83話「夢破れ、現実を知る」
暗い暗い夜の底。
天井には美しい宗教画。そこから伸びるヒビ割れたシャンデリア。さらにその下には円卓が。
荒れ果てた教会を彩っていた。
既に円卓に座すものが二人。
一人は狐面をつけた者。不機嫌そうに舌打ちを定期的にしては、円卓を蹴り上げていた。
もう一人は酷く落ち着いた様子でただ座って待っている。残る二人が姿を見せるその時を。
「いやぁ、驚いた驚いた。オジさん、斬られるかと思って冷や汗かいちゃった。はい、メアリー・スーちゃんの回収してきたよ」
教会の割れた窓ガラスから無数のコウモリが現れたかと思えば、すぐさま人型となり吸血鬼が姿を現した。
遅れて登場する黒い球体が、コウモリの群れへと姿を解くとその中にいたメアリー・スーがそのまま、座席へと落ちる。慣れた様子でお辞儀を一つして、二人に目配りをすれば、吸血鬼も席につき、これにて今回の役者が顔を揃えた。
「ご苦労様です。さっそく本題に入りましょうか」
金髪の男が傍らにおいた杖を手に取って、一度地面を突いた。
人心を絡め取るような声は瞬く間に教会内に満ちる。誰が主導権を持っているかなど、明白だった。
「此度は我々の信頼を二度も裏切った、愚かな同胞について語りましょう」
「我らの間に信頼など、元よりないも同然だ」
狐面が苛立ちまじりに円卓を叩く。
別にメアリー・スーを擁護するつもりもない。ただ、余裕綽々と言葉を繰り出す男が気に食わないだけだ。
「それに、語り合うまでもないだろうよ。俺や吸血鬼がなんと言おうと、お前は手を替え品を替え、俺たちを言い含めるのだからな」
「まさか、そんなことはありませんよ。我々は運命共同体。同じ考えを共有できるよう、しっかりとお話させて頂きますが」
男の会話など聞く耳もないと言いたげに狐面は立ち上がった。
そのまま、下駄を鳴らしては出口の方へと向かっていく。
「弁論においてお前の右に出るものなどいないだろう。付き合うだけ無駄だ。好きにしろ、それが俺の答えだ」
賞賛とも皮肉とも取れる言葉を残して、狐面は教会を去って行った。
残されたのは金髪の男に、吸血鬼、そしてメアリー・スー。この時点で、メアリー・スーの運命は決まってしまった。
「ではメアリー・スー。残念ですが、私を裏切った貴方を最早側に置くことはできません。せめてもの情けです。苦しまないよう、一瞬で消し飛ばしてあげましょう」
男の手のひらの上に、輝く球体が出現した。
テニスボール程度の大きさのそれは、空を飛び、ゆっくりとメアリー・スーの方へと向かっていく。
「嘘、こんなところで終わってしまうの? そんなのは……まだ、まだ嫌よ!」
「時に人生とは理不尽なのです。そうならないために我々は藻掻き足掻く……ですが、メアリー・スー、貴方の選択は間違っていたのでしょう。次はもう少し、お利口に立ち回れるといいですね」
「まだ、ハッピーエンドになってないのに! 消えるなんて! 受け入れられないわ!」
教会内からメアリー・スーの姿が消える。
想定通りと言わんばかりに、発光する球体を消して男は立ち上がった。
「全く、自分の運命くらい受け入れて欲しいものです」
「あぁ、君が出るまでもないよ。オジさんが見つけて始末しておく。君は他にもやること一杯あるんだし、そっちに集中しておいてよ」
そんな男を制止するように吸血鬼が飛び上がる。
男の返答を聞くよりも先に、吸血鬼は割れた窓から夜空へと飛び出していった。
「珍しくやる気があるようですね……素晴らしいことです」
月明かりに照らされるコウモリたちの群れを見上げて、男は頷いた。
命を賭けた隠れんぼ、あるいは鬼ごっこが始まりを告げる。




