61話「夏祭り攻略!」
「はいはーいッス! 自分はリンゴ飴とかき氷とフランクフルトとワタアメと一口カステラと……」
「全部食べ物……それに、ロールはご飯が食べられないだろ……」
「あっ、そうでした……」
俺の隣でガックリと肩を落とすロール。ほんと、うっかり屋さんだ。
それがロールと言われればそれまでだが……。
昨日の夜は大変だった。
ロールの声が電話を通らないので、やむを得ずパーティー兼作戦会議は今日に持ち越し。その時のロールの駄々のこねっぷりと言えば――それはもう凄まじかった。
「じゃあ、金魚すくいとくじ引きと……あとはあとは」
「それもロールはできないな」
「むぅ~! なんで幽霊にはできないことばっかりなんッスかねぇ~。幽霊差別ッスよ!」
とまぁ、今はもう昨日の駄々が嘘みたいに楽しんでいるわけだけど。
俺たちの漫才みたいなやり取りを見て、正面に座った藤坂がクスリと笑う。
「二人は本当に仲がいいね、少し羨ましいよ」
「えぇ~、自分としてはマイちゃんとも同じくらい仲良しのつもりッスけど!」
「そうそう、ロールは藤坂と話したいって昨日は凄かったんだ」
そんなこんなで、俺たちは朝から藤坂の家にやって来て作戦会議――という名前の雑談に勤しんでいた。
とは言っても、既にトレーニングを終わらせている。相変わらずの過酷なトレーニングだったが、なんとか乗り越えることができた。
「龍宮寺さんを誘えそう?」
「ああ、頑張ってみるよ。今日か明日くらいに誘ってみようと思う」
頑張ってみる……か。
藤坂の言葉が妙に引っかかる。だって、誰かを誘うのに頑張るなんて言葉、普通は使わない。いや、誘いにくい人には使うけど……。
だから、藤坂にとって龍宮寺さんを誘うというのはそれこそ、難題なのかもしれない。
「今までそういう場所に誘ったことは?」
「ううん、誘ったことも誘われたこともないよ。私も、あんまりそういう場所に行きたいと思わなかったんだ」
「どうしてッスか?」
「うーん。二人に出会う前の私は……その……アレだったろう?」
「あっ鉄仮面!」
合点が言ったようにロールが話す。
あまりに直球な言い方で俺は思わず自分に出されたコーヒーを吹き出しそうになる。(ちなみに、屋流の淹れ方を踏襲しているらしく美味しい)
言い方的に藤坂が鉄仮面のことを気にしているのは明らかだった。ロールらしいと言えばらしいけど……もう少しデリカシーが欲しいかも?
「うん。龍宮寺さんと一緒に町を守る。その役目を果たすために私はずっと修練を続けて来た。だから、遊ぶ時間も暇も惜しかった。みんなが遊んだり、家族で旅行に行ったり、そうやって楽しんでいる間、私はいつも自分を磨いていたんだ」
複雑な表情。
嬉しさと懐かしさと、それに少しの後悔? それらがないまぜになっていた。
「でも、今からそれを取り戻すこともできる。そのために、俺とロール、それに龍宮寺さんで夏祭りに行くんだからさ」
「ああ。それと、もちろんロール君のためにメアリー・スーの捜索も続けないとね」
三つの大問題の一つ。メアリー・スーからロールの情報を聞き出すこと。
藤坂がそれに言及した。
でも、これはこれで難しい。どこにいるか分からない少女一人をこの町で見つけ出すというのは……砂漠で一粒の色が違う砂を見つけ出すくらいに無理難題だ。
でもメアリー・スーに関しては、以前に負け惜しみのような言葉を吐いていたので……まぁ多分いずれ向かい合う時が来るだろう。
だから、今は龍宮寺さんに関連した問題に集中したい。
「そうッスね。でも今は夏祭りに集中するッス! やっぱり目玉の花火は龍宮寺さんと二人で見るッスか?」
「えっ……私と龍宮寺さんの二人で?」
「そうッス、そうッス。綺麗な花火を見れば、きっと二人の距離もグッと近づくはずッスよ!」
「四人で見るのは?」
「それもいいッスけど……雰囲気でないかもしれないッス」
デートか何かと勘違いしてない?
