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想造獣  作者: 雨有 数
第1.5章 公王町事件簿
62/91

62話「情報屋」

「市街地のど真ん中に神社が建っててさ、不思議な神社だなぁって思ったことはない?」

「思ったことはありますけど……」


 いつも通りのよれた白衣に、寝癖だらけの頭、そしてだらけた声色が屋流という男のダメ人間っぷりを際立てている。

 俺とロールは一度自宅で腹ごしらえをした後、話を聞くために屋流の店に赴いた。カウンターで怠けていた屋流に話を切り出せば、どうせだったらドライブでもしようか、ということでやって来たのはここ……龍宮神社。


 しかも、道すがらどうでもいい会話ばかりが繰り返されて、肝心の本題には一切触れられなかった。


「どうしてこんな場所に神社があるのか、都市開発の後に神社が来たわけじゃなくて、神社の後に町が作られたからだ」

「それは知ってます」


 綺麗に掃除された道をふらついて、屋流が呟いた。有名な話だ。

 他の都会でも、似たようなことは多々あるだろうし……。

 それでも屋流は話を続けた。


「まぁ、もう既に気がついているかもしれないけれど、龍宮神社は龍宮寺の一族が作り出した。そして、この神社に祀られている龍神とは……龍宮寺一族と関係が深いとされている。まぁ、そのまんまだね」

「なんとなくそういう予想はしてたッス~」


 空を泳いで、ロールが頷いた。

 名前が同じ、龍神伝説、ここまで龍という文字の共通点があればなんとなくは察せられた。そんな俺たちの反応も予想通りというように、屋流はにやりと嫌らしい笑みを浮かべる。

 まるで、じゃあ今から言う話は知らないでしょ? と言いたげな顔。


「龍宮寺一、あの人は龍宮寺一族の……始祖。名前通りの始めなんだよ」

「それはどういう?」


 屋流の想定通り、そんな話は俺たちは知らない。知るはずもない。

 ただ、理解ができなかった。龍宮寺一族の始祖? それって……。


「君たちだって、あの人が子供じゃないことは分かってるでしょう?」

「はいッス。あんな子供がいてたまるもんッスか!」

「うん、だよねぇ。その正体は最低でも江戸時代初期から生きている歴史の生き証人。公王町の歴史を裏から操っていた、この町の絶対的な支配者だ」

「……」


 江戸時代初期って……。最低でも四百歳以上というわけか? ちょっと規模がでかすぎてついて行けない。

 そんな人間がいるはずない。屋流の奴、また適当な話を……。

 そうやって屋流の話を嘘だと勘ぐりたくなってしまうが、思い返してみれば龍宮寺には真の姿ともいうべき、あの怪物じみた形態があった。

 あの正体不明の怪物姿が龍宮寺さんというのなら……確かに何百年も生きていてもなんらおかしくはない。


「そんな支配者に君たちは目をつけられたんだろう? いやぁ、僕だったら想像するだけで大好きな昼寝ができなくなっちゃうよ」

「それって夜は普通に寝てないッスか?」

「流石に夜は寝るでしょ?」


 肩を揺らして笑う屋流だが、彼の独特な言葉選びに俺とロールは戸惑うばかりだった。(ロールに関して言えば、屋流に並ぶセンスの持ち主だと思うけれど)


 つまり屋流の奴はこう言いたいのだろう。

 龍宮寺は君たちの想像よりもずっとずっと強大な敵で、敵うわけもないから身を退いた方がいいんじゃない?

 って風に。


「龍宮寺さんがどんな人だとしても、俺は立ち向かいます」

「センパイの言う通りッス!」

「それは舞ちゃんのために?」


 ゆっくりと俺たちに振り返って、屋流が首を傾げた。

 藤坂のためか……。確かにそれもある。でも実際はちょっと違った。


「自分たちのためでもあります。この町でロールの目的を達成するためには龍宮寺さんは避けては通れないはずですから」


 そう。ロールのためにメアリー・スーを探したり、想造獣と関わっていこうとすれば、それを狩り町を守る存在である龍宮寺さんは無視できない。

 いや、こちらが無視しても龍宮寺さんは無視しない。

 だから、龍宮寺さんをどうにかするというのは自分たちのためにも必要なことなのだ。


「あと単純に気に入らないッス! マイちゃんに対する態度も、自分たちに対する態度も! 自分の言いたいことだけ言って! その癖自分たちの話はまともに取り合ってくれないから、一発ガツーンと言ってやるまで納得できないッスよ!」


 俺の前に現れたロールが屋流に意気込みという名の愚痴を目一杯ぶつける。

 龍宮寺さんと揉めてから、ロールは言いたいことが言えてないから鬱憤が溜まってるんだろうな。ハッキリと言葉を口にする彼女だからこそ、それが言えなかったり、取り合って貰えなかったりする怒りは人一倍なのだろう。


 そんなロールを見て、屋流は胡散臭い笑みを浮かべた。

 どうしたってこいつの笑顔は嫌味ったらしかったり、胡散臭かったりするんだろう。


「君たちは本当に相変わらずだね。そんな君たちだからこそ、龍宮寺さんに立ち向かえるのかもしれないね。でも、無理はしちゃダメだぜ。僕は、こう見えても君たち二人のことが大好きなんだ」

