過去に囚われた者たち
それから一週間老婆による治療の日々が続いた。
だが、辛かったのは治療ではなかった。
毎日のように同じ悪夢を見た。その悪夢は俺の罪悪感を増幅させる。
「速人くん、楽しかったよ今日のデート。」
「なら、良かった。今度はどこに行こっか。」
「ごめん、もう二度とデートはできないの。」
「何でだよ!俺が全部失ったからか?」
「ううん。あなたがわたしを殺したから。あなたがわたしの死を願ったから。」
俺は何で栄を救えなかったんだ。良心の呵責に苛まれ続けた。プールで彼女は死んでいた。
「俺は殺してない。死を願ったりなんてするもんか。きっと栄はどこかで、、、、生きてるはずだよ。死んでるはずなんかない!あれはきっと悪い夢だ。質の悪い悪夢だ。」
そう心に言い聞かせて心の平穏を保つ他なかった。
「痛みを抑えることはできても、治すことはわっちにはできん。そなた自身が乗り越えねばならん。」
老婆はそう何度も言った。
「俺の左足はどうすれば、治るんですか?」
集落を出る前夜、俺は老婆にその質問を投げかけた。
「きっとそなたを導いてくれるものがいる。わっちの主のように。」
老婆はそれしか答えなかった。
集落を出る日の早朝
俺とエスメト、老婆は騒がしさで目覚めた。外に目をやると、集落の住民たちが、老婆の家を囲んでいた。声はよく聞こえないが、激しく怒っていることだけは伝わってくる。
「ついにこの集落も終わりの時が来たようじゃな。」
老婆そういうとその場に座り込む。
「今ならまで逃げられるかもしれませんわ。まだ諦めないでくださいまし。」
エスメトがそう老婆に言い放つ。
「わっちはいつまでも領主様の帰りを待ち続けるよ。」
そういったまま動くことはなかった。
「ばあさま!?」
俺とエスメトは同時に呼びかける。
しかし、老婆はこくりとも動かない。
「まさか、代償か!?」
俺は黒い男の言葉を思い出した。
「願いを叶えるためには代償がいる。あの男はそう言っていた。」
「その男が誰かは知りませんが、私が受け取った手紙にも力には代償があると、、、」
エスメトと俺は老婆の死に合点がいった。老婆はおそらく若さを代償に力を行使していた。
本来は老婆というべき年齢ではないのかもしれない。
「俺を助けるために、ばあさまは、、、」
俺はまた身近な人が亡くなったことで、つかみかけた希望を見失いそうになる。
そんな中でも騒ぎは収まらない。
「速人行きますわよ。私たちに残されている選択肢はあの女に遭いに行くことだけですわ。」
「道を開けてください!」
エスメトが必死に叫ぶ。だが住民たちが引いてくれる様子はない。
「何人かの住民がおかしくなっちまったんだ。きっと魔女の仕業だ。」
「魔女を出せよお前ら!」
住民は怒り狂う。
「てかお前らどこのもんだ?ここらのもんじゃねーな。連れ出せ。」
「せっかく命がけで繋ぎ留めてもらった命、無駄にしないでくださいまし。」
そういうと、エスメトは住民の中に飛び込んでいった。俺ははっとする。ばあさまを最後に領主に遭わせる。そして、俺自身も生き残らないと。
俺は必死に走った。謎の女の元に。老婆のおかげで今は走れる。
「待っていましたよ。かの者は一緒じゃないのですか?」
出会った時とは打って変わって態度に驚きを隠せない。
「彼女、いやエスメトは俺を逃がすために戦っています。助けには行けないんですか?」
「大変でしたね、ですが前にも言ったように私は村には入れません。」
「あなたが領主ですよね?どうして村の危機に領主が立ち会えないんですか?」
「ああ。アタイが領主だよ。でも民にとってアタイは消したい存在。アタイがすべての罪を背負って、村から出た。」
「あなたの部下が亡くなりました。それでも行かないんですか?ばあさまは俺に生きる希望を与えてくれた。領主様がそれをしてくれたからと。」
「そんなことアタイは望んでない。」
「あなたを死してなお待ち続けているんですよ。」
「真姫、、、、、、」




