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伽藍の龍  作者: KOUHEI
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カブール4

後をつけてきたガキどもを死霊の丘に捨てて来た時は、罪悪感などかけらもなかったが、今は心底ジークは怖くてたまらなかった。


高い木の枝の足元に見える、土塁に囲まれた町は煌々と輝きに満ちて、何事も起こりそうにない。

ふとジークは、あの大事な地図を懐からだして、わざわざ見せてくれた男の顔を思い出した。

海岸線は灯りをともした数隻の船が点々と浮かんでいる。明日には荷物や人を乗せて、この小さな港町を出て行く。あの商人も、荷を船に積んで出て行くだろう。


空と暗い海の境目が揺らいでいる。揺らぎが近く見えたり遠くに見えたりして、ジークは目を大きく見開いた。

「やばい、やばい。あいつらは馬鹿だ。知っててあの女に、あの罠を仕掛けたのか、なんにせよ。あいつ等は馬鹿だ」


眼下の街は、煌々と明るいかがり火の色がうすぼんやりと霞んできていた。


「お前ら、龍の力を思い知れ」と。ジークはつぶやいた。

足元からぞわぞわと恐怖がせりあがってくる、


水平線の向こうに輝いていた星が揺らいで暗い闇に消え、風はやみ、 遠くに見えていた水平線が黒く盛り上がっている。


高く盛り上がった大波の第一波が、丘の上の土塁近くまで押し寄せると、木と木がこすれあう鈍い音が高台に居るジークの耳に届いた。

大波は港や町を一瞬で破壊し、第二波の大波が壊れた家の屋根や柱をえぐり取るようにさらっていく。


ジークは木の上で心底おびえていた。

何度かアカデミーでは、ジークの力の開放を望んで、教授連に頼み込んだが、力を制御できないことには解放できないと断られている。

まざまざと龍族の力を見せつけられ、ぶるっと体を震わせた。


ジークは生きていることに感謝し、周囲を見回して頭を垂れた。

いつになったらあの大きな力を自在に操ることが出来るのか。


ジークは自分の立っている位置を見直した。

大丈夫だ。波がこの丘の上の高台まで押し寄せることは無い。


ジークは大木の枝の上で、一人分の簡単な結界を作り夜を明かした。

日が昇ると眼下には、石の外壁だけが敷石と共に残っているのが見えた。

波がさらっていった港を振り返って見ることもなく、半島を横切る坂道に、入っていった。


坂道がつづきいつしか小高い山が連なる山奥にと歩を進める。奥地に入るほど勾配が増していく。

港町で見せてもらった商人の地図をもとに、極力死霊の出没する地域を避けてジークは登った。

寝るときはロリマドンナが群生している場所の高い木を選んだ。

三日間安全と思われる山道を選び山中で過ごし、用心に用心を重ねて危険地域を迂回して何とか次の街へたどり着いた。


到着したガーデーヴェもカブールと同じに商人達が作った港町だ。

安全な航海で荷物を運ぶためには、沿岸部に沿うように船を走らせなければならない。となると沿岸部分は暗礁やが多く船乗りの神経がすり減り、事故が多発したので、短い間隔で寄港できるように港を作り、船乗りを休ませることで荷物を確実に運搬できるようにした。


諸国いろいろな事情はあれど、商品の流通が滞ると税金としての商品も金も集まらない

そのため大国が軍隊の一部をあちらこちらと死霊討伐に送り始めたが軍隊と言っても、商人が雇っている警護兵と違い短い期間しか滞在しないので、一定の死霊の数は減るものの死霊は根絶されることは無かった。

ガーデーヴェの町はカブールよりも大きく、湾には大きな船が何艘も浮かんでいる。小さな船がその間を行きかっていて荷物上げ下ろしが行われた居た。


港街に近づくにつれ護岸からに少し離れて、海から突き出た、直立した奇岩が護岸を囲むように突き出ているのが見えた。細い奇岩には縄が架けられ船が流れていかないようにくくられている。

よく見れば大きな船は護岸から離れた場所に係留されている。


港を囲むようにして点在する岩には大きな船が係留されているのは護岸近くが浅瀬になっているのだろう


細い二本の棒があちらこちらと伸びているのは、船から船へと荷物の運搬がおこなわれているからだ。

山道を外れて海岸に出たジークは、波しぶきのかかる岩場に降りると、柵が朽ち果てた岩場から

港町まで伸びた小道を安心して歩いた。



もともとカブールで宿を取るつもりはなかったのだが、旅の初めの町は気持ちを高揚させて無駄に動き回ってしまい後悔していた。


ガーデーヴェの町は街道の出発点にもなっていて、そのまま海岸沿いの道を歩けば引き潮で浮き出た街道を伝って島から島へと渡って船に乗らなくて済む。


ガーデーヴェの町に入ると、早速、店屋の商品を眺めながら、荷物を荷車で押していく集団や背中に高く積んだ男衆の流れの入りこみ、独り身の気楽さで、右へ左へと両脇に並ぶ店を興味深く見ながら、街はずれまで流れ着き、そのまま海水の引いた石畳の上を軽い足取りで歩いた。

