65話「結果報告」
「うぅん、まだッスかね~」
「そんなに舞ちゃんのことが気になる?」
「そりゃそうッス!」
二人の会話を聞きながら俺は屋流に淹れて貰ったコーヒーを飲む。やっぱり悔しいくらいに美味しいな。
今、俺たちは結果待ち中。舞が龍宮寺さんを誘うことに成功したかの報告を待っている。屋流の店で待つということで、丁度いいので屋流とティータイムを過ごしていた。
というわけで、ロールはそわそわしている。ロールが俺の代わりに慌ててくれているので、俺はというと、目に見えてパニックってはいなかった。
「そういえば先生、舞に変なこと吹き込みましたね」
「え? 変なのこと? あぁ、名前のことかな。でも、その呼び方になってるってことは功を奏したんじゃないの?」
クスクスと笑って屋流が肩を竦めた。
本当、何が功を奏しただ。話がややこしくなっただけだと俺は思う。そんな抗議を込めた呆れた視線を屋流にぶつけるけど、毎度の如く意味はなさそうだ。
「でも、舞ちゃんってさ」
言い訳をするように、屋流は口を開く。
「ああ見えて凄く不器用なんだ。なまじ人並み外れた能力を持っているから、普通の人間が弱音を吐くであろうことでもケロっと耐え切れちゃう。ように見えているのは、君たちだって知っているだろう?」
「それは、はい」
メアリー・スーの一件で面を喰らったから覚えている。外面はあんなにも完璧で、万事そつなくこなせてしまう舞だけど、その内面はボロボロだった。
彼女は顔に出さず、無理をすることが癖になってしまっている。
「だから、やり過ぎくらいが丁度いいかもだぜ?」
「ヤリュウさんなりの気遣いだったってわけッスね~」
「そうそう。ほら、僕ってできる大人だからさ」
「どこがですか……どこが」
俺のツッコミに、ここら辺? と、左胸の辺りをぐるぐるとなぞる屋流は無視することに決めた。
悔しいことに、口の上手さで屋流に勝てる気はしない。……腕っ節でも負けてしまうかもしれないけど。ともかく、屋流のペースに乗せられることだけは避けたい。
コーヒー請けのクッキーを囓って(これも屋流の手作りらしい。驚きだ)コーヒーを一口含んだ瞬間、店の扉が勢いよく開かれた。
「あ、マイちゃんッス」
「待たせてしまった、二人とも」
俺は舞の方に振り向いた。
「龍宮寺さんも……来るそうだ」
「マジッスか! やったッスね!」
「ああ、俺たちのことはなんか言ってたか?」
龍宮寺さんが来るのはまぁ予想通りだ。ただ問題は、俺たちのことをなんて言っていたか。
というか、俺たちも一緒に行くって聞いて、龍宮寺さんはどんな反応をしたんだろう。舞の雰囲気から察するに、突如怒り狂ったりはしていないようだ。
まずは一安心。
それで実際龍宮寺さんは俺たちについてどんな言及をしたんだろう。
舞の次の言葉を待った。
「二人のことは自分自身の目で見極めると言っていたよ」
「なるほど……」
「良かったッスねぇ~」
じゃあ、夏祭り次第っていうことか。ひとまずなんかとなりそうだ。
胸をホッと撫で下ろすロール。俺も同じように胸を撫でおろした。認められるにはどうすればいいか、まだ分からないが……。取り敢えず自分が弱くないと証明しなければならない。
それが難しいんだけどな。
「これも二人のお陰だよ。ありがとう。私一人だと、龍宮寺さんを誘うなんて考えは出なかった」
「でも、最終的に行動したのは舞だ。俺たちは背中を少し押したくらいさ」
舞の礼に返事をすれば屋流が丁度、舞の分もコーヒーを用意してカウンターに置く。
屋流に一礼して、隣の席に腰を降ろした舞。丁寧な所作でカップを傾けた。
