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想造獣  作者: 雨有 数
第1.5章 公王町事件簿
51/91

51話「それは夜更けのこと」

 草木さえ寝静まった深夜。

 公王町の権力が集まった市役所の、その地下で男は鎮座していた。

 見た目は子供。漆のような黒い瞳が闇に溶ける。闇よりもなお深い黒を抱いたしなやかな髪が僅かに揺れた。


 天井にはか弱い光が零れる。

 それに異物が照らされた。


「……ほう」


 中央に座した少年――のように見えた怪物が口を開けば、ぐにゃりと部屋そのものが軋む。

 ……ような錯覚を与えるほどに異常な圧が発せられた。

 龍宮寺一。

 それが少年の名前だ。


「独りぼっちで暗闇に、佇む貴方の心は有耶無耶に。不器用な優しさなんて必要ない。貴方は私。私は貴方。だから言うのよ、優しくね? 正直になりましょう。自分の気持ちに気付きましょう!」


 龍宮寺の耳元でそうやって語りかけるのは、彼と同じような子供。

 少女であり、そして想造獣。

 名はメアリー・スー。五大獣と呼ばれる強力無比なる想造獣の一角である。


「黙れ」


 その一言で、メアリー・スーの姿はかき消える。

 まるで夢幻の如く、姿形が部屋に溶けて行く。そう思ったのもつかの間……龍宮寺の正面に再び少女の姿が浮かび上がった。


 黄金のような美しい髪。ルビーのように輝く真っ赤な瞳。容姿端麗という言葉では足りぬほど、メアリー・スーの見目は素晴らしい。

 ゴスロリじみた服装も、彼女の魅力を一層と引き立てていた。室内であるというのに、傘を開いていることなど些事だと思えるくらいには……。


「ふふふ。恐ろしいのね? 不必要に近づけば、私はくびり殺されてしまうのかしら。それはとっても悲しいわ。だって私を殺すということは、貴方の想いだって殺すということなのよ?」

「どうでもよい。貴様は藤坂舞の命を奪いかけた。それだけで、儂が貴様を取って喰らう理由に事足りる」


 静かに龍宮寺は語る。

 しかし、その言葉の一つ一つから明確な怒りが感じ取れた。龍宮寺が何故怒っているかなど、考える必要すらない。

 室内が殺気と怒気で満ち溢れる中でもメアリー・スーの様子は変わらなかった。


「それだけ彼女が大切なのかしら? おかしいわね、だっていうのに……どうして貴方は彼女をお――」

「聞こえなかったか? 黙れと儂は言ったはずだが」


 またもやメアリー・スーの姿はぶれた。

 龍宮寺が攻撃をしたわけでもない。ただ、圧をかけただけである。

 しかし、それでも少女には十分脅威であった。

 そのうえ、実際にメアリー・スーを攻撃しようと龍宮寺は考えている。だが、その前に避けられるのだ。


 どういう仕組みなのか分からない。まるで自分の考えが筒抜けのようだった。


「余裕がないわね? 貴方らしくもない。ふふ、これ以上いじめちゃうと本当に取って食べられちゃいそうだし……今日のところはこれでおしまいね。貴方は私、私は貴方。だから貴方が夢を叶えたいのなら、いつでも私を呼んでいいのよ? いつでも、私は貴方の側にいるんだから」


 龍宮寺の返事も聞かず、メアリー・スーは今度こそ姿を消した。もう、現れることはないだろう。

 龍宮寺は誰もいない、いるはずのない天井を見上げた。

 本来であれば、メアリー・スーという強敵を捕まえるまたとないチャンス。だが、龍宮寺は取り逃がした。それが不思議でならない。


 なぜだか、メアリー・スーに手が出せなかった。

 それが彼女の力の一端なのか。あるいは、少女の話術によるものなのかは分からない。

 ただ、龍宮寺はその理由が前者であって欲しいと……。少しだけ考えていた。


 ……それは、どうしてだろうか。

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