潮が満ちる夕方までには次の島までたどり着きたかった。


海の街道の途中には大きな岩場があり階段まで掘られ街道の途中で潮が満ちてきた場合逃げ込めるように工夫がしてあったがジークには必要がなかった。

ガーデーヴェから街道をひた歩いて小さな島を二つ越え宿屋や店屋が乱立する大きな島に着いた

島は潮が満ちて海水で街道を渡り終えない者たちであふれかえっている。

「ガーデーヴェからきなすったかね。カブール経由かねカブール経由ならちと話を聞かせてくれんか。」

ジーク黙って首を横に振った。

「なんだ違うのかい、残念だよ」

宿屋の呼び込みがジークから離れて行った。心底カブールの情報を欲しがっている様子である。

灯りが店の軒先にともされ屋台の提灯が並び島の一角は人でにぎわっていた。

ジークは一人、家並みから離れて崖の舳先の大木によじ登った。

湿気を含んだ海風が心地よかった。


丁度ジークが島に昇ってきた海からの狭い階段に火がともり旅人は登ってくるのが見えた。

舳先のように突き出た崖の木の上からは、曲がりくねった階段の人影が丸見えだ。


潮が満ちてきて慌ててこの島に上ってきたのだろう。

人影は親子のようで一人は背が高く一人はその半分にも満たない小ささでちょこまかと足を動かして遅れまいとついている。


「なんだあれは、いかだか」

旅人は一抱えもあるような丸太で石段に乗り上げていた。丸太でも板のはし切れでも浮いてさえいれば乗り物になる、うまく波に乗り切ればの話だが。

「ゲ、生きてやがった」


階段を登り切った子供はその背丈以上の荷物を背中に背負っていた。

先を歩く女は妙にやせ細っている。

「簡単に怒り狂って、力を使うからだ。」とジークはつぶやいた。龍族が力を使うとその代償に己の肉体に反動が来る。

肉感的な体つきの踊り子が今は干からびた老婆だ。



翌朝、潮が引いて街道が姿を現すと、島は荷役の声で満ち溢れた。

「順番、順番。番号札を見せろ。誰だって先を急いでいる。荷物を持っている奴は軒先の下を通れ、荷物が無い奴は海側を歩け。いいな」

「旅人は無理な追い越しはするな。荷役の後ろについてくれ。島を降りてからならなんぼでも追い越してもいいぞ。ここではだめだ。いいな」


島の住人が急な階段をわれ先に行こうとする男らに叫ぶ。

海岸に荷物を運んでいる男らが次の荷物を持ち運ぶために、登ってくるのとかち合うと

降りて行く奴が岩にくっついてやり過ごす。

ジークが昇ってくる男らをやり過ごし、不安定な階段を下りたところで声をかけられた


「おいお前、宿屋近辺では見かけなかったが。居たのか。」

振り向けば、一段上には老婆になった踊り子がにやりと笑っている。

声をかけて来たのは子供に変身している二人のうちのどちらかだ。

丸いほっぺにくりくりした目でジークを見上げていた。

連れの老婆は必要以上にはジークには近づかなかったが

子供は荷役の者を避けてジークのそばまで来ていた。


「カブールでは泊まらなかったのか。泊まる金がなかったのか。そうだろうなたった一人だけ、しかも出来の悪い奴にお使いを頼むのだから貧相な旅したくしかできなかっただろうに」

大きなリュックを背負った幼児はケラケラと笑った。


「死霊どもにケツの毛をむしられたくせに。偉そうだな」

ぼそっとジークが答える。

「なんだお前たちは知り合いか。」

かすれた声が後ろから聞こえた。荷役の男が陽気に声をかけた。

「いや、違う」と同時に二人は答えた。


「俺は案内を頼むような子供じゃないのでね」

もごもごとジークはつぶやき、積み上げられた荷物をよけて大股でその場を去る。偉そうな子供らと会話したくない

最後の石の階段を下りると海水で洗われた石畳にジークは飛び出した。

荷役の男たちが降ろした荷車に荷物の積み替えを始めた横をすり抜けて先を急いだ。

子連れの老婆から離れ、前方に行く別の荷役隊をジークは追い抜いた。

旅は始まったばかりだ。カデカのある大陸へまずは到着するのだ。


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