50話「夏祭り」
その日の夜。
俺は晩ご飯と風呂を済ませて自室に戻った。
「丁度今見終わったところッスよ~!」
ふよふよと、空中を漂っているロールが俺を見て姿勢を戻した。
彼女が見ているのは、今日も今日とて同じアニメ。俺が日常生活を送ってロールの相手をできない時は、こうして部屋でアニメをつけっぱにして暇を潰して貰っている。
とはいえ、最近は早くアニメが見たいんで晩ご飯もう食べてきていいッスよ。みたいなことを言われたりもする……。分かりやすい奴だ。
「どうだ?」
「いやぁ、やっぱり勇者はかっこいいッスね! これを生みだした作者は天才ッスよ!」
ズバーン! ガッコーン! という擬音と共にロールは大仰な仕草を見せてくれる。ジェスチャーだから分からないけれど、多分剣でも振っているんだろうか。
「実際作者さんは天才なんだ」
「そうなんッスか?」
「ああ、新都綾って人なんだけど……これがまぁ、書くもの描くもの大ヒットの連続……凄い作家さんだよ」
「へぇ~。会ってみたいッスねぇ。色々、聞いてみたいッス!」
「そんな有名人、会えないだろうけどな」
なんて他愛ない会話を交わして、俺はテレビのリモコンを手に取った。
適当なボタンを押してチャンネルを変える。何か見たいものがあるわけじゃない。ただ、無音というのも耳が寂しいので、BGM代わりにテレビを流す。
「それでなんですけど、センパイ! 新しい目標が決まったッス!」
「新しい目標?」
「はいッス!」
力強く首を縦に振り、ロールは人差し指を天に突き立てた。
黒い瞳が、爛々と輝いているように見える。何を言うかはある程度把握できた。
「マイちゃんとリュウグウジさんの距離を縮めるッス!」
「……だよなぁ」
ロールの目標とやらが、余りにも俺の予想通りだったので俺の口からため息が漏れ出た。
そんな俺の様子が不服なのか、ロールはくるりと逆さまに浮遊して俺の顔を見つめる。ふくれっ面と共に。
「だって、センパイだって気になるッスよね! マイちゃんも気にしてそうでしたよ」
「確かにそうだけど」
「けど……?」
こくりと首を傾けるロールに俺は続ける。
彼女の力強い眼差しから逃げるように、天井に視線をやって。
「藤坂と龍宮寺さんの仲ってのは、何年も積み重なったものなんだ。そうやって作られた関係性を軽はずみに変えようとするなんて……」
「出しゃばりってことッスか?」
「まぁ、そうなるな」
逃げた視線の先に現れたロールの言葉を肯定する。
そう、出しゃばりだと思う。俺だって、二人の関係性に少し引っかかってしまうけれど、だからといってお節介を焼いてしまうのはどうなんだ。
付き合ってきた年月だって、俺たちが藤坂と一緒にいる時間よりうんと長い。多分、俺たちが知っている以上に、二人は二人のことに詳しいはずだ。
何も知らない俺たちが出て行って、いたずらにかき乱す方が迷惑なのかもしれない。
「でも、その積み重なりが……すれ違いによって作られたものだったら?」
「それはどういう?」
「本当はマイちゃんも、リュウグウジさんも上下関係なんかじゃなくてもっと別の関係性がいいと思っているかもしれないッス」
「……」
もっと別の関係性。
リュウグウジさんについては分からないけれど、藤坂が今の関係性に悩みを持っているというのはそうかもしれない。
だとしたら、何か力になれることもあるのかも……。
とはいえ。
「もし仮にロールの言う通りだとして、俺たちが何をできるんだ?」
「そうッス、そこなんスよねぇ~」
腕を組み、難しい顔をするロール。
今の関係に不満があっても、何年も続けてきたもの。それをいきなり帰ることは難しい。
「何かきっかけでも……」
「きっかけッスか……うーん、きっかけ……」
俺はベッドに身体を預けて唸った。
大きなものである必要はない。些細なきっかけでもあれば、時間をかけてゆっくりと変わっていくだろう。でも、そのきっかけが思いつかない。
二人して、うんうんと唸り始めた時だった。
「もうすぐ、公王町名物の夏祭り! 今年の夏は公王の空に打ち上がる綺麗な花火を見ませんか?」
なんていうコマーシャルがテレビから流れてきた。そういえばそうだった。
今年ももうそんな季節か。
なんて呑気に構える俺とは違って。
「ああー!」
ロールの声はなんとも慌ただしいものだった。
どうやら、閃いたらしい。なんとも奇遇な話だが、俺も丁度同じことを思いついた。




