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伽藍の龍  作者: KOUHEI
3/7

死霊の森

空に星明りしかなかった暗い森は、葉っぱの隅々まで淡い光が注ぎ、木立の奥まで見渡せる。


夜明けである。


ガキどもを無視して、ぐっすりと眠ったジークは、薪の灰の真ん中の青い火を消し、結界を解いた。

結界の周辺には、何者かがジークらの匂いを嗅ぎつけて、土を掘った跡が数か所あった。


二人の幼児ものそのそ起きて、ジークの行動を盗み見してはぼそぼそ話し込み、リュックを背負ったところを見ると、虫の変身はやめて、子供の姿のまま森の中を歩くつもりらしい。


なぜか二人の子供を後ろに引き連れて三日、苔の垂れさがったうす暗い森をあるいて、光が降り注ぐ原っぱに抜けでた。、


下草やコケの垂れさがる森とは大いに違った原っぱの丘を超えて、空を突き刺すかのような背の高い巨木がどこまでも続いている見慣れぬ風景の中に3人はいた。


太い幹ばかりが目立つ林の中は、苔も生えず木の根が太く盛り上がり、なぜか擦れてピカピカしている。

巨木も空に近いてっぺん付近だけに枝葉が茂っている。


太い木の幹と、うねっている木の根ばかりの殺風景な景色に、ジークは用心しながら歩いた。

何かいるようだが、見える範囲には動いているものは無い、ふと殺気のような異様な気配を感じジークは足を止めた。


ジークの後ろをくっついて歩いて居た、アディとシグルは急に止まられていら立った。

幼児の格好はしているものの、二人は同じ深緑色の大人用のマントとマフラーを身につけている。

しかもその大きなマフラーを最大限に活かして、鼻から口を覆い、二人とも幼児に見えない、眉間に深いしわを寄せていた。


「止まるな、なんでとまるのだ」と、口から息をするも嫌だとばかりに短く言う。


「さっさとここを通り抜けようぜ。このにおいは嫌いだ」もごもご不満を言う。


「臭い、このにおいを何とかしてくれ」口を開けたために臭いにおいが鼻いっぱいに広がった。

吐き気がこみ上げる。


マントの端に塗り付けた薬を鼻のそばに持ってくる。

「無理だよカッパをつけて見たけど、効きやしない。荷物の中にカッパ以外の香料は無いのかい?」

「あいつに聞いてみよう、何か持っているかもしれない」マフラーとマントで4重にしても臭いが鼻に届く。


ジークの鼻にもこらえがたい異臭は届いていたが、その原因が近くにいるため、むやみに手で鼻を抑えられずにいる。

幼子の形をした二人に、死霊の領域に入ったことを教えるべきかジークは一瞬悩んだが、あいつ呼ばわりしていたのでやめた。


ジークは不快なにおいの元が頭上にあるのを察知し、腰のサーベルを柄をつかんだ。

下草の無い奇妙な森に入ったときすでに、サーベルの紐をほどいていつでも抜けるようにしている。

このサーベルはジークのお手製で、森に入ると決まった日から刃には塩を固めて一回り大きくしている。


ステフニフル出身の教官が熱を入れて訓練した成果を試す時でもある。

二抱えもある巨木の幹を背に、同じように刃に塩で固めてある短剣を、袖口から出し左手に持ち、死霊の奇襲を待つ。


前を歩いていたジークが大木に近寄り 背の荷物を大木に着けたまま、白い棒をだらりと持ち動かない。


幼子の二人はジークの動きよりも、得体のしれぬ気配の恐怖を遅ればせながら感じとり、背中に垂れていたマントを広げ結界を作った。


外界では死霊と呼ばれている腐肉と菌糸の合体した不可解な化け物が、森では闊歩していると、外界のでの講義で覚えていたが、想像を絶する臭いである。


広がったマントがしぼみ、二人の姿がマントと共に結界の中に消えると、生臭いにおいの元がジークの右手上の梢からから落ちて来た。


木の幹にも似た茶色の物体は、ジークの足元の木の根にぶつかり、弾みをつけてジークに向かってきた。

ジークは大木の木の幹を背にしたまま左に移動し、もう一匹の地表から湧いて出たかのような人の形をした死霊が飛びかかってきたので、死霊の腕足腹と素早くサーベルで突きながら、丸い死霊の肉片を左のナイフで切り取った。臭い、とにかく臭い。


