死を受け入れる者と受け入れられない者
「なんでこんな事をしたんですか?関係無い人を巻きこんで!」
俺は憤りを感じた。なんでこんなことをしたかもわからない。
「愛ですよ。私はただ二人と離れるのが嫌だった。それだけです。」
「それにあなたが死ぬ以前に、あなたの住む世界は消え去った。」
何を言っているのかわからない。
「振り返ってみたらどうです?」
そこには地面が崩れ虚空に飲み込まれていく世界が見えた。
「この世界は2柱の神によって作られた一つの世界だった。しかし、人々は自らの手で、神の力なしに、世界を切り開こうとした。それに神は激怒した。神はその命を犠牲に、元の世界とは別に罰として新たな5つの世界をうみだした。それを支配し、同時にその世界と一体の5柱の神王、全ての世界に干渉できる1柱の死神を世界と共にうみだした。そして神は同時に寿命を作った。知識を蓄えさせないために。」
牧師はたんたんと語る。
「きっとあなたたちには難しい話でしょう。最も罪深き地輪の人間には。残りの輪も私の手に。」
牧師は空高く舞う。
「ほ、星宮くん。僕は君に酷いことを。」
後ろからうでを捕まれた。傷だらけの少年だ。あの黒い大男がいなくなったことで解放されたのだろう。気づけば俺の手の傷も消えている。
「ずっとずっと、謝りたかった。最初はほんとに憧れてただけなんだ。」
少年は涙ながらに語る。少年は俺よりも年上に見える。だけど、きっとあの同級生だ、何度も思い出せなかった。
「星宮くんに全てを返したかったなのに、こんなことになっちゃって」
星宮くんは立つことすらできないほど泣く僕をそっと抱きしめる。とても優しいハグだ。
「大丈夫、川内長柄くん。君のおかげで俺はあったかもしれない可能性に出会えた。むしろ感謝したいくらいだよ。あらゆる可能性を見られた。今を除いてあらゆる可能性で、君が俺になった日に既に俺は死んでた。ここまで生きられたのは君のおかげだよ、長柄。また会ったら速人って呼んでよ。あとはまた長柄に託したよ。」
「こんな状況でもアタシこれやんなきゃいけないの疲れちゃう。」
「でももう俺の覚悟は決まってる。」
「そうだね、ボクも同意だよ。」
「待って速人、私あなたに何も言えてない!」
エスメトが現われた。かなり焦っている様子だ。
「君の速人は俺じゃない、長柄だ。」
「でも、私が好きなのは長柄さんの演じていたあなた。だからこそ私あなたが知りたい!」
「嬉しいな。でも時間切れだ。」
「速人待ってよ。僕はやっぱり君なしじゃ生きられない。速人くんの皮をかぶって、速人くんのフリをして生きてた僕にどうしろって。」
涙が止まらない。
「君のそういう子供っぽいとこわっちは嫌いじゃないよ。ビビる顔また見たいな。」
「そうね、またズボン脱がしてやろうかしら。」
真姫と舞も辿りついたようだ。
「もう、二人共。相変わらずなんだから。」
僕はどこかホッとした。
「意外とかわいい顔してんじゃん。前より君に似合ってる。」
「子供が2人いる気分だよ、なんてハハ。わっちまだ18だけど。」
「でもその男を連れてく前に、協力しなさいよ。ダキニ。いや、死神 黄泉蓮姫尊。アタイたちの村の神2柱の産んだ親。」
舞は童女か童かもわからない、人物を説得する。
「この騒動が終わっても、死人は剛は帰って来ない?それでもいいのか?」
「それに、大森摘、厄鬼姫あの二人では、神王の力には及ばない。死ぬぞ。」
クソガキのようだった女は怪訝な表情を浮かべる。
「そのために、あなたがいる。」
「言ってくれるじゃない、舞。大人になったのね。でも今のアタシは完全じゃない。」
女は急に大人な表情を見せる。
「そんな事はいい、アイレーンは必ずあんた狙いにここに来るそうでしょ?」
「わかってるじゃん。おそらく、あいつは最後にアタシを食らって、ここ黄泉という旧世界に全てを統合するはず。」
「その前にあいつを、アイレーン、を殺せばいい。」
その目には涙が浮かぶ。
「舞、、、、」
真姫が心配そうに声をかける。
「いくら仲間だった可能性があったやつだろうと、村のために戦う。それだけ。」
「6つ目の羽根を受け取りに参りました。この世界の創造主様。元と言ったほうが正しいですかね。世界を分割したが故に力を失い、創造主を名乗ることをやめた。そうでしょ。黄泉蓮姫、浄土蓮彦。」
「これにて終いで、は!?まさか、その程度の神で抗う気なのか?しかもこれはあの崩壊の時と同レベルじゃないか。」
二人はアイレーンに不意討ちを喰らわせる。そこに現われたのは光と闇対をなす2柱の巨人。
「ここは、神も人も生まれた場所。欲望などなかった旧時代の遺構。なら代償なしで、思いで、最大の力を発揮できる!それにここには、この2柱を生み出した神もおるんじゃよ。」
「そんな屁理屈が通るかよぉ。お前は長美にも剛にもこのまま会えないままでいいのかよ。」
アイレーンは普段の落ち着いた感じとは裏腹に感情的になっている。
「アタイだって会いたい。でも今は死を受け入れたことでもっとたくさんの人と会えた。お父様も剛も長美さんの死も、決して覆らない。」
「おのれ、お前らなぜ私の理想がわからない!」
「あなたは、神様が寿命を与えたのは、知識を蓄えさせないためといった。でも、それはきっと違う。俺達は寿命があるから死があるからつながれる。矛盾してるかもしれないでも、俺達は死があるから思いを、言葉を伝えて来たんだと、俺は思います!」
「やはりお前は私とは対局だな。やはりあの時殺しておくべきだった。」
「僕はもう誰かを犠牲に幸せを得ようなんて思わない。自分自身を犠牲にしようとも。だって僕自身を受け入れてくれた人がこんなにもいる。」
空にアイレーンが打ち上げられる。
「わたし、、、は、、、、」
「あんたの負けだよ。後はアタシとボクが引き継ぐからゆっくり寝てなさい。」
そう言うと、2柱はアイレーン翼を野獣のように貪り尽した。
「これでまたアタシが同じように。」
「待って!」




