51 クラン双角参加試験〜エメとルゥ④
「むぅ」
ふくれっ面をしているリアの頭をケイズはよしよしと撫でてやった。くすぐったそうにリアが身動ぎする。
「じゃぁ、俺らも行こうか」
ケイズとリアも連れ立って、目的地に最寄り、ダイドラの北門へと向かわねばならない。一応、試験官役なのだ。エメ達の様子を遠目に見て、戦いぶりや働きぶりを確認せねばならない。
「うん」
機嫌を直したリアが元気よく頷いた。
バーナースカンクが生息してるのは、ジエンエント城を東に越えた先のソーントン平原であり、カル川で隔てられた先には、帝政シュバルトとの国境コントラット平原が広がる。
バーナースカンクは人気のない草地に穴を掘って巣を作るという。今回は街道近くに巣を作ってしまった個体がいて、駆除依頼が出ていたのを、クラン双角として受けておいた。
ソーントン平原まででもかなりの距離がある。丸一日は歩くことになるだろう。
当然、ケイズとリアも同様だ。
「ニーデルを出たときの旅、思い出すね」
ダイドラ北門を出たステラたち3人を遠目に捉えて歩きつつ、リアが耳元に顔を寄せて囁いてきた。
「あのときも、二人っきりでいっぱい野宿したね。私、まだ緊張してた頃」
あれで緊張していたらしい。思い出してつい、ケイズは口元を緩めてしまう。
時折、出くわす下級魔獣を先頭のエメが切り倒していた。まだ、小鳥やネズミといった下級魔獣ぐらいなのだが。
(単純な剣術とか武術だけならオルストンより強いかもしれないな)
ケイズはエメの剣技を見て思った。進んでいる間にも貪欲にステラに質問をしている。ケイズには好印象だが、リアには嫌なことのようだ。
エメが先頭で真ん中にルゥ、最後尾にステラである。バーナースカンクに出くわすまで、ステラも見守るつもりのようだ。
「また、いっぱい冒険して仲良くしようね」
リアが3人から目を逸らしてケイズに告げる。
街道を行く3人に対し、ケイズとリアは距離を取るため野山の中に分け入って進む。3人より実は、頻繁に魔獣と遭遇しているので、リアも気が紛れて良いようだ。
「あぁ、そうだな」
次の旅行はもう新婚旅行と決まっている。ケイズは頭の中で候補地を並べていて上の空だった。
ときおり、楽しい想像をしてはフフッと不気味に笑いつつ、丸一日、エメたちを追跡して歩く。
林の中で一泊した翌日、エメたちがソーントン平原に至った。ケイズとリアはちょっと小高い丘にある林の中である。
依頼のあったバーナースカンクの巣に近づいたのだろう。3人で何やら探すように動き回っている。
ケイズとリアは2人で林の中にあった大木の、太い枝に腰掛けていた。
「いましたよ!」
ステラの鋭い叫びがケイズにも聞こえた。
遠目では分からないが、燃えた草の跡を見つけたのだろう。赤い毛皮が燃え上がるように揺らめき、尻尾からはチリチリと火花が舞う。体調は5メイル(約1.5メートル)を少し切るぐらいか、まだ若い個体のようだ。縄張り争いに負けて、人の通り道の近くに巣を作らざるを得なくなったのだろう。
姿をあらわした、鮮やかな赤い毛皮の魔獣とエメたち3人が対峙する。
バーナースカンクは威嚇するように炎を毛皮から噴出させた。さほど肉体は強くないものの火力はなかなかのものだ。
(うん、なかなか。空気が陽炎になってる)
ケイズはバーナースカンク周りの空気が揺らめいていることに気付く。
「あ、火だ」
リアが声を上げる。バーナースカンクが口から炎を集束して3人に向けて吐き出している。
「盾で防いだな。さすがステラ」
先頭に躍り出て盾で炎を堰き止めたステラを見て、ケイズは声を上げた。ステラの後方にてすかさずルゥが詠唱を開始する。
「ルゥの魔法、強くなったね」
リアの言うとおり、強力な水の奔流がバーナースカンクを襲う。
バーナースカンクも顔を背けて後じさり、相当に水を嫌がっているが踏みとどまっている。本能で背を向ければエメかステラに斬られると分かっているようだ。
(ステラに盾で炎を防いでもらって、後ろからルゥの魔法で倒すって作戦か。悪くないけど、エメが用無しにならないかな?)
