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想造獣  作者: 雨有 数
第1.5章 公王町事件簿
46/91

46話「正体」

「やーっと見つけた!」


 神社を出て、公王町の観光を続けていた俺とロールの前に立ちはだかったのはハットリさんだった。


「凄く探したんだから。啓太君のお母さんを見つけたなら連絡の一つでもして欲しいな」

「そ、それはごめんなさい。でも、ハットリさんの連絡先なんて僕は知らないわけですし……」

「それもそっか! ま、せっかちだったアタシも悪いか!」


 あっけらかんと笑ってハットリさんは腰に手を当てた。しぐさの一つ一つから彼女の豪快さがにじみ出ている。

 相変わらず見た目は怖いけど……。


「それで、どこに行ってたの?」

「啓太君のお母さんを見つけた後は龍宮神社と庭園と博物館に市役所を回ってました」

「町の観光?」

「ええ」


 記憶喪失の幽霊に町を紹介してますなんて、口が裂けても言えない。町にいる人間が地元の観光を改めてするなんて、少しおかしいかもしれないがこう言うしかなかった。


「テレビ局に、神社に博物館に市役所。有名どころは回ったみたいだけど……まだ一つ隠れ家的な名物があるんだよね」

「センパイ聞きましたか? 隠れ家ッスよ! 行きたいッス~!」


 隠れ家。

 なんとも好奇心と興味をくすぐる響きの言葉にロールが耐えられるわけもなく……。ハットリさんに案内を頼むこととなった。


「え? そこに行きたいって? だよね! 分かる分かる! じゃあ、啓太君のお礼も兼ねてそこに案内しよう!」


 ……頼む必要もなく。半強制的に俺はハットリさんが言う隠れ家的名物スポットに案内された。そこがどこかも知らずに。



「……え」

「……これは」


 俺とロールは揃って硬直した。

 それはハットリさんが案内してくれた隠れ家的名物スポットが、想像の斜め上を行く代物だったから。

 お目当ての場所の、扉の前に仁王立ちしてハットリさんはふふふと笑みを浮かべる。


「ようこそ()()()、アタシの店に!」


 黒のジャケットの襟元を正して、勢いよく振り返ったハットリさん。

 その視線と言葉が俺だけじゃなくて、ロールに向けられたことは言うまでもない。今になって、最初からロールのことが見えていたような口振り。

 そして、俺たちが案内されたこの場所……ここは屋流の店。


 そこから導き出される答えは……ハットリさんも想造獣のことを知る関係者ということ。

 それにこの店の本来の持ち主が彼女だということだった。


「えええ!?」


 ということを冷静に考えて、その結果俺もロールも驚きの声をあげていた。


「そういう反応が見たかった! 黙ってた甲斐があったね。ま、詳しい話は中でするからさ、入ってよ」


 意気揚々とハットリさんは扉を開けて中へと入っていった。

 ここまで来て引き返すという選択肢は俺たちになく、戸惑いつつもハットリさんの後に続く。いつもの店内には白衣に身を包んだダメ教師の姿が見える。

 どうして今日に限ってここに居るんだろうか。


「たっだいま! 黄成久しぶりだな!」

「二週間ぶりかな? 元気そうで……っと、無事会えたようでなにより」


 相変わらず死んだ瞳と薄ら笑いが特徴的だ。

 俺は屋流の顔を一瞥して、すぐに視線をハットリさんに向ける。会話から察するに、どうやら二人は割と気安い仲らしい。


「一体どういうことですか? 屋流先生」

「そうッス! 全然知らない怖いお姉さんかと思ったら自分のこと見えてるし、ヤリュウさんとも仲よさそうじゃないッスか!」


 俺たちはほとんど同時に屋流を問い詰めた。

 ははは。なんていう笑い声と共に屋流はごめんごめんと俺たちに謝った。……その言葉からは謝罪する気持ちが一切感じられなかったが。


「迅ちゃんには予め日々君とロールちゃんのこと教えてたんだけどね。そしたら、会いたい会いたいって言って聞かなくてさ」

「だって、藤坂ちゃん初めての友達って聞いたらそりゃあなぁ?」

「でも、わざわざ自分が見えることと本名を隠す必要はあるッスか?」


 珍しくロールがまともなツッコミを入れてるな。屋流がハットリさんのことを迅と言っていたし、本名は恐らく風間(かざま)(じん)。藤坂に教えて貰ったこの店の所有者だ。

 わざわざそんなことを隠して俺たちに会うという、その心は一体どんなものなんだろうか?