ビューともぶーとも言えない異音出して、丸い肉の塊と人型をした死霊は、塩が触れた部分が溶けて、液体が飛び出している。


丸い死霊は上から落ちてきた勢いがついて、ジークの剣先をよけきれずに刺され、木の根にぶつかり液体を振りまきながら、アディとシグルの決壊の上をはねて通り過ぎ、別の大木の根元にぶつかりごろりと向きを変え、不快な叫び声をあげながらやみくもに地面を噛んだ。


人型の死霊には腕が三本と短い足らしきものが獲物の方向へ行きたい足と、塩で傷ついて、痛みを訴える足とに分かれて無駄に動き回っている。

別に3本ある手が、木の枝をつかみ上への移動を試みたが、胴体の一部は毛の生えた場所から、濁った白い液体を履いて、威嚇の声を上げている。

ジークは背中の荷物を足元に落として丸い死霊の後を追いかけて、目と口と辺りをつけて居た箇所をナイフでえぐり取った。

そのまま

むやみに暴れている人型の死霊に突進し、強い意思のある足と手の動きに用心して、毛で覆われている口の上を狙ってサーベルで薙ぎ払った。


塩で固めた切っ先は硬いものをなぞったような感触が手に伝わったが、人型の腕や足がだらりとなったので菌糸を断ち切ったことを確認した。

ジークはサーベルを一振りし腰に結ぶとズタ袋を背負った。

他に襲ってくるし死霊がいないの確かめて、左手のナイフを袖口に収める。

周囲を見回してとっととこの森は抜けるに限ると判断し、背中の荷物をひもで腰に固定しジークは走り出した。

「おいまてよ。置いていくんじゃない」

マントから顔を出した、アディとシグルが慌ててジークに声をかけたが

すでにジークは駆けておりその姿はどんどん遠くなりつつ。


幼児の足では追いつけないと判断した二人は、その年齢にふさわしい少年に変身してジークのあとを追った。


これまで地面をこすっていたマントが、アディとシグルの腰のあたりで翻り、巨木の根も軽々と跨ぎ越している。

二人はしっかりとジークの後を追いかけ見失う事は無かった

巨木の森を抜けて、下草の多い枝葉の茂った低木は多いが、四方の見晴らしの良い丘の上でジークは足を止めた。

夕日が赤く空を染めている。

後ろから長いことジークをの後を走っていた二人が、間隔を開けて立ち止まった。

二人はマフラーを外して握りしめ、マントはリュックの下に巻き込まれている。


二人の青い顔を見つめ

「けがはないか」とジークは尋ねた。

シグルは口をへの字に曲げて、睨みつけて来た。


「走ることぐらい、アカデミーに入っていないやつでもできる、馬鹿にするな」息が荒くならないようにアディは言った。


「ケガが無ければそれでよし。少しでも血の匂いがあれば死霊がはどこまでも追いかけてくるからな」

ジークの答えに顔を見合わせた二人は、汗にまみれ顔に小枝のついた首や手を、お互いに声も出さずに見つめていた。

「生意気を言うな。ただの道案内人が」

アディは死霊が二人の上を転がっていったのを思い出して、嫌な気持ちになったが、能力が一般人並みのジークに偉そうに忠告を受けるのは腹が立つ。

「そうだぞ、偉そうにするな」シグルも付着した小さな枯れ枝が擦り傷でないこと祈りながら、アディの肩を持った。


二人が死霊のいない安全な場所に来たと、安堵の面持ちで幼児サイズに戻ろうと目配せをした時、ずしりと重い足音して、続く足音に枯れ枝を踏み、折れる音まで加わった。思い足音は丘の下から聞こえる。

ジークは音のした方角をじっと見つめ、袖口のナイフを出して、ひっこめた。


「逃げろ」


年下への配慮を考えて、ひと声かけて脱兎のごとくその場からジークは走り出した。

丘の下にゆるゆると表れたのは、巨木の森に居た死霊より何倍も大きい、人型をした腐肉の死霊が樹木をかき分けて歩いていた。


幸いなのはまだジークたちの存在にその死霊は気が付いていないこと。


追いかけてくる二人の子供の足音を、全く気にすることもなく、肩のひもが緩まぬように握りしめて

力の限りジークはかけ続けた。


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