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想造獣  作者: 雨有 数
第1.5章 公王町事件簿
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75話「目覚め」

「ん……」


 目を開けたら、そこはやっぱり不思議な世界。

 空には満点の星。屋台からは奇妙な歌声が溢れかえっている。ここはメアリー・スーの世界。

 結局、あの悪夢から目を覚ますことはできたが、この世界そのものからは脱出できていないようだ。


「おはよう、亜月君」


 隣を見れば、舞が座っていた。

 俺が悪夢を見させられる前よりも舞はずっと落ち着いている。調子が戻ったようで何よりだ。


「ああ、嫌な夢からなんとか……な」


 身体を起こして俺は首を回す。

 俺を庇って死んでしまった舞の姿がどうしてもチラついてしまうが、あれは夢なんだと言い聞かせる。そうさせないために、俺は覚悟を決めたんだし。


「趣味が悪いッスよ、メアリー・スーは……」


 俺たちの間から顔を突き出してロールは頬を膨らませた。


「確かにね。でも……」


 舞は少し笑って頷いた。


「そのお陰で私は決めたよ」

「……」


 真っ直ぐな瞳で、舞は語る。


「向き合おうと思う。あの人が鉄仮面の私しか好きじゃないのなら、そうじゃない私も好きになって貰うように努力したいと思ったんだ。ごめん、大変な時なのに……こんな利己的なことを考えるなんて」

「自分はそれがいいと思ったッスよ!」

「ああ。というか、そもそも俺たちはそうなって欲しくて夏祭りにあの人を誘ったわけだしな」


 立ち上がって俺は胸を叩いた。

 最初から目標はなんら変わっていない。あの人が俺たちを弱者と呼んで認めないなら、認めさせるまでだ。それに、舞との関係が拗れているならそれを正したい。

 そして、今メアリー・スーと決着をつけることがロールの記憶をたどることにもなる。


 全てに決着をつける時が来たらしい。

 もう、逃げることも避けることもできない。迷う暇だって惜しい。


「それと……もう一つだけ、我が儘を言ってもいいかな」


 俺の前で座ったまま、舞はそう言った。

 頷く。

 いくらでもワガママなんて言ってくれて構わない。だってそうでもしないと、世話になりぱなっしだし。


「私が龍宮寺さんをどうにかするから、二人にはメアリー・スーの相手をして欲しい。ダメかな?」

「バッチリ!」

「了解だ」


 俺とロールは声を揃えて親指を立てた。

 そして舞に手を差し出す。


「なんかこうして頼られるのは初めてな気がするッスね」

「ああ、そうだな」


 いつもは俺たちが頼りっぱなしだったから、こうして彼女に頼られるのは嬉しい。


 俺の手を取って、舞は立ち上がった。


「……私は二人をいつも頼りにしているし、助けられてばかりいると思っていたけれど。内に秘めるばかりじゃ伝わらない、か」


 彼女の言葉は俺たちと、何より自分に向けられていた。

 そうと決まれば、後は行動に移すのみ。作戦はあんまりない。でも、やる気は十分だ。


「ありがとう二人とも。あの二人を私たちで止めよう」

「頑張るッスよー!」

「ああ、俺も全力でやるよ」


 お互いに手を合わせて気勢をあげた。


「随分と元気なのね。あのまま眠っていた方が幸せだと思ったけれど、違うみたい」


 何度も何度も聞いた声が俺たちをなじった。

 たん、たん、と地面を蹴ってメアリー・スーは足を止める。無邪気なその仕草からは考えられないほど、その声に温かさはなかった。


「何が幸せッスか、人の幸せを決めつけないで欲しいッス!」

「そう? 少なくとも、平凡な貴方に特別な貴方は貴方の中の私を迎合すれば良かったのにね。だって、龍宮寺は甘くないわ。本当に殺されてしまう」


 今までのメアリー・スーが嘘みたいに、冷たい表情で彼女は言い切る。

 こんな顔もできるのだと、少し驚いた。


「それは私がさせないよ」

「最後通告よ、私と一緒に夢を見ましょう。好きな夢を叶えるの、そうすれば怖い思いをしなくて済む。そうすれば、私は見て貰える」


 とびきりの笑顔をメアリー・スーは見せた。

 でも、俺たちがその手を取ることはないだろう。彼女と同じ夢を見る気はないし、彼女に夢を叶えて貰うつもりもない。


「何度だって言うけど、それは無理だ」


 俺が返事をした。

 瞬間、メアリー・スーはため息を吐く。最初からそうなることが分かっていたみたいに、肩を竦めた。


「そう。協力すれば勝てるはず。思うようにできたら、きっと大丈夫。そう思っているのね? でも残念。そうはいかないわ」


 両手を天秤みたく真っ直ぐ広げて、メアリー・スーは地面に倒れ込んだ。その意図は分からな――。


 身体が浮いた。

 同時に風が頬を撫でる。

 腹を締め付ける何か。そして身体にかかる凄まじい圧力。歪む視界。


「センパイ!?」


 思考が途切れて、俺は自分の身に襲いかかる感覚ばかりに支配される。

 数秒遅れて、俺はようやく気がついた。

 龍宮寺に身体を掴まれ、空に連れて行かれたのだと。


 早すぎて理解できなかった。

 メアリー・スーが倒れ込んだのは、迫り来る龍宮寺を躱すため。でも、その瞬間すら認識できなかった。

 半分パニックに陥りながら、俺は地面を眺める。


 舞とメアリー・スーの姿がどんどん小さくなっていく様子から、自分が一体どれだけの速度で移動しているのかが推察できる。

 車よりも速い。

 一つの生物が達していい速度ではなかった。


 様々な思考が頭を過る。

 恐怖、困惑、絶望、諦観。どれもこれも悪いものばかり。

 でも、ここまでの窮地に陥っては一周回ってしまう。つまり、俺はむしろ落ち着いていた。


「舞! 絶対また合流できるから! 心配しないでくれ!」


 もう随分と離れてしまったから、聞こえているかは分からない。

 でも、これだけは言わないといけない気がした。


「ほざけ。貴様の命はここで終わりだ。分かるだろう、どうしたって逃げれまい!」


 たてがみを風になびかせて、龍宮寺が唸った。

 俺はその大きく見開いた瞳を見据える。


「どうだろうな。俺はまだ諦めてないぞ」

「……童が!」


 凄む。

 龍の瞳が俺を睨めつける。恐ろしい。状況だって絶望的だ。

 でも、不思議と立ち向かえる。諦めるにはまだ早いと俺の心が告げる。


 おかしな世界の、おかしな夜空を俺は駆けていった。

 地獄のランデブーが始まる。


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