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想造獣  作者: 雨有 数
第1.5章 公王町事件簿
58/91

58話「三大問題」

 白い入道雲、そのうえに太陽が構えて俺たちを強く焼き付けた。

 耳を容赦なくつんざいていく蝉の声が、体感温度を何度も押し上げているような気がする。一歩進む度に頬を汗が撫でていく。


 それが絶妙に気持ち悪かった。


「あの調子じゃ、ヤリュウさんに聞いても肝心なことは聞けなさそうッスねぇ」


 ロールが残念そうに肩を落とした。

 風間さんから核心に近い話は聞けなかったことから、屋流も期待できそうにない。他の角度からの情報を聞くことはできても、多分深いところには踏み込めないだろう。

 龍宮寺さんから情報統制が敷かれていても不思議ではないからだ。


 ただでさえ、あれだけ恐れられている人なんだ。誰かから答えを教えて貰うやり方ではいつまで経っても欲しい情報にはたどり着けない。


「そうだろうなぁ。じゃあやることは一つしかないな」


 だったら答えは決まっている。

 人に聞いてダメなら、自分で考えて導き出すしかない。


「そうッスね。解決策を自分たちで考えるしかないッス」

「そういうことになるな。問題点を整理しよう。まずは……」


 俺は現状の問題点の整理を始める。まずは大問題。俺たちが藤坂の元を去らなければ、龍宮寺さんに俺たちの安全が脅かされるということ。

 次にこれも大問題。藤坂と龍宮寺さんの関係。そしてこれも大問題なのだが……ロールのためにメアリー・スーもどうにかしなければならない。


 現在俺たちの頭を悩ませているのはこの三つの大問題だ。


「うーん、全部一つずつ来られても困っちゃうのに、一気にやって来ちゃったわけッスねぇ」

「……だなぁ」


 龍宮寺さん関連の問題をどうにかするために、俺たちはどうすれば龍宮寺さんの怒りを静められるかと、藤坂が関わると調子がおかしくなる理由。この二つをまずは考えていかないと。


「リュウグウジさんを黙らせるのは簡単ッスよ」

「黙らせるって……」


 本当にロールは龍宮寺さんに怒ってるみたいだな。

 俺のツッコミも気にせずに、ロールは解決策を語る。


「センパイが強くなればいいッス!」

「全然簡単じゃないだろ」

「えー? そうッスか? センパイは今のままでも十分強いと思うッスよ」


 何の疑問も抱いていないような顔で、ロールは言い放つ。コイツは恥ずかし気もなく兵器でそんなことを言う。

 言われてるこっちの方が気恥ずかしい。


「嬉しいけど、ロールじゃなくて龍宮寺さんに認められないといけないわけだからなぁ」

「それもそうッスね。じゃあやっぱりリュウグウジさんにセンパイの強さを理解して貰うしかないッスよ」

「理解して貰うって、俺の強さってなんだ?」

「えーっとそれは――」


 やっぱり言えないか。

 なんて思ってロールの方を見たら、彼女の言葉が途切れた理由が分かった。

 丁度、俺たちの視線の先に藤坂がいたからだ。


「マイちゃーん!」


 大きく手を振って、ロールが藤坂を呼んだ。

 余所を見ていた彼女がこっちに視線を合わせる。こんな場所で何をしていたんだろうか。藤坂のことだから、何か意味があるに違いない。


「二人とも奇遇だね。龍宮寺さんに呼び出された帰りかな?」

「そんなところッスね~センパイ」

「ああ、そうだな」


 藤坂の方に駆け寄っていくロールを追いかけて俺も駆けた。

 刀が入ったうさちゃん印の竹刀袋を携えた藤坂。刀をそのままぶら下げていた時よりも、グッと普通の人っぽさは増したように見える。

 相変わらずの制服がトレードマークだ。


「龍宮寺さんは何か言っていただろうか……その、随分と怒っていたみたいだから」

「そうッスねあの人は――」

「あー、いや、昨日のことについて少しな。大したことじゃなかった」


 風間さんにそうしたみたく、藤坂にも正直に起こったことを話そうとするロールを俺は遮った。

 藤坂の元から離れなければ殺すぞと脅迫された……。なんて言っても誰も幸せにならない。俺たちは龍宮寺さんと藤坂の関係もどうにかしたいのに、それを余計にかき乱すようなマネはしたくなかった。


 ロールは正直過ぎる。(それがロールのいいところでもあるんだけど)

