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獣王紋奇譚  作者: 大峰とうげ
第一章 出会い
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1 新しい生活が始まる(一)

 眠りから目覚めた時、やはり赤ん坊のままだった。赤ん坊に生まれ変わったことが夢かと少しは期待したのだが、無情にも現実だったようだ。

 どうやら人生をもう一度、子供からやり直すことになってしまった。これは幸運と言っていいのか最悪と言っていいのか甚だ論評に苦しむ。


 生まれ変わってから一週間が過ぎるも、赤ん坊の体では何もすることが出来ないので、ただただ天井を見て過ごす日々だった。


 赤ん坊の体で出来ることなど、食う・寝る・泣くの三つぐらいなもので、(しも)の垂れ流しは致し方ないとはいえ精神的にきつかった。何せ精神は40代後半のおっさんだし。


 動けるようになるまでは致し方ないと思いながらも無為に過ごす日々。そして、精神的な苦痛との戦いを過ごしていく。


「おぎゃぁ、おぎゃぁ」

『はいはい、おしめですかねー』


 本日も盛大に垂れ流した下の後始末をメイドと思しき女性がしてくれる。このメイドというのが若い娘さんなのだ。見た目の感じから高校生くらいだろうか。


 最初は親戚の子で大家族の家にでも生まれ変わったのかと思ったが、どうやら違うようだった。

 まず着ている衣服の質が違うのだ。その辺の違いから親族ではなく、雇われ従業員の類だろうと理解できた。


 若いのにもう働いているんだと感心もしていた。この若い娘さんが自分の世話を担当してくれている。見た目は茶に近い金髪をおさげにしていて目がクリっとしている。幼さは残るが割と美人顔だろうか。


 もう一人メイドのような女性がいるのだが、そっちの女性は中年のおばさんと言っていいのか、30過ぎに見える女性だ。まだまだ中年と言うには早いだろうか、女性はそういうのに結構敏感だから、本人には言えないだろうな怒られそうだし。


 自分の世話をこんな学生のような娘さがしてくれて、下の世話をしてもらい、あまつさえ体の隅々まで視姦されてしまうなんて。


 母親は忙しいのか、姿を見せることは少ない。その姿を見るのは日に3回くらいだろうか、部屋に来て姿を見せるのは主に母乳を与える時だけで、それ以外の世話はメイドに任せきりだった。粉ミルクは使用しない主義なのか哺乳瓶を使うことはなかった。


 これはこれで数少ない母親とのスキンシップであり楽しみの一つとも言えた。決して邪な気持ちからではない。食欲に勝てないだけですよ。ええ……絶対に……。


 自分の身の回りの世話と言っても、この若い娘さんの主な仕事はおむつの交換くらいなもので、殆どただの付き添いでしかない。


『今日も大量に出してますねー』


 嫌な顔をせず、にこやかに対応してくれる。子育てなんて経験あるのか分からないような若い娘さんが手際よくおむつを交換していく。

 てきぱきとおむつが解かれて無防備に下半身を曝すことになる。そして無抵抗のまま、おむつが交換されていき気持ち悪かった下半身がさっぱりしていくのだった。


『坊ちゃまも、いずれは立派になられるんでしょうね。フフフ』


 おむつを交換しながら若い娘のメイドさんが、にこやかに何かを言っている。その視線は主に下半身に向いているのだが、今の自分は俎板の鯉、まだまだ立派な物はございませんが、ここは甘んじて恥辱に耐えるしかなかった。



 ◇



 私がこのお屋敷で働きだしたのは14の頃だった。前任者が丁度結婚するとかで、辞めることになって空きが出来たのだ。

 メイドの募集条件は掃除に洗濯は当たり前で、子供の世話と料理が作れる事が必須条件だった。

 料理と言っても一般的な家庭料理ではなく貴族様にお出ししても問題ない料理でなくてはならなかった。母が宿屋の厨房で働いていたこともあり、料理はそれなりのものが出来たので、なんとかその条件はクリア出来た。

 貴族様と言っても、ここのお館様は準貴族の士爵様なので、そんなに豪勢な料理でなくてもよかったのが幸いしたみたい。


 奥様に二人目のお子様がもうすぐ産まれるとのことで、メイドの人数を増やすことも考慮されていた為、私たち母娘が二人して雇われたらしい。


 赤ん坊のお世話ともなれば昼夜を問わずお世話をしないといけなくなるから、住込みでの仕事となった。

 これには非常に喜んだものだ。何せ住居に住むには家賃を領主に支払わなければならないのだから。

 住込みとなると、その家賃を払わなくてもいいし、おまけに余った食材を自由に使っていいらしく食事の面でも優遇されていた。住込みということで、少しお給金が少なかったが、それでも好待遇なのは間違いない。