なんてことは言えるわけもなく、俺は二人の会話を見守った。藤坂はあんまり龍宮寺さんと二人きりでは花火を見たくないらしい。
やっぱりまだ荷が重いのだろうか。(俺だってあの龍宮寺さんと二人きりで花火鑑賞は……うん、まぁ遠慮しておきたいかな!)
「まだ二人は嫌ッスかね? でも、ほら綺麗ッスよ~!」
うーん、と首を傾げながらロールは机の上に広がった観光雑誌を指さした。
藤坂が持ってきてくれた公王町の雑誌。魅力を語り尽くそうというお題目に従って、様々な観光スポットが紹介されている。
当然、夏祭りも特集されており例年の様子が所狭しと説明されていた。
そんな中でも最も目立っているのが大きな花火の写真。割と大きいらしく、打ち上がった時には昼間だと勘違いしてしまうほどだとか。
「ああ、綺麗だからこそ……ふ、二人とも見たいんだっ!」
「……」
藤坂は気恥ずかしそうに話した。
な……なるほど。龍宮寺さんと二人きりが辛いとかじゃなくて……目玉だから一緒に見たいと……。
「そ、そういうことだったッスか。じゃあ、一緒に見ましょう!」
「ああ、ありがとう。誘ってよかった。最初は断られると思って怖かったけれど……」
「まさか! センパイを見てくださいッス。こんな人が他に友達いると思いますか!?」
「おい」
さらっと、いやしっかりとディスられた俺。不服だ。
確かに友達は少ないけど、全くいないわけじゃないからな! と俺が抗議を始めようとした瞬間。
がらり。
扉が開く音が聞こえてきた。方向は玄関。誰かが来た。
「……! 今日は誰かが来る予定はなかったはずだけど」
その音に真っ先に反応したのは藤坂だった。
音もなく立ち上がり、手早く雑誌を片付けていく。次いで、ロールがくるりと空中を旋回した。
最後に、俺がイスから腰を離す。
「龍宮寺さんだったら、二人がいるということが見つかってしまうのは不味い気がする……どこに隠れて貰えれば……」
確かに不味い。
あんな忠告をされた後で、しれっと藤坂の家に上がり込んでいることがバレた日には……。最悪ここで戦争だ。
俺はできる限り音を立てないように移動をして、かつ誰かがいたという痕跡を残さないように務めた。
「そうだ。龍宮寺さんも絶対に入らない部屋が一つだけあった」
「どこッスか~?」
「一緒に来てくれ」
見事な隠密行動でリビングを抜けて廊下を歩く藤坂の背を、俺とロールは追った。
ロールは空を飛べるからまだしも、俺は歩かないといけないわけで。足音を立てないように歩くのは素人には辛い。
「この部屋だ」
藤坂が静かに扉を開けた。
その先には、ベッドに様々なぬいぐるみ。そして、古いものから最新のゲーム機が詰め込まれた……なんとも好奇心をくすぐられる室内があった。
全体的にピンク色のファンシーな壁。天井には青空と笑顔の雲が目一杯描かれている。
「……私の部屋だ」
「いや、流石にそれは……」
「もう時間がない。取り敢えず、ここで待っていてくれるとありがたい」
不可抗力的に女の子の部屋にあがってしまったうえに……まさかの置き去り……。
藤坂も少し焦っているのか、まくし立てるようにそう言って、床にパンダの座布団を置いて頷いた。
そしてそのまま部屋を出て行ってしまう。そうして、部屋には俺とロールが取り残された。
「センパイ、変なことしちゃ絶対ダメッスからね」
「するかっ!」
「ホントッスか~?」
怪訝な顔をするロール。むしろこっちの台詞だ。
彼女の方がその強い好奇心に身を任せて色々と物色してしまいそうじゃないか。俺は断じてそういうことはしない。
そんな勇気もない。
「でも、なんだか意外だな」
「可愛い部屋ッスね。それに、面白そうな機械もあるッスよ! たっくさんッス」
「もしかして、ああ見えて藤坂ってゲーム好きだったのかな?」
所狭しと並べられたゲーム機を眺めてみれば、今でも入手困難な最新ゲーム機すら置かれていた。
でも、よくよく見て見るとそれらのゲーム機に共通点を発見出来る。
「どれも未開封だ」
「ホントッス。マイちゃんこれで遊んだことないみたいッスね」
古いものも、新しいもの、等しく遊ばれていない。
つまり、誰かが藤坂に買ってきたゲーム機なんだろう。それが、手をつけられることもなくここに積まれているらしい。
「なんで遊んでないんッスかね~」
「単純にゲームをする気がなかったのかもな」
「じゃあ、誰がこれを買ったんですか?」
「……誰だろ」
考えられる可能性は凄く限られている。まぁ、屋流か龍宮寺さんか……それくらいだろう。
「あっ、こっちには写真が一杯置かれてるッス」
ふわりと移動して、今度は机の上に置かれた写真たちを見てロールが目を輝かせた。
見ていいか分からないが、好奇心に勝つことはできず俺も写真をのぞき込む。
「藤坂の写真は一枚もないな……」
「でも、リュウグウジさんみたいな人と強そうな男の人の写真は一杯あるッスね。二人とも仲良しみたいッスよ」
写真立てに納められた写真に、藤坂の姿は一つもなかった。
ロールが言ったみたいに、龍宮寺さんっぽい男の人と、屈強な男の人のツーショットが多く置かれている。
龍宮寺さんらしき人の隣に映っている男の人には、なんだか見覚えがあるような……ないような……?
