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さいごのさいしょ

それからの3ヶ月はあっという間だった。


「よく考えたら耀子ちゃんは運動できないし、勉強はこの中で一番頭良いしで、特訓する必要ないんじゃ……」

「な、何言ってるのよ、ひなちゃん達に頑張って貰うのにわたしだけのんびりしてられないじゃない。それに仲間外れはいや」

「そっか、そうだよね。ごめんね、耀子ちゃん」


そんな会話を交わしながら特訓は進む。


耀子が2人に勉強を教える。飛鳥はともかくひなせは元々理解が早い。それに耀子の教え方も良かったのだろう。みるみるうちに学力を上げていった。

そんなひなせに引きずられるように、飛鳥もほんのちょっと、他の平均的学生に較べればまだまだ下だがそれでもほんのちょっとだけ頭が良くなった。様な気がする。かも知れない。多分。恐らく。


飛鳥がひなせのトレーニングを行う。元々飲み込みが早いひなせである。優秀なコーチが付けばどんどんと知識を吸収し順調にトレーニングは進んだ。

見ているだけの耀子に「筋肉フェチキモイ」という罵声を受けながらも、飛鳥は全力でひなせを仕上げていく。しなやかに仕上がっていくひなせの筋肉を見ながら「やっぱ俺筋肉フェチかも」と思いつつ。


そして意外だったのがサバイバル訓練である。これに関しては、耀子にも手探りであり、ガイドブックを見ながら進める予定だったのだが……


「それはこっちにおいてね。あ、その蛇はわたしが捌いちゃうから血抜きだけお願い」

「え?ひなちゃん?そんな事お願いされても……」

「あーあー、俺がやるわ。さすがに初めてでそれはきついわな」

「いやきついとかそう言う問題じゃなくて……」

「そっか、お前ひな姉とは高校からだからな」

「え?え?」

「ひな姉な、家事全般得意だろ?」

「え、えぇ」

「その家事能力の高さは家の中に限らないって事だ」

「そ、そうなの?」

「小学校の頃から鳥とか捌いてんだぜ。俺も最初はびびった」

「……」

「カレー粉があればなんでもたべられるよー」

「……後、方向感覚とかハンパない」

「あたし達が教える事なんか何もないじゃない……」

「この特訓に限ってはそうだな」

「なに言ってるのー。さんにんで一緒に上位を目指すんだから。他の事は色々教えて貰ったからここでいっぱい恩返しするよー」

「え、そんな気にしなくても……」

「飛鳥も子供の頃そう言って逃げようとしたんだよねー。でも大丈夫。最後にはちゃんと出来るようになるよ!」

「コオロギを生で囓った時には何かこう……大事なナニカをなくした気持ちになったんだよなぁ……」

「い、いやぁぁぁぁぁぁぁぁ……」


3ヶ月はあっという間だった。しかし充実した3ヶ月だった。

元々のサバイバル能力に加え、飛鳥のコーチと耀子の指導により、ひなせは確実に成長していた。

そう、恐らく学内選抜試験をトップで通るほどの実力を付ているだろう。



「では上位10名を発表します」


耀子は正直聞くまでもないと思った。

ひなせが10人に含まれていない訳はないのである。

もし不安要素があるとすれば、ひなせが思っていたほど2人の成績がふるわなかった事だ。

ひなせが受かれば良い、としか考えてなかった耀子達にとってそれは当然の事だったが、思った以上にひなせは2人の事を心配していた。その事が成績に影響しなければいいのだが。

しかしそれも杞憂だろう。中間発表を聞いていた限り、最悪でも5位以下という事はないはず。


そして耀子の予想通り、ひなせは第3位という好成績で試験を通過したのだった。そして2人は100位内になんとか引っかかる程度。


「なんで……2人とももっとがんばれたはずでしょ!」


ひなせが悲しげな顔で2人を見る。


「うーん、あたしはやっぱ運動全滅だったからねぇ」

「俺はやっぱ付け焼き刃の勉強じゃダメだったって事だわ。暗記問題は良いにしてもあのパズルみたいなの全滅だし」

「そんな……」

「けど手を抜いたとかじゃないのよ?ねぇ?」

「あぁ、出来る限りの力でやったんだぜ?」

「けど、あんなにがんばったのに、上位目指すって言ってたのに……こんなのないよ、わたしだけなんて……」


元はと言えば、3人で上位を目指すと言う話だったのだ。

それなのに2人はこうなるのが当然というような顔でいる。なにかおかしい。さすがにひなせもそう思い出している。


「2人とも、何を考えてるの?わたしに何か隠してない?まるで最初からこうなる事が解ってたみたいな……」

「考えすぎよ」

「考えすぎだ」

「でも……」

「最初に言ったろ?やれば出来るは出来る人の言葉だって」

「全力で頑張ったわ。それでも限界はあるの。人それぞれの。言い訳みたいになっちゃうけど、ほんとに頑張ったのよ?」

「だからさ、1人だけでも……ひな姉だけでも上位に入った事を喜ぼうよ」


涙を流すひなせを2人で慰める。いや説得する。

出来る事はやり尽くしたのだと。その結果がこうだったのだと。こうなるのは必然だったのだと。

2人は欺瞞と優しさに満ちた説得を続けた。だったら何故、特訓などと言い出したのかは言わないまま……

その後ろではアナウンスが続く。


上位10名は表彰の後、学長質までお越しください。景品の授与を行います……

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