7 この世界を学ぶ(三)
「ついでですから両国との軍事協定についても少し説明しましょう。我が国にある特殊な軍事力ですが、これを両国に対して貸し出しております。簡単に言えば我が国の騎士団を両国へ派兵しているのです」
どうやら日本に駐留しているアメリが軍みたいに、小国ながらトアデナール王国の騎士団を両国へ駐留させているようだ。
「両国へ騎士団を貸し出すことで外貨を稼いでおります。それ故に我が国は傭兵の国などと言われてもおります」
騎士団を派遣して特殊な力を見せつけているのだろう。それで交易などを優位にしているのだろうから、それで平和的になんてよく言えた話だ。やはりキレイ事でない怖い話だった。
「せんしぇー、とくしゅなぐんじりょくってなんでしゅか?」
「我が国の特殊な軍事力というのはですね、魔法が使える魔法兵団になります」
異世界ファンタジー感来たぁーーーーー‼
思わずガッツポーズをとりそうになるのを理性をフル動員してグッとこらえる。
ついに魔法なる単語が出てきたのだ。この世界は魔法が使えるのだ。やはり、この世界は異世界だったのだ。どうしたら魔法が使えるようになるのだろうか。
……非常に気になる。
……気になってしょうがない。
「普通の人は魔法を使えません。しかしながら我が国では、ある技術を使うことで魔法が使えるようになったのです」
普通の人は魔法が使えないのか、だから身の回りで魔法を使っているのを見たことがなかったのか。
しかし、ある技術ってなんだろう。特別な者にしか習得が出来ないとかだろうか、それとも貴族の特権みたいな感じで平民は覚えられないのだろうか、でも騎士団では使える者がいるみたいだが。
いろんな思考が頭の中をぐるぐると駆け巡る。早く次の説明をと思いながらフリム先生が話をしてくれるのを待っていたら。
「あー! それ私知ってるー!」
今まで大人しく聞いているだけだったディアナが、突然手を挙げ話に割って入ってくる。弟が知らない事を知ってる自分をアピールしたいのだろう。
「では、答えてみてください。ディアナさん」
「はい先生。"魔獣紋"ですよねぇ」
「その通りです。よく知っていましたね」
ディアナが此方を見てフフンと鼻を鳴らしている。お姉ちゃんは偉いでしょうと言わんばかりに、胸を張っていた。実に微笑ましい。
「これは、我が国にしかない特殊な技術になります。幻獣、正式名は幻魔精霊獣と言いますが、その幻獣と契約することで紋章として具現化するのです。その紋章の呼び名を魔獣紋と言い、この魔獣紋があることで魔法が使えるようになるのです」
魔物がいない代わりに幻獣なるものがいるのか、その幻獣とどうやったら契約できるのだろうか、更には魔獣紋とやらも見てみたい。知的好奇心が疼いてやまない。
「しぇんしぇー、どうやったらげんじゅうとけいやくできるんでしゅか?」
「魔獣紋に関しては、今はまだ詳しく教える事はできませんが、大きくなって騎士学校に入ることが出来れば学べるようになりますよ」
この国にも一応学校と呼べる物があるようだ。騎士学校とは略称で正式名は幻精魔法騎士訓練学校と言うらしく、今の段階では入校どころか年齢的にまず無理だろう。
機会があれば入校条件とかを聞いてみるしかない。非常に残念ではあるが今は諦めよう。心の中で思わず項垂れてしまう。
「まぁ、魔獣紋に関しては私より、貴方達のお父様にお聞きになったほうが早いでしょう」
そう言ってニッコリ微笑むフリム先生である。一応クリフの職業については聞かされている。この国で騎士として働いており、そして所属する騎士団の団長でもある。それならば知っていて当然であろう。
しかし、軍事機密の類ではないのだろうか、聞いたからと言って教えてくれるのか甚だ疑問に思うのだが。
そんな疑問を抱きつつ、フリム先生の授業がまだまだ続くのかと思いきや、時間はかなり過ぎているようで、フリム先生が終了を告げる。
「さて、今日の講義はここまでにしましょうね」
「ありがとうございました」
「ありがとごじゃいました」
こんなにも時が経つのを早く感じてしまうなんて、日本で学生をしていた頃には考えもしなかっただろう。まさか勉強が娯楽の代わりになるなんて思いもしなかった。
そしてフリム先生が教材を片付け帰ろうとした時、扉がノックされシルヴィが入ってきた。
「先生、本日もご苦労様です」
そう言葉を掛けながら、フリム先生に近寄っていく。
「そうそう、先生。今日は夕食をご一緒しませんか? 今日はあの人も帰ってきましたので、ご挨拶も兼ねて、如何です?」
今日からクリフが帰ってくる日のようだった。
クリフの仕事は騎士であり、騎士団長である。そしてクリフ率いる騎士団の任地は街を出て、国境近くにある砦なのだ。国境を警備し、国の平和を守ることを仕事としている。
その為、一度家を出ると中々帰ってこれないのだ。
「そうですね。私もお会いしたいので、そのお誘い受けさせて頂きます」
フリム先生は、頬に指を添えながら少し思案顔をしたが。それは数瞬の事で返事を返すのは早かった。
今晩の夕食はフリム先生が同席することになったようだ。楽しい食事会になればいいなと思っていたのだが……