「この男の人、マイちゃんに似てません?」
「あっ、ほんとだ。目元とかそっくりだな」
「こっちの写真に写ってる女の人もマイちゃんに似てるッス」
そう言って視線を移せば、今度はその二人に女性が加わった写真が一つ。
もしかすると……この人たちが?
「ああ。私の両親だ」
「おわっ!? 藤坂!?」
いつの間にか背後にいた藤坂に俺は思いっきり驚いた。それはもう凄く。
部屋を色々物色していることがバレてしまって、気まずいな。ロールはそんなことないみたいだけど。
「龍宮寺さんはなんとかしておいた。怪しんでいるみたいだったけれど……。多分大丈夫だ。でも、いつものように用事を頼まれてしまった。済まないけれど、今日はお開きだ」
「やっぱりリュウグウジさんだったッスか……突然現れてビックリしちゃったッス」
ぷいっ、と写真たちから目をそらしてロールが頬を膨らませた。
俺は写真から目を離せなかった。なんとなく……気になってしまって。
「龍宮寺さんは両親とも親しかったみたいだ。父に斬想刀を託したのも、龍宮寺さんだ。だから、私にとっては龍宮寺さんが親代わりでもあるし……祖父のようなものかもしれない」
俺の隣に立って、藤坂が大切そうに写真を持った。
「だから……うん、夏祭りに誘えるように頑張るよ」
「ああ、俺たちも手伝えることがあるならいくらでも手伝うから、遠慮せずに言ってくれ」
「そうッスね~。センパイにできることは限られてるッスけど」
「事実だけどロールが言うなよ……」
俺のツッコミを受けて、ロールは舌をペロリと出した。テヘっなんて言葉が聞こえてきそうである。
そんなやり取りも早々に、俺たちは藤坂の部屋から退散した。藤坂の部屋にしては意外だと思ったのは、言わないでおこう。(ミニマリストみたいな部屋だと思ったけど、思いの外物で溢れてた)
「帰り道は気をつけないといけないッスねぇ。どこにリュウグウジさんがいるか分からないですし……」
「ああ、そうだな」
藤坂に聞こえないように、ロールが耳打ちして来た。
この近辺をうろついていることがバレただけで、龍宮寺さんはぶち切れるだろう。でも、ロールの言い方は龍宮寺さんのことを、虫かなんかだと勘違いしてそうではあるけど……。
「あ、そうだ。明日は夏祭りの下見とかどうッスか? マイちゃんも!」
「下見……それはいいね。もちろん一緒に行こう。今からとても楽しみだね」
「そうッスよねぇ~、会場の下見をしたら夏祭りに対しての気持ちもグッとあがるでしょうし!」
ということで、明日は夏祭りの下見に行くらしい。
じゃあ俺のやりたいことは今日の内に終わらせる必要があるな。結局、俺は屋流に話しを聞けていない。そして、具体的に聞きたいこともできた。
どうして、龍宮寺さんが藤坂に関わると調子が狂うのか……。その理由がある程度掴めた気がするのだ。
だから、どうしても屋流にそれを確かめたい。あの男なら、恐らくその理由を全て知っているだろうから。新しい目的地を定めて、俺とロールは藤坂に別れを告げて山道を下っていった。




