66話「夜、自宅にて」
「想像してたよりも、すんなりと行けたッスねぇ~」
天井から真っ逆さまにぶら下がり、ロールが語る。
アクロバティックな姿勢をする意味を問いたいところだが、ひとまず俺はロールの言葉を肯定した。龍宮寺さんを誘って一緒に夏祭りに行く。
あれだけ難しそうに感じた目標は、案外簡単にこなせてしまった。
「自分たちを見極めるって言ってたッスけど……。何かする気なんッスかね?」
「どうだろ、何かするって……何があるんだ?」
ロールがこてりと首を傾げて、それにならって俺も首を傾げる。
龍宮寺さんに何か考えがあるのは確かなんだろうけど、その考えまでは読めなかった。俺は諦めるようにベッドに身体を預ける。
「う~ん。お前たちを儂の手で直接排除してやろぉ~とか?」
両の手をくねらせてロールは似てないモノマネを披露する。もしこれが龍宮寺さんに見られてたら、多分俺たちはめっちゃ怒られてただろうな。
俺は首を横へ振る。その可能性は低かったからだ。
「舞と一緒にいるのに、そんなことすると思うか?」
「やると決めたらやりそうッスけど、センパイはそうは思わないみたいッスね」
「そんなことしたら、龍宮寺さんが舞に嫌われるかもしれないだろう?」
「だからやらないッスか?」
俺は頷いた。
龍宮寺さんと舞の関係性は拗れているが、別に互いを嫌い合っているわけじゃない。むしろその逆。二人とも、相手のことを大切だと思っているから拗れていると俺は睨んでいた。
だから、わざわざ龍宮寺さんが舞に嫌われるような行動を起こすとは考えにくい。
「じゃあ、どうやって見極めるか全然分からないッス~」
両手を伸ばしたロール。まさしくお手上げらしい。俺も同じだ。
だからそれが唯一の心残り。何もかも上手くいっているはずだけど、その一点のみが俺の心をざわめかせた。
一体、どんな方法で龍宮寺さんは俺たちを見極めようとしているのか……。手荒な方法だったりしなければいいのだが……。
「やぁ、少年少女! 何か悩みでも?」
「うわっ!?」
「幽霊ッスか!?」
突如室内に響いた声に俺は飛び退き、ロールは俺の背後に隠れた。
幽霊は自分だろうと、突っ込もうと思ったがそんなことより部屋に聞こえる声の主を探すことに集中しよう。
……探すまでもなく、声の主は目の前に立っていた。
開け放たれた窓を見るに、どうやら窓から侵入したらしい。鍵はきちんとかけていたはずなのにな……というか、ここ二階なのに。
まぁ今さらこれくらいでは驚かないようになったのは、悲しむべきか……喜ぶべきか。(ほぼ初対面だった時に舞は三階のガラスを突き破って姿を見せたわけだし……窓が叩きわられなかっただけマシかも)
「ニンニン! 邪魔してるぜ」
「はい、知ってます……。どうやって……かは聞きません。なんでこんな方法で……? というのも聞きません」
俺は多分に諦観を含んだ声色を絞り出した。どうやって、って聞いても忍者だからさ! みたいな返答しか帰ってこないだろう。なんでって聞いても、面白そうだから! としか帰ってこない。
風間さんはそういう人だ。世の中には、逆に聞かない方が疲れないことというのがある。これもその一つだ。
「凄いッスねぇ~。忍者って……」
「だろう。ロールも人間に戻ったら忍者になる?」
「なるッス~!」
単純だ……。
売り言葉に買い言葉とはまさしくこのことだろう。俺は咳払いをして、二人の注意をこっちへと向けた。
あの二人を自由に会話させていては、多分ずっと本題に入ることができない。
「それで風間さんはわざわざこんな夜にどうして俺の家に?」
「そうだったそうだった。黄成から聞いたよ、ハジメちゃんと一緒に夏祭りに行くんだって?」
あの人は本当になんでも喋るな……。
そう思いながら俺は首を縦に振った。風間さんには龍宮寺さんのことを相談した手前、こうやって俺たちの話が伝わっても構わない。ただ、屋流の軽口っぷりは時々心配になってしまう。(本人の人柄も加味して)
「当日アタシと黄成は夏祭りに参加できないから、気をつけてくれよ」
「気をつけるって……何をッスか?」
「ハジメちゃんに決まってるだろ?」
やっぱりまだ気をつける必要があるのか……。と、俺はちょっとうんざりしてしまう。
そして、夏祭りの時にも龍宮寺さんは何かをするつもりなのだろう。はぁ、ちょっと憂うつになったかも。
「どう気をつければ?」
「うーん、なんとも言えないけど……。ただ、何かあってもアタシたちが助けることはできないってことを知っといて欲しいんだ」
真面目な顔で風間さんは言った。
俺たちは今までなんだかんだ言っても、屋流に助けられたことも多くあった。それは多分、アイツが俺たちの知らないところで手を回していたりするからだろうけど……。今回はその助けがないってことらしい。
「夏祭りの日は流石のハジメちゃんも大人しくすると思うけど、万が一の時は……うん、諦めてくれ!」
「えぇ~!? マジッスか?!」
ロールが俺の分も驚いてくれたから俺は逆に落ち着いてその言葉を聞き入れることができた。
清く諦めるつもりは毛頭ないけど、俺たちじゃどうこうできる可能性が低いのも確か。何かあったら奇跡と舞を信じるしかない。
「こう見えて俺、諦めが悪いんですぐ逃げますよ」
「かっこいいんだか、かっこ悪いんだかよく分からない言葉ッスね」
「……そこは嘘でもかっこいいって言ってくれよ」
「か、カッコイイッスー」
めっちゃ棒読みだ。もう少し心を込めたってバチは当たらないだろうに。
「はっはっは! その調子なら大丈夫そうだな。じゃあ、夏祭り四人で楽しんでくれよ」
そう言い残して風間さんは飛び出してった。……もちろん窓から。
背中を追って窓をのぞけば屋根を飛んでいく風間さんの姿が見えた。凄い身体能力だ……。
「ホントにそれだけ言って帰っちゃったッス……」
「嵐みたいだったな」
流石のロールも面を喰らったのか、あんぐりと口を開けて驚いていた。一抹の不安は抱えつつも、夏祭りが楽しみなのは変わらない。
きっと、上手くいくだろうから……。そんな願いが混じった確信と共に俺たちは当日を心待ちにした。




