70話「花火」
遠巻きで俺たちは二人を観察していた。
意識して周囲を見ても、ギリギリバレないくらいの距離間を心掛けて。
二人の様子は、やっぱりどこかぎこちない。けれど、龍宮寺さんも舞の浴衣姿には驚いたみたいだ。
「なんで遠くから二人を盗み見てるんッスか?」
不服そうに頬を膨らませて、ロールが俺をジトーっと睨む。
なんでって……今さら説明する必要もないと思っていたけど、どうやら必要らしい。
「あのな。俺たちの目的は?」
「マイちゃんとリュウグウジさんの距離をググッと近づけることッス!」
「だろ? じゃあ、俺たちがいると雰囲気が悪くなる」
「あぁ……」
ここまで説明してロールは察したらしい。
別に俺たちと龍宮寺さんは和解したわけではなく、どちらかというと一時休戦。今はお互いに不可侵を結んでいるような感じ。(俺たちが圧倒的に不利なのは変わらないだろうけど)
だから俺たちが一緒にいて、雰囲気が悪くなる前に目玉である花火を見て貰って距離を縮めて貰おうという作戦に出たのだ。
みんなで一緒に花火を見られないのは寂しいけど……背に腹は代えられない。
「それで突然トイレに行くとか言ってたんッスか。しかも自分と一緒に……」
「それは誤解だって……」
舞と別れる時に適当な理由を言おうとしたら、トイレに行くと言ってしまった俺。しかもロールを無理矢理連れて行ったので舞に思いっきり不審がられた。
でもこれは察しが悪いロールにだって非はあると思う。それに察しのいい舞は多分俺の意図にも気がついてくれたはずなので気にする必要もないけど。
「で、花火まで後どれくらいッスか?」
「もうすぐのはずだけど……」
遠くで花火まで後なんとか。みたいな司会者の声があったし、数分以内に空に打ち上がるはずだ。遠目からでは漠然としか分からないが、二人はそう悪い雰囲気ではない。
このまま何事もなければ、きっといい結末が待っているだろう。
「自分も楽しみッスねぇ~。花火!」
「初めて見るんだっけ?」
「はいッス! 綺麗ッスか? ここの花火は」
「ああ、きっと気に入る」
夜空を見上げて俺は頷いた。
俺がそう言った瞬間。砲撃音のようなものが響く。
「あっ!」
ロールが人差し指で空を指し示す。
花火が発射された。
甲高い音と眩い光の筋が、夜空を縦に切り裂いて駆け上っていく。舞が選んだ場所は完璧だった。
何もかもが上手く言っている。予定通り。綺麗な花火を見て、二人の関係はグッと良くなっていくはずだ。
だから俺たちは安心してその様子を眺めていた。
花火が舞い上がって行く様を。
二人が親子になる様を。
花火が空の頂点に達して爆ぜる。
火の花弁が空一杯に広がった。夜空が一瞬だけ明るくなる。
「……え?」
そんな美しい花火を見て俺は思わず困惑した。
花弁が消えない。花火が散らない。
まるで空に貼り付けられたように、花火は最も美しい状態を保ったまま……そこにいた。本来ならあり得ない光景。それが、俺たちの前に姿を見せていた。
「ふふ。散りゆく様が美しい……そんな幻想馬鹿馬鹿しい。楽しい時間は終わらない。いつまでも見ていたい綺麗な花火。そう望むなら見せてあげる……いつまでも」
停止した花火の前で、佇む少女が一人。
金の髪、赤い瞳、白い肌。その特徴を併せ持った少女を俺は一人しか知らない。
「メアリー・スー……」
空のメアリー・スーが俺に視線を合わせてニコリと頷いた。
微動だにしない花火と、それに照らされるメアリー・スーが美しくも恐ろしいコントラストを描いていた。
メアリー・スーをなんとかしないと。
そう思えど、俺の身体はもう既に動かなくて……意識もどんどんと遠のいていく。最後に見えたのは、心配そうに俺を見るロールの顔だった。




