予期せぬ急変
事態が急変したのはその日の昼食中だった。
「なに、それは本当か」
「はい。最前列のモンスター、ミル・ワームからの超高速伝令にございます」
フォークが止まった。せっかくミートスパゲッティーを食べているときにミル・ワームの名を出さないでほしかった。
どうやって超高速伝令を行ったのか考えそうになったがやめた。
「こうしてはいられない。直ぐに魔王様にご報告する。任務ご苦労」
「はい。では、残りのスパゲッティーは私が片付けておきます」
――! なぜそうなる。
「ならぬ。これは私のだ。また戻ってきて食べるからラップをかけて置いておくように食堂のメイドに伝えるのだ」
立ち上がった。
「しかし、デュラハン様」
「なんだ」
丸椅子を机の下に仕舞いかけていた手を止めた。
「――食堂は十三時に閉まります。あと五分で玉座の間へ行き魔王様に報告して戻って来るなど不可能でございましょう」
ガントレットを少しずらして腕時計を見ると、たしかに十二時五十五分だった。魔王様と話すと……長いからなあ。五分では戻ってこられないだろう。
「だったら……。しまった、喋っている間に食べればよかった!」
フォークで大きく巻けばあと一口……いや、二口分なのだ。
もう一度座り直して食べようかなあ……。それとも手に掴んで食べながら廊下を歩こうか。いや、それは紳士な騎士のやることではない。騎士道精神に反する。両手のガントレットがケチャップ色に汚れてしまう。
「お急ぎ下さい。今は一刻を争います。私が残りのスパゲッティーを責任もって片付けておきますから」
「グヌヌヌヌ……。任せた」
仕方なく部下にスパゲッティーの残りを託した。
「いただきマンモス!」
「……」
口の周りにケチャップを付けて食べるのが……羨ましいぞ――!
魔王城の階段を一段飛ばしで駆け上がる。ガチャガチャと金属製全身鎧の擦れる音が階段に響き渡る。
四階の玉座の間に辿り着くと扉をゆっくりと開けた。魔王様を驚かさないように。
「魔王様、大変です! 勇者千人がこの魔王城を目指し攻めこんでくるとのことです」
「なんと! ……いや、薄々は気付いておったのだ」
「はっ! ……ええ? えー?」
魔法を使って偵察していたのだろうか。それとも、ただの嘘か……ハッタリかパタリ□か。
「無礼ぞよ! 嘘じゃないもん! ……ストーリー上、そうなるのは見え見えの展開……」
「おやめくださいっ!」
ストーリー上見え見えとかプロットとかテンプレとかは禁句でございます。冷や汗が溢れ出ます。せっかくの剣と魔法の世界にリアルと言う名の現実を持ち込まないでいただきたい。
魔王様は玉座の間の厚手のカーテンを閉めると照明を落とし、白いスクリーンに勇者パーティーの状況を映し出した。
「偵察魔法、ドロドローンぞよ。この魔法を使えば魔王城にいながら遠くの敵の様子が伺えるぞよ」
解説ありがとうございます。
「これは……見覚えのない城ですね。どこの国の勇者でしょうか」
ざっくり千人、いや、ピッタリ千人。勇者ばかりよく集めたものだ。もはや勇者パーティーとは呼べないだろう。これはもう、大群か軍隊だ。城壁の前に全員集合している。
「この城は前話に出てきた隣国の城ぞよ」
「前話って……やめましょうよ」
この前のとか、GW前のとかでよいではありませんか。先週とか先々週とか千秋楽とか。
「GW後ぞよ。間違っておるぞよ」
はう! そうだった。
「申し訳ございません」
冷や汗が出る。GWって……なんだろう。
黒塗りの大きな城の前で数千人の勇者が剣を掲げて大声で吠えている。血気盛んな国風なのだろうか。
『我らの真の敵は魔族であり魔王だ――!』
『『おー!』』
『長く辛い戦いに終止符を打つため、立ち上がるのだ勇者達よ――!』
『『おおー!』』
『魔王を倒せ――!』
『『魔王を倒せ! 魔王を倒せ!』』
そこで画像がピタリと動かなくなった。
「卿の怒りを感じるぞ。そうだ、もっと怒るのだデュラハン、怒りがさらなる力となるのだ」
「……御意」
音声が荒く画像も時々止まるので……見ていてイライラする。通信状態が悪すぎる。言わないけどイライラしているのは魔王様にバレている。
魔王様がニヤニヤしているのがさらに腹立たしい。
読んでいただきありがとうございます!
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