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獣王紋奇譚  作者: 大峰とうげ
第一章 出会い
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8 フリム先生との晩餐会

「フリム先生はこちらの席へどうぞ」


 シルヴィがフリム先生を食堂でエスコートしている。そして、席へと案内し終えるとシルヴィはフリム先生の対面となる席に着く。


 今日は、家長であるクリフが久々に帰っている日なのだ。

 クリフとフリム先生は、未だ面識がない。それ故に折角の機会だからと夕食へと誘い、同じテーブルを囲むこととなったのである。


「すぐに主人が参りますので」


 今日はフリム先生も食事をするため、いつもと席順が異なっている。シルヴィとフリム先生が向かい合うように席に着いたので、自分とディアナはシルヴィの隣へと座ることになった。


 マルテが厨房の方から金属製の食器を運んできて、それぞれの前に並べていく。使用する食器も普段使っている木製の物ではなく、来客用の物を使用するようだ。銀食器だろうか鈍く光り輝いている。


 テーブルの上に食器が出揃ったのか、マルテが静かに厨房の方へと消えていく。クリフがまだ来ていないので、料理はまだ運ばれてくる気配がない。

 我が家の食事は全てマルテの母であるアンネが作っている。今も厨房の方で忙しく動き回っているのだろう。


 しばらくすると、用事を済ませ着替え終わったのかクリフが食堂へ入ってきた。


「すまない。お待たせしましたかな?」


 食堂へ入ってきたクリフは、まず社交的な謝辞を述べながら、フリム先生へ歩み寄っていく。


「初めまして。私がこの屋敷の主。クリフトス・スキャルです」


 クリフは右手を胸に当てつつ軽くお辞儀をして挨拶をする。騎士としての礼ではなく、準貴族の士爵としての挨拶である。


「初めまして。家庭教師をさせて頂くことになりました。フリスベーム・シェルと申します。以後お見知りおきを」


 フリム先生は席を立ちクリフに向かい合ってからスカートを軽く摘まんで挨拶を返す。淑女としての綺麗な挨拶である。


「歓迎しますよ。立ち話も何ですから、まずは食事を楽しみましょう」


 クリフに、そう促されたことで、フリム先生は席に着きなおす。


 家長としてのクリフの席は、もちろん上座である。そこは家長専用の席と評していい場所であり、所謂お誕生日席とも言える場所である。


 クリフが席に着いたことで、厨房の方から様子を見ていたマルテが給仕係として料理を運び始める。そして、それぞれの食器に盛り付けていく。

 皆の食器に料理が盛り付けられている間、ちょっとした談笑をしながら時間を過ごす。


「まさか、コリスも一緒に面倒を見てもらう事になるとはな」

「コリス坊ちゃんは、3歳児にしては非常に優秀ですよ」

「そうなんですか? いつもやんちゃが過ぎて困っていると妻やメイドから聞かされていましたから、ちょっと信じられないですね」

「私も、未だに信じられないわ。でも、熱心に勉強しているのは確かなのよ」


 クリフもシルヴィも自分の方をみて不思議そうな顔をしながら、談笑をしている。


「私だって勉強頑張っているんだから!」


 ディアナが、私の事も褒めて言わんばかりに主張している。


「はいはい、ディアナも頑張っていますよ。これからも、その調子でフリム先生に教えてもらうんですよ」


 シルヴィが微笑みを浮かべながらディアナの頭を優しく撫で「よく頑張っていますよ」と褒めている。そのシルヴィの行為にとても満足しているのかディアナは嬉しそうにしていた。


 食事の準備も整い、それぞれの前に本日の料理が出揃う。

 今晩のメニューはいつもより豪華な感じだ。フリム先生という来賓がいるのだから、奮発しているのだろう。


 メインとなる料理は肉料理のようだ。何の肉かは知らないが、香草と共に焼き上げ薄めにスライスにした物が、お皿に4・5枚並べられ軽く胡椒が振りかけられている。肉の周りには添え物の焼き野菜が盛り付けられている。


 次に、一緒に出されたスープだが、玉ねぎのような物や根野菜をあら切りし、一口サイズにカットされた肉と一緒に煮込まれたものだ。

 白ワインと屑野菜で作った出汁とでよく煮込まれており、塩と胡椒で味を調えられている。ポトフに似ていると言えばいいだろうか。

 後は、ナンのようなパンが出揃って準備完了である。


 そして、金属グラスが用意され蜂蜜酒が注がれていく。

 もちろん自分とディアナのグラスには、ただの水である。せめて味の付いた果実水とかにしてほしい。味付きの飲み物なんて、殆ど飲ませて貰えない。


 前世で飲んでいたお茶や珈琲が懐かしい……。



 フリム先生が同席しての晩餐会は、食事が始まると話の方向性が思いもよらない会話へと変じていく。

 自分達姉弟の勉学進捗状況が話題の中心になるかと思いきや、予想に反して政治的な話題へとシフトしていく。


「クリフトス卿。昨年産まれた第二王女殿下の事はどこまでご存じです?」


 フリム先生は過去に王宮で働いていた経緯がある。その為か、王族の政治情勢を話題の主眼としてきた。いきなりの話題転換に多少戸惑いながらもクリフはフリム先生の問いに答える。


