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地属性精霊術師は風属性精霊術師を可愛がりたくてしょうがない  作者: 黒笠
第3章

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SIDE⑥リア〜再会②

「あら、また、クロウ兄様、リアに迷惑かけたの?」

 新しい涼しげな声が響く。

 リアの私室に、黒髪のスラリとした女性が姿をあらわす。大人びていて、自分より幾分背も高いのだが、顔立ちがよく似ている、とリアはいつも思っている。身につけているのは、水色のレースをふんだんにあしらった、神官服だ。

「セイラ姉様っ!」

 リアは愚兄のクロウをどかして、美しいあこがれの姉セイラに飛びついた。

「あらぁ、リア、久しぶり、元気?大変だったわねぇ。それにしても相変わらず可愛いんだから」

 セイラもニコニコと笑って、リアをギュッとしてくれる。

 ホクレン筆頭将軍を代々務めるクンリー家では、軍事国家ホクレンの発足以来、北方の山中にある水の神殿と深い関係を持ってきた。初代筆頭将軍の妻が水の神殿縁の女性だったとのこと。その縁で、長女を巫女として水神に仕えさせてきたのである。

 故にセイラもまた水神の巫女をしており、いつもは水の神殿にいる。水色の、水流を象った神官服も巫女としての正装だ。

「姉様、どうしたの?神殿、いいの?」

 リアは多忙の姉を気遣って尋ねる。

 少し手紙のやり取りをしただけでも、毎日、神事や何やで忙しい、と書かれていた。

「だって、リアの結婚?婚約?でしょ。そりゃ、恋人の男の子を見たくもなるわよ」

 セイラはクロウと違い、お馬鹿をしないからいつも大好きだ。

 リアは自分と同じく、決して豊かではないセイラの胸に顔を埋める。

「相変わらず甘えん坊さんねぇ。本当にお嫁にいけるのかしら?」

 セイラが優しく頭を撫でてくれる。

「うん。ケイズのことは、もっと大好きだから大丈夫だよ」

 顔を上げてリアは告げた。口に出してみるとさすがに照れ臭い。

「そんなぁ、私、ヤキモチ妬いちゃう」

 冗談めかしてセイラが返してくれる。本当にヤキモチを妬くであろうクロウと違い、あくまで冗談なのだ。喜んでくれているのだ、とリアも分かり、嬉しくなった。

「じゃあ、そのケイズ君が来るまで一緒ね。ね、精霊の見せっこ、する?」

 水の神殿に仕える巫女であるセイラだが、強力な精霊術師でもある。

「うん、する」

 リアは即答し、身を離した。

 セイラの身に宿す精霊の水蛇は、陽光を弾く姿がとても美しくて、リアも大好きなのだ。

「リア、俺も」

 クロウが遠慮がちに口を挟んでくる。

 まだ部屋にいたのだが。ネリスとただイチャイチャしているだけなのでリアは無視していたのである。

 ネリスがクロウから解放されて未来の義姉セイラに挨拶を始めた。セイラも可愛らしい兄の婚約者を見て嬉しそうに応じる。

「兄ちゃんもほら、精霊、見てもらいたいなーって、セイラとも久しぶりだし」

 クロウがリアに向かって言う。

 セイラに対してもクロウの溺愛は酷かった。しょっちゅう鬱陶しく言われていたものだ。滅多に帰って来ないのも兄がしつこいからである。

「兄様はだめ。私の虎と似てるからだめ」

 舌を出してリアは告げた。本当は似ていなくても駄目なのだが。

 クロウには執務室にいるよう厳命し、リアはセイラとともに練兵場へと向かった。

「あれ、セイラ様だ」

「お美しい、神々しい」

 軍営で働く人々がすれ違うたびたちどまって、セイラを讃える。

 美人ではあるが、水の神殿に仕える巫女であるため、誰とも結婚できないのだが。本人は割り切っているらしく、恋愛や結婚について愚痴を零しているところすら、リアは見たことがない。

(私、次女で良かったかも)