「えぇ~、ホントッスか? 自分もヤリュウさん大好きッス!」

「俺はそこそこですけど……」


 ロールは大好きだと言っているが俺は正直な気持ちを呟く。

 というか、面と向かって大好きと言うのはたとえそう思っていたとしても照れくさい。それが嘘なら尚更だ。


 というか、屋流が俺たちを大好きなのもお得意の口八丁だろう。

 屋流の口からは吐き出される言葉は、その多くが適当と冗談で構成されているのだから。はいそうですか、とすっかり信じ込むわけにはいかない。


「そう。残念だなぁ。ま、僕の話はこれで終わり。それで、そんな僕のことがそこそこしか好きじゃない日々君がわざわざ店を尋ねて来たんだ。何か用事があるんでしょ?」

「センパイ根に持たれてるッスよ~」


 倒れ込むように境内のベンチに腰を降ろす屋流。いつの間にか俺の背後に立っていたロールに背中を押されるように、俺もベンチに座った。(もちろん屋流とは一人と、半人分の間隔を開けて)


「それはともかく、以前風間さんから藤坂が関わると龍宮寺さんの調子が狂うという話を聞いたのですが」

「うん。それはそうだね」


 あっさりと頷いて屋流は俺の話を肯定した。

 ここまでは予想通り。俺は本題を切り出す。

 龍宮寺が藤坂が関わると調子が狂う理由。俺はその理由が分かった気がしたのだ。


「藤坂の両親が関わっているんじゃないですか?」

「ご両親ッスか?」


 丁度、俺と屋流の間にすっぽりと収まったロールが俺の言葉を反すうした。俺は首を縦に振る。

 あの写真や藤坂から聞いた話を総合すると、龍宮寺さんは藤坂の両親と大変親しかったみたいだ。だから、今のところ考えられる理由はそれくらいしかない。


「うーん。人のことをペラペラと喋るのは……人としてどうかと思うけれど、僕は情報屋なわけだしなぁ。何か、対価とかないわけ?」

「対価って……」


 俺たちのことが大好きなんじゃないのかよ!

 っていう抗議の視線が伝わったのか、屋流は肩を竦めた。


「いやぁ、それはそれ。これはこれ。僕は関係のメリハリはしっかりするタイプの男なんだよね」

「そうですか……」


 できる限りジト目を奴に向けて俺はため息を吐いた。

 俺の抗議を物ともせず、涼しい顔して何かないの? みたいな感じなのだから本当に鬱陶しい。

 これだから屋流は……。


「センパイ~、何かないッスか?」

「前払いじゃダメですか?」


 苦肉の策。

 このまま話が聞けないというのも困ってしまう。だから俺は前払いを所望した。

 どうせ、金品を俺たちに提供して欲しいわけじゃないんだろう。想造獣を倒した時に残る力の残滓か、あるいは別のものか。

 どっちにしても、今屋流が対価として喜びそうなものなんて俺の手持ちにはなかった。

 

「えぇ~。仕方ないなぁ。サービスだよ」

「……ありがとうございます」


 釈然としないが俺は頭を下げた。

 生徒に対価を要求する教師とかこの世に存在するのだろうか。いたとしてもろくなものじゃない。

 とはいえ、情報屋としての屋流と教師である屋流は別と考えているのかも……いや、そんなことはないな。だとすれば、勝手に生徒の個人情報を利用したり、成績で脅してきたりしない。

 熟々ダメ教師だ。本当に。


「答えを言うと、半分正解。半分不正解」


 こほん、と咳払いをして屋流は人差し指を立てた。


「その詳細は君自身で考えること。何もかも丸写しじゃテストで点数取れないからね」

「全然対価と見合ってないんじゃ……」


 この程度の情報で対価を得ようとしていたのか、屋流の奴は!

 再び精一杯のジト目を屋流にぶつけてやる。当の屋流はニヤリと笑って右手を振るう。


「気が早いなぁ。最後まで話は聞くものだよ、日々君。私語は厳禁、着席必須。教師の話はチャイムが鳴るまで遮っちゃいけないんだ」


 と、いつの間にか俺たちは屋流の授業に招待されていたらしい。

 不服に思いつつも、これ以上口を挟んでも意味はないだろうから俺は黙った。彼の話を最後まで聞いて、それでも不服だったら思いっきり文句を言ってやろう。そう心に誓って。


「両親は関係しているとも言える。でもやっぱり大事なのは舞ちゃんだ」

「マイちゃんッスか」

「そう。龍宮寺さんは……舞ちゃんのことを……うん、ここから先は自分で考えること。分かったね?」

「肝心のところが……聞けてないじゃないですか……」


 俺は肩をガックリを落とした。

 そんなことだろうと思ったけど……酷すぎる! いや、でもいくら仕事だからとはいえ人の秘密をペラペラ喋るような人のがもっと酷いか?


「じゃ、帰りは送ろう。これ以上の質問は受け付けないよ」

「ありがとうございます……」


 お礼の代わりにたっぷりと白い視線を喰らわしてやる。(まぁ、屋流に効果はないだろうけど)

 俺たちは屋流のオンボロカーに乗って自宅まで送って貰った。一体、龍宮寺さんは藤坂のことをどんな風に考えているんだろうか。車内での俺の興味は、そればかりに向けられていた。


 憎い、違う。好き、多分そうだけどそうじゃない。

 大事、それもそうだ。愛している? それらは正解に含まれているけど、なんとなくしっくりこない。

 先に挙げたどれかに該当しているなら、二人の関係はもっと分かりやすいはずだから。


 悶々とした気持ちに答えが出ないまま、俺は帰宅した。

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