「王妃との間に産まれた長女で、現在王位継承権第三位だったと記憶しておりますが?」

「はい、その通りです。そして、その王女殿下の為に、新たな騎士団が創設されるという噂があるのですが、ご存じありませんか?」

「いえ、初めて聞きました。新たな騎士団ですか……」


 どうやら昨年産まれた第三王女の為に新たな騎士団が創設されるとのことだ。まだ産まれて間もない子に騎士団が必要なのだろうか。警護の為だろうか、やはり王族となると暗殺を警戒して必要となってくるのか。


 しかし、王宮を離れてかなりの月日が経過していると聞いたけど、よくそんな情報を入手してくるものだと感心してしまう。

 この世界にはテレビもなければ携帯やスマホなんて物はない。情報の集め方を是非ともご教授願いたいものだ。授業でやってくれないかな、まぁ無理だろうけどね。


「新設される騎士団は王女殿下直属となるべく、女性騎士をメインとした構成になると聞き及んでおります」


 新設される騎士団は女性だけで構成されるらしい。やはり、王女直属だからだろうか、身辺をお守りするのだろうし異性だと不都合が起きそうだ。

 しかし、護衛が主目的なら女性は一部でいいはずだ。戦力として男の騎士が在籍してもおかしくないはず。

 ひょっとして儀礼用の騎士団であろうか。それなら女性だけの騎士とうのは華やかである。その騎士団を王女が率いる姿は、絵になることだろう。


 王族の政治情勢はあまりオープンに情報公開されていない。王宮でどんな駆け引きが行われているのか解らないので、新設される騎士団がどういった思惑があるのか、もう少し詳しく聞いてみないと判断できない。

 二人の会話を邪魔しないように聞き入ることにする。


「それはまた、人員確保が大変そうな話ですね。ここオルデンブルクでも女性の兵士はいますが、騎士は皆無ですからね」


 クリフの話を聞く限りこの世界は封建制度で男尊女卑の社会である。故に騎士団も基本は男社会であり、女性の兵士は殆どいないのだそうだ。

 女性が騎士を目指すのはとてもハードルが高く、訓練も男性と共に行われるため体力的に劣る女性が訓練を乗り越えれるのは少数となってくる。

 一応訓練課程を修了し女性兵士として任官している者はいる。しかし、騎士となると身分が関与してくるので、その数はさらに少なくなってくる。


「ええ、現時点では人員確保が非常に困難です。なので、前準備として騎士学校に新たな女性騎士用の専用コースを設立するとう計画が立ち上がっております。それについても、ご存じありませんか?」

「いえ、全くの初耳ですね。そのような計画があるのですか?」


 フリム先生がクリフの表情を()()するようにして話を続けていく。


「女性騎士団の話はともかく、騎士学校の女性用コースは、3年後に用意される予定です。その為、女性騎士育成に必要な講師陣の選定を急務としていると伺っております」

「それはもう、計画ではなく実行段階にあるということですか?」


 クリフが驚き聞き返している。どうやら、今回の計画は何もかもが異例尽くめのようだ。それは男女の意識改革につながる計画でもある。


 しかし、何故そんな話をフリム先生はしているのだろうか。

 機密情報にならないのだろうか、守秘義務とかコンプライアンスはどうなっているのだろう。

 このような晩餐会で話す内容ではないはずだが、大丈夫だろうかと心配になってしまう。


「実は、その講師役に私が推薦されまして、2年後から着任することとなったのです」

「ほう、それはすごい。おめでとう」

「まぁ、それはおめでとうございます」


 クリフとシルヴィは称賛している。いかに我家が軍属関係とはいえ、簡単に話していい内容ではないはずだ。機密情報保護法とかで、この後、逮捕とかにならなければいいが、心配になってしまう。


「ありがとうございます」


 そんな心配をよそにフリム先生は軽く頭を下げながら称賛を受け入れていた。自分の感覚がずれているのか、それともこれがこの世界の常識なのか反応に困ってしまう。


「着任まで、まだ2年の猶予がありますので、それまでは家庭教師を続けさせて頂きたく思います。ですが、講師役の件は布告されるまでご内密に願います」


 人差し指を唇に当てながらフリム先生は微笑んでいた。こんな重要な情報を漏らしておいて、あざとい仕草で誤魔化している。その強か(したたか)さに呆れてしまう。


「貴方達も、今聞いた話は誰にも言うんじゃありませんよ」


 シルヴィが隣に座る自分とディアナに釘を刺すように注意をしている。


「はーい」


 ディアナは、後2年も勉強するのかと落胆気味である。フリム先生が話した内容の重要性には気づいていなかった。


「しぇんしぇ。まだまだいっぱいおしえてくだしゃいね」


 下手に反応しない方がいいだろうと、当たり障りのない返事を返しておくことにする。


 フリム先生が家庭教師をしてくれる期間が決まってしまった。それまでに、どれだけの知識と情報を学べるか。

 娯楽が少ないこの世界で、フリム先生の授業はそれなりに楽しいのだ。可愛い容姿の先生に教えてもらえる楽しみが、後2年だと思うと残念に感じる。


 しかし、流石王制と言うべきか、民意を気にせず権力を振りかざすその姿勢に驚嘆する。愛娘の為に専用の騎士団を与えるなんて、その騎士団を創設するために学校まで改変するのだから。一体いくらの予算が使われているのやら。


 これが日本であったら税金の無駄遣いだと大激論になるし暴動にもなるかもしれない。ネットは炎上しまくるだろうな。


 この時の自分は、国王がただ単に王女を溺愛しているだけだと思っていたのだが……。

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