さいごのとちゅう
「じゃあ、向こうでも頑張ってね」
「うん」
「そんな顔しないでさ」
「うん、うん」
「わたし達の分まで頑張ってきてよ、ね?最後はひなちゃんの笑顔を見たいな?」
「最後とか言わないでよ……3年は長いけど、必ず帰ってくるんだから」
「解ってる、解ってるわ。それでも笑顔のひなちゃんを覚えてたいのよ」
「うん……解った。耀子ちゃんの言う通ね、うん」
「こっちもうんと頑張っとくからさ。心配せずに行ってきな」
「きっと、きっとだよ」
「約束する。俺がひな姉との約束を破った事会ったか?」
「そうだね、飛鳥は絶対約束破らないもんね」
「あら、ひなちゃん、あたしは?」
「耀子ちゃんも、だね」
「うんうん」
「それじゃ言ってくるね」
「あぁ、気を付て!頑張ってな!」
「頑張って!何があっても頑張ってね!」
あの日学長室で受け取ったのは「アメリカ留学」という景品。宇宙産業の最先端であるアメリカへの留学という話だった。
2人はそれを知ったひなせから怒られた。もの凄く怒られた。2人が涙目になっても怒り続けた。その後3日間口をきいてくれなかった。
そして3日後に、今回の事はひなせの夢の為に2人により計画されたのだという事に感謝をし仲直りをした。
結局本当に宇宙産業への従事という夢を抱いているのはひなせだけだったのである。
だからこそ、アメリカ留学にはひなせが行くべきなのである。と2人は言ったのだった。
飛鳥の夢とはそんなひなせを支える事であり、その夢を応援したかったのだと言った。
耀子の夢とはそんなひなせを支える事であり、その夢を応援したかったのだと言った。
そしてひなせが旅立つ。
宇宙に向かうその第1歩に向かって。
「行っちゃったわね」
「あぁ」
「やっぱり寂しい?」
「そりゃな」
「……あたしの計画に乗った事、後悔してる?」
「まさか」
「そう……」
「むしろ感謝してるくらいだ。改めて礼を言て貰う」
「飛鳥に礼を言われる筋合いはないわ。あたしがそうしたかったからそうしただけ。可能性を上げる為に飛鳥を巻き込んだ。そう言う事よ」
「そうか」
「えぇ」
しばらく無言。
「なぁ」
「なに?」
「お前、俺の事名前で呼んでたっけ?」
「今日が初めてよ。いけない?」
「いやいけなくはないが……」
「なんかね、そう言う気分なのよ。なんて言うかなぁ……あなた……飛鳥の事も前ほどウザク思わなくなったわ」
「そりゃどーも。あれかやっぱ心境の変化って奴か?もうすぐ死んじまうって事で」
「そうかもね。最後まで飛鳥と「お前」「あんた」で過ごすの悪くないかもしれないけど……あたしだって穏やかな気分で逝きたいって気持ちぐらいは持ってたみたいね」
「そっか。俺も耀子の事、前ほどうっとうしく思わなくなったな」
「え?」
「わりいか?耀子がそんな風に思ったみたいに俺だって死ぬ前は穏やかに過ごしたいって思ったっておかしかねぇだろ?」
「そう……そうね、ごめんなさい」
「いや、いいんだけどな。なんつーかあれだな。あれだけひな姉に仲良くしろって言われて出来なかったのに……」
「ひなちゃんがいなくなってから仲良く名前を呼び合うようになるなんて……ね」
「だな」
「ひなちゃんは……今どの辺りかしら?」
「まだ飛んでるだろ。まぁ明後日の昼頃には移民船の中だ」
「大丈夫かしら?うまくやっていけるかしら?」
「大丈夫だろ、火星の開拓もそれなりに進んでるって聞いてる。それに俺と耀子が全力で持る全てをたたき込んだんだ。うまく行かないはずがない」
「そうよね、大丈夫よね」
「あぁ、絶対だ」
「えぇ、絶対よね」
ひなせが地球から飛び立って二ヶ月後、太陽活動の活発化が発表される。
今後3年間に渡りその活動は続き、恐らく地球上の生物が壊滅的な被害を受けるであろう事が予想されていた。