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地属性精霊術師は風属性精霊術師を可愛がりたくてしょうがない  作者: 黒笠
第3章

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SIDE⑤ノレド〜風蝶討伐②

 ガタン、と音が立て続けに響く。

 目を向けると、何人かが座っていた椅子を転がしたままに逃げ出すところであった。ケイズに怯え過ぎである。竜と戦った、ということも聞き耳を立てていて聞こえていたのかもしれない。

「これなんか、良いかもしれない」

 周囲の喧騒など我関せず、のケイズが、杖で高所にある依頼書を1枚、叩き落している。床に落ちた紙を拾い上げて自分に見せてきた。

 風蝶ウィンディーモルフィン討伐の依頼である。ミュング村という山村の長からの依頼だ。

「風の蝶ウィンディーモルフィンか。上級らしいけど、どういう魔獣なんだ?」

 ノレドは依頼書に目を通しながら尋ねる。

 どうしても上級とはいえ、他国の魔獣となると馴染みが薄い。

「分からない」

 ケイズも首を傾げるのでノレドはこけそうになった。

 リアとは一体どういう会話をしていたのだろうか。

「でも上級で、場所が霊山シェーレスに近いから」

 自分たちにとっての必要条件は満たしていると言いたいらしい。深い考えではないようだが、上級魔獣の討伐依頼自体がそもそも多くはなかった。

「相手は風属性か。またお互い同じ属性の魔物が獲物だな」

 了解した、と伝えるつもりでノレドは話を先へ進めた。

 前回は砂鯨と地竜、今回は風蝶と風竜だ。偶然にしては出来すぎている気もした。

 ケイズが首を傾げる。

「地竜は本当に強かった」

 唐突にケイズが切り出した。

 どういう話がしたいのか分からず、ノレドは続くケイズの言葉を待つ。

「ああいう、魔力の強い魔獣は地域全体に影響を及ぼすのかもしれない。同じ属性の魔獣が引き寄せられて集まってくる」

 この場合は地竜に砂鯨が、風竜に風蝶が引き寄せられたとでもいうのだろうか。

 ノレドはケイズの言葉を向けて背中にうすら寒いものを感じた。自分が戦うわけではないが、ケイズの挑んでいる存在の大きさを思い知らされたような格好だ。

「まぁ、それを仕留めたらどうなるのか。少し興味がある」

 薄く笑ってケイズが言う。はた迷惑かつ罰当たりな男である。

 アイナのところへ行って依頼を受理すると、ギルド支部を出るなりケイズが図書館へ行きたい、と言い出した。

 ウィンディーモルフィンについて調べておきたい、という。

「上級魔獣もピンキリだし、厄介な特性を持っていたら厄介だから」

 真面目くさった顔でケイズが言う。

 ミズドロバの図書館は冒険者ギルド支部から徒歩数分の位置にある。冒険者ギルド支部より幾分大きいレンガ造りの建物だ。

 入館料は無料、出入り自由であるのを良いことに、ケイズがスタスタと歩き、魔獣の図鑑『帝政シュバルト魔獣一覧』を手に取る。パラパラと頁をめくってウィンディーモルフィンを探す。

(こういうの書く人ってすごいよなぁ。やっぱ名うての冒険者か書いてるのかな?)

 ノレドは横から図鑑を覗き込みながら思う。

 時折、リア以外は離れろ、と言わんばかりにケイズからものすごく嫌な顔を向けられた。

(俺だって、エリスさん以外と密着するのはごめんだ)

 内心で反駁しつつも、ノレドは図鑑を眺め続ける。

 やがて、目当てのウィンディーモルフィンを扱った頁に至ることができた。

 ウィンディーモルフィン、巨大な蝶の魔獣だ。体長は羽根を広げると30メイル(約10メートル)に達し、羽の鱗粉と風魔法が厄介だという。

「うん、大した敵じゃないな」

 ケイズの強さで言っても何の参考にもならないのである。

「飛んでるけど、馬鹿みたいに大きいから、不意討ちを食らう心配もないと思う」

 淡々と告げるケイズ。弱点などもないか、念入りに読み込んでいるがノレドの目で見てもなさそうである。

 2人で図書館を後にした。

 そのまま真っすぐにケイズが街を出て霊山シェーレスへ向かおうとする。

「わりぃ、荷物だけ取りに戻らせてくれ」

 ノレドも馬鹿ではない。ケイズより先にミズドロバへと戻れたので、荷造り自体はすでに済ませてあった。ただ取りに行けばいいだけなのだが。

(まったく、その荷物を取りに行く時間もくれねーんだからな)

