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想造獣  作者: 雨有 数
第1.5章 公王町事件簿
82/91

82話「終わりと始まり」

「龍宮寺さんは?」

「色々とやることがあるそうです」


 ガタガタと揺れる車内の中、運転席に座った屋流が聞いて舞が答える。

 あの後、俺たちは流石に夜も遅いということで龍宮寺が屋流を呼んでくれた。色々とまだやるべきことはあるが、取り敢えず俺とロールと舞は帰ることに。


 今日は色々ありすぎて、身体が疲れ切っている。

 もう難しいことは考えられそうもない。


「大変だったみたいじゃないか。まさか龍宮寺さんがメアリー・スーと手を組んでいたなんてね。それに五大獣が姿を現したって?」

「はいッス。めっちゃ大変だったんッスよ~」


 ロールが頷いて答える。

 めっちゃ大変だったな。それはもうビックリするくらい。

 ヘラヘラとそれを聞いて屋流は笑った。


「どうだった吸血鬼は?」

「……底が知れませんでした。正直言って、脅威度では同じ五大獣でもメアリー・スーとは比べものにならないかと」

「その心は?」

「私も多少の手心は加えましたが……全く太刀打ちできませんでした」


 隣に座る舞の言葉を聞きながら、俺はあの時のやり取りを思い返した。

 人差し指と親指で刀を固定してしまえるなんて、その力は桁違い。強過ぎるなんて言葉すら甘いくらいだ。


「それは凄い」


 口笛を一つ吹いて屋流は頷いた。全く、この人は本当に緊張感がない。

 でも今はそのお気楽さが少しだけ助かった。この人まで真剣だったら心が持たないだろうから。


「でも、情報もゲットしたッスよ」

「情報?」

「そうッス! 自分の記憶喪失の原因は五大獣と関連してるって情報ッス、ね、センパイ」

「ああ、そうだな」


 俺と舞の間に座ったロールに同意を求められて俺は頷く。

 彼女が言った通り、吸血鬼は情報を残していった。敵が残していった情報だ、どれだけ信頼に事足るかは分からない。でも、的外れではなさそうだったし、吸血鬼が嘘をついているとは思えなかった。


「五大獣を追うことがロール君の記憶を取り戻すことにも繋がる……どう思いますか先生」

「うーん。今はなんとも。でも、五大獣が危険であることには変わらない。いずれにせよ、ボクたちの当面の敵でもある」


 今回の件でよくわかった。

 五大獣と呼ばれる想造獣がどれだけ滅茶苦茶な力を持っていて、それが振るわれればどれだけの人が巻き込まれるのかを。

 あれは野放しにしておくには危険すぎる。


 その脅威を取り除くことがロールの手がかりを得ることにもなるんだったら、一石二鳥というものだろう。

 たとえ吸血鬼の情報が嘘でも、それはそれでいい。


「ロールは何か思い出せそうか?」


 ロールの過去を知っている風だった吸血鬼、そしてメアリー・スーとの会話によって刺激を受けたロールが何かを思いだしているかもしれない。

 そう思って聞いて見たけど、首を傾けて唸っている彼女の様子を見る限りその望みは薄そうだ。本当にどんなことでもいい。思い出してくれたらそれだけで手がかりになるだろうけど……。


「残念ながら何にも……」

「それは残念だね。ボクからも一つ話がある」


 バックミラーを調整して、屋流が言った。

 後頭部に座る俺たちからは彼の顔を見ることはできない。ただ、声のトーンが一つ落ちたことから、これから屋流が喋ることはそれなりに大切な話なのだと推察できた。


「四体いる五大獣の内、謎に包まれたのは後二体。吸血鬼やメアリー・スーも大切だけど、そろそろその二体の正体を明かす時が来たとボクは思っている」


 吸血鬼、メアリー・スー。それらに並ぶ怪物が後二体。

 そしてそれが正体不明のままなのは、確かに気になって仕方がない。誰だって見つけられるなら見つけたいはずだ。

 でも、そうしないのには理由がある。

 多分、単純に見つけられなかったのだろうけれど。


「龍宮寺さんとも話し合うけれど、本格的に動き始める。舞ちゃんはもちろんだけど、日比君、それにロールちゃん。二人の手も貸して欲しい」


 屋流の真剣な声が揺れる車内に響いた。

 これに対する答えなんて、最初から決まっている。

 俺とロールは顔を見合わせて、同時に首を振った。


「そんなの……」

「もちろんッスよ!」


 と、声を揃えて返事をする。

 最初から乗りかかった船だし、今さら途中で降りるつもりなんてない。それに五大獣を追うことがロールのためになるのならなおさらだ。


「ありがとう。二人を頼りにするよ」


 屋流にしては偉く律儀な言葉だった。


「私も二人がそう言ってくれて嬉しいよ。本当は止めないといけないのかもしれないけれど……でも、私だって二人がいてくれた方が心強いと思うんだ」


 舞が微笑む。

 その言葉が何よりの励みだ。彼女の足を引っ張らないように精進しようと思う。

 そう決意を新たにして、俺は揺られた。

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