全力以上を引き出してあげる)

 グッと握り拳を作って、エリスは気合を入れた。

 ケイズとリアがいれば、と頭の片隅では思ってしまう。イワダコ討伐の時もそうだったが、自分がケイズとリア、あの2人のどちらかを強化すれば、ただでさえ恐ろしい破壊力がもっと恐ろしいことになる。

「分かりました。私の力の限り、魔術師の皆さんの魔術を強化します。きっと、驚くぐらいのものになりますよ」

 胸を張ってエリスは告げた。

 自分の能力への信頼は揺るがない。魔力量だけならケイズやリアにも引けを取らないのだ。膨大な魔力を他人の魔術という形でクロナガスダイルに叩き込むこととなる。

「では宜しく。エリスさんには魔術師たちと行動をともにしてもらうこととなる」

 告げてレザンが去っていく。今度はステラや前衛職の人々と打ち合わせをするつもりらしい。ジードもいつの間にかフィオナから離れて、同じ弓手たちと何やら話し込んでいる。

 エリスは自身の強化魔術の威力と持続時間から、どの時期にかけるべきかを勘案しようとする。

(まだ、ちょっと、決められない、か)

 どう仕掛けるつもりなのか、他が決まらないと自分も決められなかった。

(人数がさほどではない、そう思う。クロナガスダイルみたいなのと対峙出来る魔術師だって、そうそう多くはない)

 中途半端な戦力ではクロナガスダイルに潰されて終わりだ。無駄な犠牲を出すこととなる。だから、第5等級以上の冒険者だけで挑むこととするらしい。つまりは少数精鋭だ。

 招集可能な冒険者を洗い出すことにフィオナたちが忙しくしているのだ、と聞くでもなく聞いていて、エリスは知ったのだった。

 一通り考えて把握したように思うと、エリスは冒険者ギルドダイドラ支部の裏口側へと回る。本格的に動き出す前に集中力を増すため、頭の中を空っぽにしておこうと思ったのだ。戦う前には何らかの集中をするようにしていた。

(今の私には雑念が多過ぎる)

 エリスは瞑想しようとして、スッと目を閉じる。

 集中する前に人の足音が近付いてきた。

(あぁ、もう、なんだっていうのよ)

 心の内側では理不尽なことを思いつつ、エリスは目を開く。

 そして慌てて積み上げられた木箱の裏に隠れることとなった。

(よりにもよって、なんで?)

 頭の中は混乱させられてしまった。人気のないギルド支部の裏。現れたのが雑念の源であるジードとフィオナの2人だったからである。


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