魔王様、勇者が千人集まれば、それはもうパーティーではありません
「なぜだ!」
いつものように魔王様のお声が広い玉座の間に響き渡る。冷や汗が出る。コピペがバレそうで……。
「断じてコピペではない! 訳の分からないことばかり言うな」
「申し訳ございません」
さすれば、「断じて」とは言わないでいただきたい。
今日も玉座の間で二人、緊迫感もないユルふわな時間が流れる。窓からの暖かい日差しが眠気を誘発し、跪いたまま寝てしまいそうだ。
「ホーホケキョ」
「……」
口で言わないでいただきたい。
「勇者が一人でもいれば、勇者パーティーは成立するのだぞよ」
「御意」
我ら魔族の天敵、勇者パーティーの成立でございます。
「そのパーティーに勇者が二人くらいいても、勇者パーティーぞよ」
「たしかにそうでございます」
一人が二人に増えてもなんら変わりません。恐るに足りません。
「ならば! 勇者が千人集まっても勇者パーティーであろう! すなわち、メダカの兄弟と同じぞよ!」
「――メダカの兄弟! ……?」
メ―ダーカーの学校は……川の中~でございましょうか。
「イミフでございます」
略して意味不明でございます。言っている意味がサッパリ分かりません。
爽快なくらいサッパリです。
「違うわい! メダカの兄弟は、どんなに大きくなっても~メダカは所詮メダカ~ぞよ」
「はうっ!」
そっちでございましたか。て言うか、「所詮」って付けないで。メダカが泣くぞ。
「わざわざ説明しなくてはいけないのがジェネレーションギャップぞよ」
「そうですね。メダカの兄弟って……なんじゃそりゃでございます。冷や汗が出ます、古過ぎて」
分かる人と分からない人とで物理的に縮まらない距離がございます。
「では逆に問おう。勇者が千人集まり、それがパーティーではないと言うのなら、なんなん。それ、なんなん!」
なんなんって……やめて欲しいぞ。
「勇者パーティーではなく……軍隊」
もしくは大群。大規模なデモ隊にございます!
「……それな」
否定も肯定もせず、ため息のように魔王様がお答えになられた。
「バッタの大群は怖いぞよ。農作物が全部食われてしまうぞよ。さらにはトビケラの大群も怖いぞ。口を開けて歩けないぞよ」
「おやめください」
想像するだけで冷や汗が出ます。首から上は無いのだが、口に虫が入ると得した気分にはならない。なれない。……虫には悪いが。
「デモ隊も怖いぞよ。途中から何やっているのか分からない集団になっているぞよ」
「集まれば集まるほど怖いですね」
パーティーよりも集団の方が聞こえも怖いです。デモパーティーって、聞こえはいいかもしれませんが……。
そもそも勇者パーティーなどという存在自体が物理的におかしいのだ。RPGとかラノベとかのように一人だけ桁違いに強く格好いいヒーローがいたとしても、そのヒーローと数人の仲間だけで魔王様が倒せるなど……ありえないチート話だ。
鬼に勝った桃太郎級にチート話だ――。桃太郎パーティーは編成もやけくそだ。猿犬キジ。さらには桃太郎が鬼に挑む前に、村人数千人で鬼と戦わなかったのかと問いたい――。桃太郎と村人にどれほど力の差があったのだろうか――。
昔から……臆病者が多かった事実が浮上しそうで怖い――。理に適ってしまう。
「無限の魔力をお持ちでチート丸出しし羞恥心の欠片もない魔王様に対し、勇者パーティーなどという少人数で戦って勝てるはずがないのです」
「……照れるぞよ」
照れるなと言いたい。言えない。誰も褒めていない。少し頬が赤いのが微笑ましい。
「さらには、魔王様より強い四天王最強の騎士、宵闇のデュラハンが側近に控えており、魔王様には指一本……いや、二本? 触れることすらできないのです」
「……恥ずかしくない? 自分で言っておいて」
ぜんぜん恥ずかしくなどございません。
「慣れました」
「……慣れないで」
「人間共はみんなで力を合わせて大きな困難に立ち向かうことの大切さを小学校で習わなかったのでしょうか」
ラスボスを少人数で倒したらぼろ儲けできると考えているのでしょうか。経験値もお金も山分けになってしまうからなあ。
「たとえ勇者であっても、一人より二人の方が強い。さらには、二人より三人、三人より四人、四人より五人……」
魔王様が指を立てて数を示される。両手の次はどうされるおつもりか。あ、木靴を脱いだ。足の指を器用に使うおつもりだ。
「ちょっと待って下さい。それを千人まで続けるおつもりですか」
指が足りませんよ。二進数ならともかく……。
「うん」
いやいや。
「中略でお願いします。九九七人からで。はい、スタート」
時短です。時間短縮です。冷や汗がでます。
「うむ。中略~。九九七人より九九八人、九九八人より九九九人、九九九人より千人の方が強いのは、……言うまでもあるまい!」
――言うまでもあるまい?
「まったくその通りでございます。言うまでもありません」
言うまでもないことを必死に言おうとしないでください! 言わないけれど……言うまでもないから。シクシク。
「とはいえ勇者が千人も集まれば、そこそこの実力者揃いでしょう。もし、そのような事態になればこちらも何か作戦を立てる必要がございます」
でなければレベル1のスライムやレベル2のグールやゾンビ達に被害が及びます。誰一人として魔王軍から死者を出してはなりません。労災扱いされ魔労基が飛んできます。冷や汗が出る。
「作戦とな。では、四天王を招集して魔会議を開くか」
やめよう。それは。
「魔会議はやめましょう。まとまるものもまとまらなくなります。あれこそ時間の浪費です」
さらには議事録作成の必要性が分からない。時間の無駄だ。……誰も読まない。書きたがらない。
「我が魔王軍最強クラスのモンスターを最前列に揃え、一気に叩き圧倒的な力の差を見せつけるべきです」
どれほど人間共の勇者が強かろうと、狂乱竜クレージードラゴーンに襲わせれば楽勝でございます。出鼻をくじくのです。
「二~三日くらい餌をやらずに腹を空かせておけば、狂ったように人間共に襲いかかることでしょう」
「逆に予が噛まれるぞよ」
……。お手! ガブッ?
「たしかに」
名前からして狂乱竜だから……。アホなドラゴンだから……。
「飼い主に似て。とは言わない。本人の前では口が裂けても言えない」
「首から上が無いので裂ける口がないのだが……ぞよ」
――!
「それは私のセリフです! 決め台詞なので先に言わないでください!」
「フッフッフッ、早い者勝ちぞよ」
魔王様は自分が狂乱竜クレージードラゴーンの飼い主と思っていらっしゃらないようだ。なんか……悔しいぞ。
ボケ潰しって、こういうのを言うのだろうなあ。
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