 ケイズのことを好きになっても、結婚をしてもいけない身ではなくて、本当に良かった、とリアは思う。

「さて、久しぶりに暴れさせちゃおうかしら」

 いたずらっぽい笑みを浮かべて、セイラが水蛇を顕現させる。

 リアはその水蛇と風の虎でどう遊ばせようかと考えていたのだが。

 その水蛇が凍りついた。

 氷の豹が跳ねるようにあらわれる。

「リア〜、セイラ〜、兄ちゃんも混ぜてくれ〜」

 遠く執務室の窓からクロウが言う。呆れるほどの射程に対しての威力だが、まるで空気が読めていない。リアの射程よりさらに外なのだ。

「クロウ様っ、さすがにいけませんっ!」

 ネリスですら、かなり呆れているようで大きな声を出している。

「ダメっ!邪魔しないでっ!」

 幼い頃から無理に遊びに加わろうとしてくるクロウに、幾度となく浴びせてきた抗議である。いつもセイラと遊んでいると邪魔ばかりしてくるのだ。

「もうっ、仕方のない兄様ねぇ」

 セイラが苦笑いしている。

 かつて、セイラが水の神殿に仕えねばならぬと、初めて知ったときのクロウ。どうにか反故にできないものかと散々ゴネていたのをリアも思い出す。

 とにかく妹離れできない兄なのだ。セイラにも散々困らされた過去がある。

「ケイズ君が来るまで、しばらく本拠にいるから。リア、大丈夫よ。また遊びましょ」

 心強い味方の発言にリアはホッと胸をなでおろす。

 本当にいざとなればクロウから自分とケイズを守ったり、口添えしたりしてくれるはずだ。

 国境からホクレンの本拠まではケイズや自分の足でも3日はかかる。報せが早く届いたのは狼煙を使ったからだ。

(国の連絡網まで使ったんだから、兄様もケイズにお馬鹿をしないと思うけど)

 また、単純に3日も姉と久しぶりに過ごせるのがリアは嬉しかった。

 果たして夕食も一緒にとり、風呂にも入った後の風呂上がり、リアはセイラに髪を整えてもらう。

「思ったより、ちゃんと髪を整えてるのね。小さいときはいつもグチャグチャだったのに。いつの間にか女の子らしくなって、偉いじゃないの」

 櫛を使いながらセイラが言う。

「ダイドラで、姉様みたいになって、教えてくれたお友達がいるの。一緒に暮らしてたんだよ。でも、好きな相手に告白出来ない臆病だから、私、焚きつけたの」

 リアはフィオナのことを説明してやった。

「何それ、面白そう。もっと詳しくお姉ちゃんに聞かせて」

 神殿の中にいて、外のことをなかなか聞けないからか、フィオナやエリスのことなど、興味津々のセイラである。

 リアは冒険でのことなど、楽しく思い出して聞かせた。

 あっという間に2日間が過ぎる。

 2日目の夕刻、軍営が騒がしくなった。

 ケイズを連れている、というカスルの親衛隊が戻ってきたのだ。自分の想像以上に急いで、半日をまいてくれたらしい。

 100名の中に、2本の杖を背負った人物がいる。ピリピリするような魔力を感じた。

「ケイズッ!」

 リアは声をあげた。茶色いローブも顔も見間違えるわけはない。

「ケイズッ!」

 もう一度叫び、リアは風のように私室から駆け抜けて、親衛隊員に囲まれるケイズの元へと向かう。

 ケイズも気付いた。

 一瞬、目を瞠ってから腕を広げる。抱きしめてくれようというのだ。リアも腕に飛び込もうとし。

「いけませんっ!リア様っ!」

 カスルの鋭い叫び。

「えっ」

 思わぬ方向からの制止に、思わずリアは止まってしまう。

 ケイズも驚いている。でも、見れば見るほどケイズがケイズなので、リアは感極まってぶわぁっと涙を溢れさせてしまう。

(でも、なんで?何がいけないの?)

 リアは疑問に思い、カスルの顔色を窺う。

「ケイズ君は、もう長く、風呂にすら入っていません」

 思わぬカスルからの報告である。

 要するに不潔で臭いから駄目だと言うのだ。

「え、うん。じゃあ、ケイズ、お風呂に入ろう」

 よって、リアも至って単純な解決策を提示した。汚ければ洗うだけのことである。

(それに確かに臭う)

 冷静になって、リアの鼻も異常を感知するのであった。

「混浴?」

 すかさず公衆の面前で、阿呆なことを言ってくるのもやっぱりケイズだ。

「いいよ」

 恥じらいつつもリアは答え俯く。本当に恥ずかしいが、もう結婚するのだから仕方ない。

「ダーメーだっ!」

 邪魔な兄が来た。ケイズを睨み、ネリスを引き連れている。

「とっとと、一人で入って来い。軍営の風呂を貸してやる」

 しっしっ、とクロウがケイズを追い立てようとする。

 無念そうなケイズを見て、リアはクスリと笑みをこぼす。

「これから、いくらでも入れるよ」

 リアはケイズに身を寄せて、そっと耳元で囁く。

 確かに本当に臭い。苦笑いしつつ、耳元まで真っ赤になったケイズを、リアは愛おしく思うのだった。

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