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獣王紋奇譚  作者: 大峰とうげ
第一章 出会い
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4 家庭教師が来る(二)

 屋敷の空き部屋でディアナと二人で椅子に座り、人が来るのを待っていた。もう少ししたら新しい家庭教師がやって来るからである。

 二人で勉強することになったので、普段使われていない部屋に机と椅子が用意され、急遽勉強部屋として使うことになったのだ。


 生まれ変わって、やっと纏まったこの世界の情報が手に入りそうで、期待に胸を膨らませていた。隣に座るディアナは憮然としていたが。


「もう、コリスが勉強したいなんて言うから、断れなかったじゃない!」


 そう言ってディアナは口を尖らせている。

 ティアナは習い事が増えることに不満を募らせているようだった。その所為で不機嫌オーラ全開である。

 ここは一つフォローをしておかないと後々が面倒だ。


「ねねさま。ねねさま。べんきょうがきらいでしゅか?」


 少し目をウルウルさせて、無垢な子犬を想起させる感じでディアナを見上げていみる。そして弱々しく言葉をかけて姉を心配する弟を演じる。


「そ、そんなことないわ。勉強なんて楽勝よ」

「そうでしゅよね。ねねさまは、てんしゃいですもんね」

「フフン、コリスは分かってるわね」


 うつむき気味だったのが、ニマニマとしたり顔になり始める。先程までの不機嫌オーラが段段と薄れて勝気な姉へと変貌していく。


 ディアナは弟の自分に対してかなり意識をしている。出来るお姉ちゃんを演じたいようで、極力弱味を見せないように振舞う傾向にある。

 中々に頑張り屋さんで、実に微笑ましい。思わず心がほっこりしてしまう。

 中身が40過ぎのおじさんだと知られたら、さぞガッカリされるだろうか、それとも驚かれるだろうか。

 そんなことを言っても信じて貰えないだろう。下手をしたら頭がおかしくなったとか、悪魔に憑りつかれたとか思われるかもしれない。

 まぁ、そんな話はすることは無いだろうけど。


 ディアナは弟にすごいと思われたことで、すっかり機嫌を良くしたみたいだ。これで一応フォローは成功と言っていいだろう。


 そうしてディアナと戯れていると、部屋の扉が開きシルヴィと見知らぬ女性が入ってきた。


 そしてシルヴィが徐に一緒に部屋に入ってきた女性の紹介を始める。


「こちらの方が、今日からあなたたちの家庭教師をしてくれる先生よ」


 シルヴィの少し後ろに控えていた女性が、シルヴィに家庭教師だと紹介されたことで静かに一歩前に出て挨拶を始める。


「初めまして。今日から家庭教師としてやって来ました。フリスベーム・シェルといいます。よろしくお願いしますね」


 挨拶をした女性はフリスベーム・シェルと名乗り、軽くお辞儀をする。子供相手だからか淑女の礼ではなく簡略の礼をした。この場合はフリスベーム先生が目上に当たるから失礼にならないらしい。


 フリスベーム先生は銀髪で肩より少し長いセミロングをしており、毛先の方でリボンを使って束ねて、髪の毛が広がらないようにしていた。瞳の色はサファイアのような青色で身長は小柄で140㎝くらいだ。

 見た目は10代に見えそうな可愛い女性であったが、年齢を聞いて吃驚仰天なんと29歳だという。母親のシルヴィより年上だなんて。

 所謂ロリババアだと思ったが、その言葉は飲み込むことにする。


 年齢的に既婚者なのかと思ったら、これまた何と未婚との事だった。その辺の話になると鉄仮面のような笑顔になったので、この話は禁句としよう。


「親しい人からは、フリスとかフリムで呼ばれていますね」


 見た目だけならシルヴィよりも若く見えるのだが、どんな魔法を使っているのだろうか、この世界での化粧品はとても高価で使っているのは貴族くらいである。


 可愛い容姿で未婚であることに驚きだが、人生、人それぞれではあるが、容姿的には問題ないだろうし、ひょっとして性格に難があるのだろうか。

 兎に角、フリム先生が怖い先生にならない為にも、この話は厳重に封印する事と心のメモに書き込んでおく。


「では、フリム先生って、お呼びしてもいいですか?」


 コミュ力が高いのか、ディアナは早速とばかりに愛称呼びしていいか尋ねている。


「ええ、構いませんよ」

「じゃぁ、ぼきゅもフリムせんしぇえってよびましゅね」


 便乗するように自分も宣言する。その言葉にフリム先生は、はてなマークが幾つも頭に浮かんでいるような顔をして困惑していた。


「あの……、家庭教師はお嬢様だけだと伺っていた気がするのですが?」


 フリム先生は首を傾げながらも、しきりに此方を見ている。そりゃ不思議に思うことだろう。

 日本でも三歳児に勉強を教えるなんて早すぎるわけだから、ましてや、この世界での識字率は低く、大人でも文字が書けるのは限られた者のみである。


「ああ、申し訳ありません。先生……。息子のコリスもディアナと一緒に勉強がしたいと申しまして……」


 疑問に答えるようにシルヴィがフリム先生に説明をしている。


「恐縮ですが、娘共々、勉強をみてやってくれませんか? 騒ぐようでしたら部屋から追い出してもらって構いませんので」

「分かりました。……とりあえず体験学習ということで様子を見てみましょう」


 普通は断る案件だが、フリム先生は了承してくれた。どんな思惑があるのか知らないが、このチャンスを逃さないようにしないと。



   ◇



 母様は、私の事が嫌いなのかしら。


 私は母様の言付を守っていい子にするようにしてきたし、嫌だけど礼儀作法とダンスのレッスンも受けてきたわ。それが三人目の家庭教師だなんて。

 きっと私の顔を見たくないからに違いないわ。


 最初はそう思っていた。でも、それは違ったらしい。母様は私の事をちゃんと愛してくれていたわ。

 それを教えてくれたのが弟のコリスだった。母様は私を立派な淑女にして、いい結婚をしてもらいたいんだって。でも、結婚なんてまだ良く分からないわ。


 三人目の家庭教師がやって来た。そして、何故かコリスと一緒に勉強をすることになったの。思いもしなかったわ。コリスは何でこんなつまらない事に興味を持ったのかしら。


 新しい家庭教師はフリスべームって名乗ったの。気安く呼んでいいみたいだからフリム先生って呼ぶことにしたわ。


 見た目は母様より若そうに見えたけど、あれは相当に無理して若作りしているに違いないわ。きっとそうよ。29歳って聞いて間違いないって思ったもの。


 フリム先生は未婚なんだって。教養があってもいい結婚なんて、きっと出来ないんだわ。母様が間違ってるとは思わないけど、これからの時代の淑女は教養だけじゃ駄目なのよ。きっとそうよ。


 つまらないお勉強も、可愛いコリスと一緒にするのだから、お姉ちゃんとして良い所を見せないといけないわ。嫌だけど頑張るしかないわね。


 コリスはまだ3歳なんだから、お姉ちゃんとして勉強で負ける訳にはいかない。絶対、えらいってところを見せるんだから。



 今日から、コリスと共に勉強に臨む。そして、ディアナは弟の優秀さに喜びと嫉妬が綯い交ぜになっていくのだった。

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