「面白いから! それ以外に理由なんて必要?」

「ないッスね!」

「いや、あるだろ……」


 力いっぱい答える風間さんに続いてぶんぶんと首を振るロール。思わずツッコミを入れて俺はため息を吐いた。

 どうしてこう、俺の周りにはこういう人が集まってくるんだろうか。ここに藤坂がいれば、まだマシなのかもしれないが……。とかなんとか考えていると、風間さんが手を叩いて俺たちの注目を集める。


「じゃあ、改めて自己紹介を。アタシは風間迅。カフェ風流のマスター兼ハジメちゃんの助手だ」

「ハジメちゃん……」


 俺が知っているハジメという名前の人といえば……。龍宮寺一。見た目は子供、でも中身は底知れぬ龍宮寺一族の人間だけ。ということは……?


「あの子供お爺ちゃんのことハジメちゃんって呼んでいいんッスねぇ~。なんか怒られそうな印象があるッス~」


 俺が思っていることをロールがそのまま代弁してくれた。正直、そう呼んでいいと言われたとしても俺は無理だな。

 やっぱり怖いし。


「公王町広しといえど、龍宮寺さんをハジメちゃんなんて呼べるのは迅ちゃんだけだろうね」

「ハジメちゃんのが可愛いでしょ? それと、ちゃん付けは余計」

「可愛くていいだろう?」

「むぅ」


 どうやら風間さんと屋流では屋流の方が上手らしい。(少なくとも屋流の方が屁理屈屋ではあるようだ)


「じゃあ自分も自己紹介するッス~! 自分はロールッス、記憶喪失の幽霊ッス!」

「ロールちゃん、よろしくね!」

「えへへ~! よろしくッス!」


 この二人も仲よくできそうな感じだな。

 屋流と仲がいい時点で、屋流と仲がいいロールとも仲よくできるという関係性が成り立つわけだ。一方の俺は、屋流と仲よくできないので、もしかすると風間さんとも仲よくできないかもしれない……。


「はい、日々君のコーヒー……いるでしょ?」

「あ、ありがとうございます」


 コーヒーにありついて、俺はカウンターに腰掛けた。なんだかんだ言っても屋流の淹れるコーヒーは絶品だ。

 あんな人間からどうしてこんなに美味しいものが生み出されるのか理解できない。

 豊かな香りを楽しみつつ、俺は温かいコーヒーを口に含んだ。うん、やっぱり美味しい。


「黄成のコーヒーは絶品だよなぁ。黄成が淹れるようになってからコーヒーが飛ぶように売れるしさ」

「ヤリュウさんが来る前はハットリさんがコーヒーを作ってたんですか?」

「そうそう、迅ちゃんのコーヒーは凄いからね。天才的だよ……ある意味さ」


 天才的という言葉が決していい意味で使われていないのは雰囲気からして丸わかりだった。多分、天才的に下手という意味なんだろうな……。


「それは言い過ぎだろ?」

「即席コーヒーすら不味くできるのは天才だろ?」

「なんだか凄そうですね……」


 誰が淹れても同じ味が売りの即席コーヒーを不味くか……。風間さんの腕前は想像以上に凄まじいようだ。

 ふくれっ面になる風間さんをよそに、ああそうだ、と屋流が話し始めた。


「そういえば、迅ちゃんに二人を連れて来て貰ったのはボクも用事があったからなんだよね」

「用事ですか?」


 この男が用事なんて絶対ロクなことじゃない。

 そう思いながらも聞かないという選択肢はないだろうから、俺はしかたなく屋流の話に耳を傾けた。一体、どんな用事なんだろう。


「ああ。そういえばボクのビジネスについて話をしていなかったと思ってね」

「ビジネス? 公務員なのにこれ以上副業してるんですか?」


 信じられないな!

