決戦! 極寒の地にて
勇者千人のパーティーが城から出てちょうど二週間が経とうとしていた。
凍えるような山脈。夏でも吹雪が吹き荒れる極寒の地へと差し掛かっていた。太陽はぼんやりとしか見えず、絶えず吹き荒れる吹雪に勇者パーティーはなす術無く立ち往生していた。
この山脈を超えなくては魔王城に到達できない。最後の関門とも言えるだろう。
「くそー寒い。このままでは死んでしまう」
「ヘックション! うわ、鼻水出た、きたね~」
……。
「おい、食料も底をついたぞ」
「お腹が減って力が出ないぞ」
……いや、食料が底をつくのはマズいだろう。帰り道どうする気だ。大和か! 冷や汗が出る。
「帰りたいよお。お母ちゃ~ん」
「……帰ったら……菜の花の塩揉みを……お腹一杯食べたい……なあ……」
――通! ほろ苦いのがたまらない。
「ひょっとして、これが敵の策略だったのか――」
「ま、まさか……俺達がここまでモンスターと一度も戦わずに来られたのは……」
今更気付いても……もう遅い。
それよりも、「引き返そう!」って機転の利く勇者はいなかったのだろうか。
勇者だらけのくせにリーダーシップの取れる奴はいなかったのか――!
「まんまとはめられたぞ!」
「アーッハッハッハ!」
笑うな! 空腹と寒さで頭おかしくなっとるやんけ。
「敵は疲労し衰弱しきっておる。やるなら今だ、行くぞよデュラハン」
「……私も極寒で衰弱しきっています」
寒すぎます。金属製鎧が冷えてカッチカチです。
吹雪の中、数日間にわたり敵の動向を魔王様と一緒に監視し続けているのだ。――私だけ大きな荷物のリュックを背負わされて……。
魔王様は無限の魔力で体温コントロールができるみたいだし、インスタントや缶詰だけでも毎日食べていけるみたいだし――! いざとなったら一人だけでも瞬間移動で帰れるし……。枕が変わっても爆睡できるタイプだし……。
「しゃっきとしろ! 地獄の業火!」
魔王様の手から数千度の炎がほとばしる。
「ギャー! あ、アチい~! ちょっと、まじやぱいっス!」
私に魔法が効かないからと言って、数千度の炎で炙るのはやり過ぎです――!
一瞬だけ……魔王様の目に殺意がチラついておりました……。シクシク。
魔王様が小高い雪山に登り、勇者千人の前へと出た。
「フッフッフ……」
――!
「――き、貴様は! まさか!」
「魔王!」
「当たり」
「え、魔王?」
「どこどこどこ!」
「うわ、思ったよりも若いぞ!」
「えー! 髭を生やしたお爺ちゃんじゃないのかよ」
「フッフッフ……」
マジで嬉しそうだぞ。
「笑ってるし―!」
「ウケル―!」
「あー耳が冷たい! 手袋の中も濡れてベチョベチョや」
「くそー、吹雪でぜんぜん見えないぞ!」
「もっと前に来い。こっちだこっち!」
「こっちぞよ」
「気を付けろ! 幻聴が聞こえているのかもしれないぞ」
「幻聴じゃないぞよ。生声ぞよ」
一瞬吹雪が治まったかと思うと、勇者一行は魔王様の姿を目の当たりにした。
魔王様の後ろに後光が差す。たぶん魔王様の演出によるものだ……。芸が細かい。ラスボスの音楽すら流れ出しそうだ。
「ンダンダンダンダンダンダンダンダ、ダランダラン!」
「その呪われたようなメロディーはやめい!」
怒られてしまった。テヘペロ。
「魔王だ! 魔王が現れたぞ! みんな剣を抜くのだ!」
「これは……最後のチャンスだ!」
「「――おお!」」
千人もの勇者が立ち上がり剣を構えた。足元の雪を踏み固めて動きやすいようにする。地団駄を踏んでいるようにも見える。
「私にお任せください。魔王様」
白金の剣を抜いた。この数の勇者なら……凄腕の勇者でもいなければ一人でなんとかできるだろう。
雪が白金の剣先に触れ……溶け落ちる。
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