 ノレドは苦笑してから宿に戻り、整えておいた荷物一式を背負う。

 ぼけーっとケイズが宿の前で立っていた。

「わりぃ、待たせたな」

 謝罪してノレドはケイズへと近づいていく。ただ機嫌は悪くないらしく、荷物の半分ほどをケイズが請け負うこととなった。

「リアがさ」

 荷物を受け取ったケイズが、唐突に切り出した。

「うん?」

 一体何の話をしたいのか想像もつかないまま、ノレドは聞き返した。

「初めて会ったときは、旅をするにも何にも持ってなくて。野宿ばっかの旅を最初にしたんだけど。でも最近はパンパンの小袋でいろいろ着替えから何から持つようになった。多分、薄く化粧も始めたと思う。なんか良い匂いもする」

 ケイズがとうとうとリアとの思い出を語り始めた。無表情だが、虚空にまるでリアの姿を思い浮かべているかのようだ。

「それがどうしたんだよ」

 言いたいことだけを言い、黙り込んでしまったケイズにノレドは尋ねる。

「うん?ただの惚気話。あんたはまだエリスとなんの思い出もないから羨ましいだろ」

 先に歩き出し背中を向けてケイズが告げる。

「なにぃ?」

 さすがにノレドは色をなした。随分、淡々とけんかを売ってくる男である。

「あんたもこの遠征をうまくやって、第2等級になって、もう1つ上げて、エリスと同じ第1等級になれば、こういう思い出も作れるかもしれない」

 いくつもの段階があるということを知らしめるような、嫌な言い方だ。

 待たされたことが気に入らなかったのかもしれない。悪いと謝罪したことも被害者意識を刺激したのだろう。

「分かった、分かった」

 喧嘩になれば勝てるわけがないのである。ノレドは軽くあしらって出発することとした。

 2人でミズドロバの町を出て、霊山シェーレスを目指す。

 ミズドロバから北方へ進んだところにある大山である。

 スタスタと歩くケイズの後ろを日が暮れるまで進む。夜になっても進もうとするのをノレドは止めて眠らせることを3度繰り返した。

(荷物を持ってきておいて良かったな)

 ノレドはげんなりとした。つまり、3日間は日中ずっと歩き通しだ。危うくまた小麦だけで過ごさせられるところだった。

「雲の動きが速い」

 空を見上げてケイズが告げる。

 言われて見ると空に突き刺さるような山がそびえ立っていた。

 霊山シェーレスだ。

「あの山の何処かに、風竜がいるんだな」

 なんとなくノレドは相槌を打った。雲の動きが速いのは風が生じているからだ。なんとなく風竜を連想させられた。

 霊山シェーレスの麓には森が広がる。緑の裾野が見えた。この緑の中には目的地であるミュング村があるのだ。

「これ」

 森に入る前にケイズが茶色いお面を渡そうとする。歩きながら手でコネコネと作っていたことを思い出した。

「なんだよ、これ。泥を固めたのか?」

 ノレドはお面とケイズの仏頂面とを見比べて尋ねた。

 ケイズが頷く。自分でもお面をはめて見せる。

「毒鱗粉を吸わないように、俺の魔力で顔面を守るんだ」

 ノレドは嫌でたまらず、茶色くなったケイズの顔面を眺める。

「あぁ、エリスさんのお手製なら最高だったな」

 思わずノレドは口に出していた。

 すかさずケイズが言う。

「俺もリアのお手製のお面が欲しい」 

 

 

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― 新着の感想 ―
[良い点] どうなることかと思いましたが、なかなかいいパーティーですね。でも、お互い好きな人の話ばかり( ^∀^)笑 そういうところも合っているのかもしれませんね!(^^)
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