 今すぐこのダメ人間を通報して解雇してやった方がいいかもしれない……。俺の言葉をものともせず、わざわざ俺の隣に座ってにへらと屋流は笑った。


「公共的活動の範囲なのさ。だからだいじょーぶ」

「難しい言葉ッスねぇ」

「そうそう。それでビジネスの話なんだけど、こーいう綺麗な石に見覚えはないかな?」


 そう言って黄ばんだ白衣のポケットから屋流が取り出したのはきらきらと輝く結晶のようなもの。

 見覚えがある。確か、藤坂がスーパーゴキブリを斬った時に出てきていたもの。

 頷いた俺を見て屋流は、なら話が早いと告げてカウンターの上で結晶を転がした。


 ころころと転がる結晶は、天井の明かりを反射して七色に輝く。


「想造獣がどうやって生まれて来るかは説明した通り」

「ええ」


 屋流の説明はやや不十分だったが、今さら言っても仕方がないことなので俺は素直に頷いた。

 指で結晶を弄び、屋流はさらに話を続けていく。


「器に注がれたエネルギーの残りものさ。ボクはこれを集めてるの」

「どうして?」

「どうしてってそりゃあ、綺麗だろ?」

「……」


 うさんくさい笑みと共にそういう屋流。本当にこいつはどこまで本気で、どこまでが冗談なのか分からない。

 ただ一つ確かなのは、これ以上の理由を話すつもりがないらしいということだった。


「だから、日々君がこれを手に入れたらボクに融通してよ。お礼に色々してあげるからさ」

「……考えておきます」

「うんうん、考えといて。ま、ホントに綺麗なだけの結晶だからさ……少なくとも君にどうこうできるものじゃない。なら、ボクに渡した方が効率的だよ」

「綺麗な結晶なら自分も欲しいッス!」


 はいはーい、とロールが大きく手を振った。まぁロールなら欲しがると思ったよ。

 俺はただの綺麗な石くらい、全く欲しくはないのだが。それでも、すんなりと屋流の手に渡るのは、屋流の手のひらの上で転がされている感があって釈然としない。


「ロールが欲しいみたいですし、やっぱり先生には渡せませんね」

「じゃあロールちゃんにはこれをあげよう」


 そう言って、屋流はさっきまで転がしていた結晶を俺たちの前に置いた。

 小さいけど綺麗な結晶……。これを見て、ロールは目をキラキラと輝かせる。


「やったーッス! これ一個で十分ッス!」

「ということで、日々君よろしくね」


 わざとらしいウインクを俺にお見舞いして、屋流はカウンターから離れていった。ロールの扱いにも手慣れているのには驚きだ。

 どうやら、この男の手のひらの上からは逃げられないらしい。大人しく結晶を融通するとしよう。


「じゃ、それだけ。今からボクは迅と少し用事があるからコーヒーを楽しんだら戸締まりよろしく。あ、お菓子も勝手に食べていいから」

「そーいうわけだ! また会おうロールちゃんに日々君!」


「またッス~!」

「お疲れ様です」


 と、連れ添って去って行く二人の背中を眺め、俺はコーヒーをすすった。お菓子も勝手に食べていいから、なんて子供扱いして……。

 ま、食べるんだけどさ!


 屋流が残していったお菓子を頬張りながら、俺はロールに話を振る。


「今日はどうだった?」

「楽しかったッス! この町をもっと知る事ができました! それに……カザマさんっていう新しい友達もできたッス!」

「そうだな、俺も楽しかったよ」


 なんて二人で笑い合えたなら、炎天下のした散歩した甲斐があったというものだ。明日は明日で朝から藤坂と特訓の予定。中々ハードだが、楽しみでもある。

 程ほどにコーヒーとお菓子を楽しんだ俺は、しっかりと戸締まりをして自宅に帰った。

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