41話「車内にて」
「今日、会ったんですって?」
「主は地獄耳か何かか?」
暗い暗い夜の山道を下る車が一台。
運転席に座った白衣の男性。屋流黄成は助手席に座した少年と会話する。
龍宮寺一と呼ばれる少年の言葉を聞いて、屋流は肩を竦めた。
「これでも情報屋ですからね。それで、どうでした?」
「亜月日々という童についてか? それともろぉるなる幽霊についてか?」
「どちらも、でしょうかね」
古くさい車体から、やけに派手なエンジン音が響く。
フカしているというよりも、これだけ派手に音を響かさないと車体が動かないらしい。
ガタガタと揺られながら、二人は会話を続けた。
「興味深い童共じゃった」
「でしょう? 舞ちゃんにもいい変化が訪れている」
「ほう?」
「龍宮寺さんも見たでしょう? 彼女の変化を」
「主はそう言うが、それは本当によい変化か?」
トントントン。
窓を指で叩いて龍宮寺は言った。
その声色は重い。ちらりと龍宮寺の方に視線をやり、屋流は肩をすくめる。
「あの変化が悪いものだと龍宮寺さんは言いたいわけで?」
屋流の直球な物言いで場に沈黙が訪れた。
「さてな。童共との交流を交えて、藤坂舞が腑抜けてしまうやもしれぬ」
その沈黙を破り、龍宮寺はぽつりと呟いた。返答を聞き、屋流は薄ら笑いを浮かべる。
「腑抜ける……ですか。龍宮寺さんに言わせてみればあれが腑抜けるということなんですね?」
「知らぬ。然して刃に迷いが映るやもしれぬ。無敵の藤坂舞に新たな弱点が生まれてしまうだろうなぁ」
「ははっ……」
「……? 何が可笑しい」
クスリと笑って屋流は首を横に振う。
「いえ、龍宮寺さんにしてはやけに短気だなと。それだけ、彼女が大切ですか?」
「ふはは。主にしてはやけに浅い。儂は藤坂舞をこの町の守り人として期待しているだけに過ぎん。弱くなるのならば、いっそあのまま鉄仮面でも被っていた方が良かった」
「……彼女が聞けば、それをどう思うでしょうね?」
「それも知らぬ。どうでも良いわ斯様なこと。儂は小を切り捨て大を生かす」
「なるほど。……舞ちゃん個人よりも彼女が救うであろう顔も知らぬ人々の方が大事であると」
「無論。亜月日々、ろぉる。あの二人が藤坂舞を腑抜けさせ……その強さを曇らせるようなことがあれば……」
「あれば?」
ぐにゃり。
また凄まじい圧が車内に生まれた。
隣で運転をする屋流は涼しい顔をしているが、その圧は人が放てるそれではない。
「儂手ずからその弱さを切り捨てねばなるまいて」
「それはそれは……」
「もしそうなれば、邪魔をするなよ屋流黄成」
「ええ勿論。私はそういう面倒事には首を突っ込まない主義ですし……何より、そうなっても大丈夫でしょうから」
「……?」
夜の山道を一台の車が走る。
より深い闇に飲まれて、そして車は消えていく。
空には欠けた月が浮かんでいた。