「そうと決まれば、当日の準備をしないとね。僕も手伝うから、一緒に決めようよ舞ちゃん」
「あれ、ヤリュウさんも一緒に来るッスか?」
「ううん? 僕は別に。用事あるし、遠くからでも花火は見えるしね」
さらっと屋流は答えた。
行かない癖に凄く楽しみにしているような雰囲気だ。どうせなら屋流が来てくれた方が、龍宮寺さんとの気まずさも多少緩和されるんだけど……。
不必要な時にはひょいひょい姿を見せる癖に、肝心な時にはいない。そんな男なのだ。屋流という教師は。
「ほら、僕って家庭的だしさ。舞ちゃんみたいな年齢の娘がいたら、髪のセットとかしてあげたかったんだよ」
「ヤリュウさんが髪のセット……」
俺とロールの視線は自然と屋流の髪に行った。寝癖だらけのぐしゃぐしゃの髪。他人の世話をする前に自分の世話をした方がいいと言われそうな髪だが……。
家事が得意というのは嘘ではないので、多分髪のセットもできるんだろう。(屋流にセットされたいかは別として)
「あ、僕の寝癖セットを疑ってるでしょ。これも毎朝セットしてるんだよ?」
「えっ、ホントッスか?」
「嘘に決まってるだろ……」
屋流の嘘に乗せられるロールに俺は呆れて突っ込んだ。
「えぇ……ヤリュウさん嘘ばっかりッス~」
「ははは。ジョークだよ、ジョーク。面白いでしょ?」
「……確かにッス」
いや面白いのか。
と、今度は心の中でだけ突っ込んだ。ロールと屋流の感性にはついて行けない。
「で、舞ちゃんはどう? 一流スタイリスト屋流に任せてみる?」
「びっくりするくらいその気になってるな……」
カウンターに肘をついて、屋流は舞の方を見てお得意の胡散臭い笑顔を見せた。
いつの間に、一流スタイリストになったんだろうか。調子のいい奴だ。カットにも相当自身があるらしい。
「せっかくですし……お願いします。先生」
「大丈夫ッスか~? 勝手に髪で遊ばれるかもしれないッスよ! マイちゃん髪綺麗なんですから、ギャンブルに使っちゃもったいないッス!」
ロールはロールでこれまた酷い。
何が酷いって、別にロールは屋流のことを嫌いなわけじゃなく、本心のまま言っているから酷い。
彼女の無自覚ディスに圧されて舞は若干苦笑いになっていた。俺はロールの言葉に賛成するが、舞としてはなんとも答え難いんだろう。
「でも、知らない人より知っている人にして貰いたいんだ」
「マイちゃん――じゃあ、自分が人間になったらマイちゃんと一緒にお互いの髪をセットしあうッス!」
「それはそれで心配なんだけど……舞の髪が」
屋流とロール。正直どっこいどっこいだな!
髪で遊びそうな割合はロールの方が強そう……。なんて想像しながら口を開いてみれば、ロールは両頬をぷっくりと膨らませて俺を見る。
「ふーん、良いッスもーん! センパイの髪を練習台にするッス!」
「えっ」
「ははは。それはいいね! 僕も、本番前に日々君の髪で肩慣らししようかな」
なんだか恐ろしいことが話し合われている気がする。
二人の言い方的に、俺の髪では遊ぶ気だぞ! そんなのはまっぴらごめんだ。
「ま、まぁ、それはともかく。当日が楽しみだな!」
「露骨に逃げたね」
「逃げたッス」
屋流とロールの視線が突き刺さるが、無視無視。これ以上付き合っても、俺の為にはならない。二人に面白おかしく弄られるだけだ。
そんなやり取りでオチがついたところで、今日はお開きとなった。屋流と舞は今から二人で準備をするのだとか。俺たちも準備……があるかはともかく、色々と用意をしないとな。
最初は難しいと思ったが、蓋を見たら案外上手くいくものだ。夏祭り当日が本当に楽しみだ。