 奥様が無事二人目のお子様を出産されました。黒髪の可愛らしい男の子で名前はコリスアーデと名付けられました。


 その赤子の世話が私の役目なのですが、そのコリスアーデ坊ちゃまというのが、全くと言っていいほど手のかからない赤子だったのです。

 泣くことが極端に少なく、夜泣きも殆どなかった。泣いたと思ったら、それはおむつの交換の合図なのです。


 奥様はほぼ決まった刻限に母乳をあげに来ている。その刻限前に泣き出すこともなく、来るのが分かっていると言わんばかりにジッと待っているのだ。これには正直驚かされたが、母乳を飲んでいる姿を見ると嬉しそうにしているので、やはり母親を恋しく思っているのは当然なのだろう思うことにした。


「おぎゃぁ、おぎゃぁ」


 どうやら、おむつの交換をしなくといけなくなったみたいだ。コリスアーデ坊ちゃまが泣くと、まずおむつの交換なのだから。


「はいはい、おしめですかねー」


 そう声を掛けながら、おむつを解く。やはり盛大に漏らしているようだ。


「今日も大量に出してますねー」


 汚れたおむつを専用の籠に放り込み、汚れた下半身を乾いた布できれいに拭いていく。その時、露になった可愛い下半身を見て思わず微笑んでしまう。


「坊ちゃまも、いずれは立派になられるんでしょうね。フフフ」


 コリスアーデ坊ちゃまは奥様に顔立ちは似ているので、女性にモテるお顔になるだろうと思いながら、おむつを交換するのだった。



 ◇  ◇  ◇



 生まれ変わってから3歳になる頃、ようやく自由に家の中を動き回れるようになっていた。ハイハイの頃は部屋の中だけが行動可能範囲だった。故に限られた情報しか目にすることが出来ない。

 何せ部屋の中には大した物がないのだ。置いてある物と言えばベッドとその横にサイドテーブルのような物と簡素な作りの木の椅子が一脚置いてあるだけ。

 サイドテーブルの上には照明器具なのか油ランプが置かれていた。後は部屋の入り口に替えのおむつの入った籠と使用済み物が入っている二つの籠が置いてあるだけだ。


 ベッドはベビーベッドなどではなく、普通の大人用のベッドだった。そのベッドが赤ん坊の自分に用意された物なのだろう。大人になるまで使えるということだ。

 しかし、下手に動き回ったら落ちそうなので、赤ん坊には危険ではないだろうか。


 床は木のフローリングになっていて、よく掃除がされているのか、磨き込まれていて光沢を放っていた。


 窓の作りは木枠で出来た窓枠に透明度が低いのか、やや曇ったガラスが使用されていた。その窓にはカーテンなどはなく、代わりに木造の扉が備え付けられていて雨戸になっているのだろう。


 その窓を見た時は、ここは中世の街並みを保存でもしている外国の街だろうかと頭を捻ったものだ。


 更に、疑念を抱いたのが電気製品がないことだ。照明器具と言える物は、サイドテーブルに置いてあった簡素な作りの油ランプを照明に当てているだけで、何の油が使われているのか灯りが灯され芯が燃えているとき少し臭かった。


 この家の住人の生活スタイルなのか近代文明を感じさせる物が一切身の回りに無いことに落胆を禁じ得なかった。



 ようやく自由に動き回れるようになり現状把握のために家の中だけとはいえ、いろいろと動き回る。この家はかなり大きな家だった。メイドを雇えるだけの事はある。屋敷と呼称するほどの広さがあった。

 部屋数も多いのでいろいろと物色して回っているが見つかると怒られる。そう言った日常生活へ、赤ん坊からやんちゃ坊主へとクラスチェンジをしていく。


 やんちゃ坊主にクラスチェンジしてからは、世話係をしてくれている若いメイドさんとの格闘の日々でもあった。目を盗んでは部屋を脱走して、見つかれば部屋へ連れ戻される。その繰り返しである。


 その若いメイドさんの名前はマルテと言うそうだ。

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