観戦が楽しい。ケイズはリアに身を寄せ合いながら眺めている。
「あの水魔法、すごいね。もう、ルゥ、次の魔法、詠唱始めてる」
リアの言うとおりである。
青い小さな魔鉱石のついた杖を掲げ、ルゥが水を出現させた。遠目に見てもルゥの周りで渦巻く水の動きはなめらかだ。
(エリスあたりから魔力の使い方、聞いたんだろうな。なんか雰囲気が似てる)
ケイズはじっとルゥの魔術を眺めていて、リアにペチッとお仕置きの手刀をされた。
「浮気はメッ!」
可愛らしいヤキモチさんにケイズは微笑んでしまう。
「リアの風のほうがキレイだよ」
ケイズは言い、地蜂を顕現させた。
「え?あっ、ケイズの蜂さんも可愛いよ」
リアも慌てて風虎を顕現させる。頬を赤らめて縮こまった。そんなリアの華奢な肩に腕を回し抱き寄せる。
2人で茶色の地蜂と碧色の風虎とをじゃれつかせ、絡めさせた。本人たち2人は至近距離でじっと見つめ合う。
どれだけ至福の時間を過ごしただろうか。
「あっ」
なんとなく2人で顔を、戦闘中だったはずの3人に向けて、揃って声を上げた。
イチャイチャしている間に戦闘が終わってしまったからだ。
ルゥの作った水の刃がバーナースカンクを一刀両断したところだった。
決まり悪くなってケイズとリアは顔を見合わせる。
「とりあえずルゥは合格だな」
ケイズは告げて、今更ながらでも3人の様子を知ろうと目を凝らす。戦況として、ステラ1人で前衛は十分であり、気の毒だがエメは何も出来ずに終わったことだろう。
「うん、エメはきっと何も出来てないよね、不合格」
リアも同じ考えらしい。頷いてくれた。
もう一日かけてダイドラに戻る。
そして到着したその日のうちに、クラン双角の拠点、ジード宅にて、クラン全員の前で結果を発表することとなった。
ジード、オルストン、エリスも揃う中、エメとルゥが緊張した面持ちである。同行していたステラが2人へと、力づけるように頷きかけていた。
「ルゥは合格っ!」
リアが高らかに発表し、自ら拍手した。
なぜルゥだけを先に言ったのか。一同が微妙な雰囲気となる中、空気を読めないエリスだけが一緒になって拍手をした。
「エメはダメっ!」
リアのさらなる宣言。両手で☓を作っている。
エリスも含めて全員が一斉にケイズを見た。
「何でだよっ!俺だって!」
エメが抗議しようとして怒鳴るもすぐに黙り、なぜかステラを見た。
「ケイズさん?」
ステラが低い声で尋ねてくる。どすが利いていた。剣を突きつけられるのよりも怖いかもしれない。
「あー、ルゥの魔法はすごかった。文句なく合格で良いと思う。詠唱も術式の展開も早かったし、魔力の流れもなめらかで、ホントすごかった」
よく見ていなかった気後れから、ケイズはルゥを褒めちぎった。が、やはり気まずくてステラから視線を逸らす。
「エメはほら、同じ前衛にステラいたし、見せ場がなかったということで」
怖いもの見たさでケイズは視線を戻す。
じとりとした視線をステラが自分とリアに向けていた。
「エメ君もしっかり、私の横で戦っていましたよ。贔屓目なしで前衛として素晴らしい身のこなしでした。私は初撃を盾で防いだだけ。炎を掻い潜って、エメ君がバーナースカンクの足に切りつけ、動きを鈍らせたところをルゥさんが仕留めたのです」
珍しく本気でステラが怒っている。いがみ合っていたときよりも怖い。
リアの横ではエリスがほっぺたをつねる準備を始めた。
「2人でデート気分でよく見ていなかった、だなんて言わせませんよ?」
図星である。ケイズは諸手を挙げて降参した。
「あーっ、俺とオルストンもついてきゃ良かった」
ジードが言ったのを皮切りに、エリスのリアへの処罰が執行された。
「はうっ」
可哀想にリアが痛がっている。
オルストンも呆れ顔でため息をつく。
「エリスさんと迷ったけど、ステラさんで正解だったね」
ルゥがエメと顔を見合わせて告げる。
「な、ステラさんならリアさんたちが無茶してもちゃんと論破してくれるもんな。エリスさんだとちょっと心配だけど」
エメも相槌を打つ。
ステラが選ばれたのには極めてしっかりとした理由があったということだ。
「すいません、俺がきちんと追試するので勘弁してください」
ケイズは心の底から全員に謝った。
後日、ケイズは形ばかりの追試をして、エメの参加を、リアと2人認めることとなった。
ガイルドとウィリアムソンからの使者がケイズの元を訪れたのはその翌日だった。