 だから俺がしっかりしないと。


「それはよかった。今は帰宅中かな?」

「はいッス!」

「私も今は少し手が空いているし、一緒に帰ってもいいだろうか。思えば、亜月君の家を見たことがなかった」

「もちろんいいけど、俺の家なんて別に面白くもなんともないぞ?」


 だって藤坂の家があれだったからな……。山の上にある豪邸。それに比べたら、郊外にぽつんとある一軒家なんて、比較対象にすらならないだろう。


「友達の家というだけで、私は凄く興味深いと思うよ」

「まぁ、それは確かに……?」


 というわけで、帰路に藤坂も加わった。

 こんな光景を龍宮寺さんに見られてしまったら、激昂して俺たちを攻撃してくるんだろうか。その時は精一杯逃げるしかない。


「マイちゃんはリュウグウジさんのことをどう思ってるんッスか?」


 三人並んで道を歩きながら、ロールが話す。

 俺も気になっていたことだ。藤坂の口からあの人のことをどう思っているかは、実際に聞いたことがない。

 藤坂は少し困ったように視線を下にして、考え込むように押し黙る。


「大切な人……かな。あの人は私のことをそうは思っていないかもしれないけれど、ね」

「……」


 それは違うと、俺は強く否定できなかった。

 多分、違う。でもそれは何か根拠があって言える言葉じゃない。

 だから俺は何とも返答に困ってしまった。


「そうッスか~? マイちゃんと同じように考えてると思うッスけど……でも、マイちゃんに対する態度は気に食わないッス!」

「あれは厳しすぎる気がしないでもないな。いっつもあんな感じなのか?」


 俺が飲み込んだ言葉を真っ直ぐ伝えるんだから、ロールは本当に純粋というか正直者というか……眩し過ぎるというか。

 でもロールの意見には同意だ。あの態度はあまりにも酷すぎる。


「最近になって一層厳しくなったように思うよ。忙しくもなったね。でも、昔から厳しい人ではあった」

「その理由は分かったりしないッスかね?」


 信号機で立ち止まり、ロールが首を傾げた。

 最近になってか、その理由については俺たちの方が藤坂よりも推察できるかも。


「正直思い当たる節はない。本当にどうしてだろうか」


 多分、俺たちだ。

 俺たちが藤坂と一緒にいるからだろう。こうやって考えて見ると、なんか焼き餅を焼かれてるみたいだな。(そんなことではないのだろうけど)


 あの人は、藤坂に完璧な想造獣ハンターでいて欲しいのだろうか。だから、俺やロールみたいな不純物が混じるのをあんなにも嫌う。

 龍宮寺さんにとっては、鉄仮面の方がよかったのかもしれない。……もしそうだとすれば、それは絶対に間違っている。


「そうだ。夏祭りの件なんだけど……正直龍宮寺さんを誘うなんて選択肢は二人に言われるまで考えもしなかった。でも、みんなで夏祭りに行っているところを考えたら、楽しそうだった」

「こーいうのは人が多い方が楽しいって決まってるッス! 多分ッスけど」


 そうッスよね、っていう同意を求める視線が俺に突き刺さる。

 まぁ、時と場合によるかな……。なんて曖昧な意味を込めて俺は首を縦に振った。丁度、青信号に変わって独特なメロディが響き渡る。

 俺は追撃を避けるように足を動かして横断歩道を歩いた。


「だから、龍宮寺さんも誘いたいと思う……けれど。二人は、その大丈夫だろうか? 特にロール君は……」


 険悪な雰囲気になっていた二人を気遣っているみたいだ。藤坂の目の前であんな喧嘩じみたやり取りをしたんだから、そう思うのも無理はない。

 というか、現時点だと普通に誘っても俺たちが邪魔者として追い出されるか、藤坂と龍宮寺さんの対立を招いてしまう恐れがある。(多分、藤坂が誘えば龍宮寺さんも来るだろう)


 そうなれば元も子もないわけで……。


 夏祭りまでに、どうにかして俺たちのことを龍宮寺さんに認めさせないといけないわけか。……やばいな。


「自分は大丈夫ッスよ、リュウグウジさんも嫌いというわけじゃないんッス。もうちょっとマイちゃんに優しくてもいいと思うだけで!」

「ありがとうロール君。でも、龍宮寺さんのことだから何か考えがあってのことだろうから、大丈夫だよ」

「それもそうッスけど~……」

「じゃあ、夏祭りには龍宮寺さんも誘うってことで大丈夫か?」

「ああ、そうさせて貰うよ」


 そうと決まれば話は早い。


「じゃあ、早速作戦会議でもするッス!」


 飛び上がってロールが青空に拳を突き上げた。


「済まない。今日は夜までまとまった時間が取れなくて……。作戦会議はまた後日ということで構わないだろうか?」

「逆に夜からは暇なんッスか?」

「ああ、そうだけど……夜は流石に……」

「なら、電話で話してみるか?」


 二人の会話に割って入って提案をしてみる。今は便利な時代になったものだ、携帯電話という文明の利器があるのだから。

 わざわざ外に出なくても友達と話すことができる。


「その手が……」


 藤坂がぽんと手を叩いて頷いた。

 今まで藤坂と電話をしたことはあったが、そのほとんどが業務連絡みたいなもので短時間だけ。長電話なんてやる必要もないし、無駄な場合が多いので藤坂とは無縁のものだったのかもしれない。


「いいッスね! じゃあ今日の夜は通話パーティーッス!」

「作戦会議はどこに行ったんだ……」

「じゃあ通話パーティー兼作戦会議ッス!」

「ふふ、それは楽しみだね。うん、夜が待ち遠しい」


 調子のいいロールと、本当に楽しみにしている藤坂。そんな二人に挟まれて俺は自宅を目指した。

 俺の自宅に到着して、藤坂がめちゃくちゃ中に入りたそうにしてたけど用事があるからと渋々引き返していったのは……また別の話。

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