第3話 医者と研究者
目を開けると青空が広がっていた。
俺を呼ぶ2人の声。
1人は浩次郎だな…。え、2人…?
俺はすぐさま体を起こす。先程矢で射抜かれた場所の傷が無くなりかけているが、しかしまだ痛みはある。
体を起こした弾みに痛みが俺を襲う。
「うっ。」
「まだ動いちゃだめよ?」
俺を心配する女の声。何処かで聞き覚えのあるような声…。
ふと横を見る。そこにいるのは長髪美人の女性。清楚なイメージの顔と羽織った白衣が印象的な女性。座っていてわからないが、身長もそこそこあるのではないか?
「貴方は…誰だ…?」
「樹、忘れたのか?」
「私は小桜凛です。佐倉さんとは一度だけ共同研究をした事があるのですが…。」
そういえば1度だけ共同研究をしたことがあったな。確か4年前か。
俺は科学者ではあるが、医者ではない。生物に関する知識はあれど実際の解剖はできないし、医療的な知識は0だ。
医療機器の開発を行っていた時、協力してくれたのが彼女だった。おかげで即席回復薬を作る事に成功した。
詳しい仕組みは言えないが、単純に言えば再生する為の細胞の動きを一時的に超活性させる、というものだ。あまり使い過ぎると危ないといえば危ないだろう。
そんな共同研究をしてくれた彼女が何故か俺を助けていた。医者だから普通といえば普通なのだが、彼女は研究専門だったはず。
俺がそんなことを考えていると浩次郎はそれを汲み取ったのか、
「樹も1人じゃ辛いだろうと思ってな。一応昔共同研究をしたことがあるらしい人を連れてきたんだ。そしたら死にかけてるもんだから、な。」
「どのくらい時間が経った?敵は?」
「ああ、あの弓を持っていたやつか?それならそこに転がったままだ。完全に死亡している。」
「そうか、サンプルは取れたし今すぐ帰ってもいいか?痛みが辛すぎる。」
「そうだろうな。大体何があったのかは察せる。」
「ああ、すまない。」
「ヘリコプターはまだ止まってるから行くなら今だ。」
「ならば私も帰らせてください。」
「凛さんが来る必要は…」
「いえ、お手伝いさせてください。先程の敵について、調べたい事とかあるでしょう?」
確かに彼女がいた方が捗ることもある。
「じゃあ、頼みます。」
ヘリコプターが出発してから数分が経った。俺はあまり彼女の事を覚えていなかったので話すこともなく、気まずい雰囲気になっていた。
「あの、佐倉さん…?」
「どうしたんですか、凛さん。」
「私をこれから協力者として、一緒に研究をしてくれませんか…?」
「いいですよ。こちらとしても凛さんがいてくれるだけでありがたいです。」
「では私のことは…さん付け等せずに凛って呼んでくれて構いませんよ。敬語も使わなくていいです。」
「それは申し訳ないというか…。」
「いいんです、むしろお願いします。」
「わ、わかったよ、凛。」
「では、これからよろしくお願いしますね?佐倉さん。」
そう言いながら微笑む彼女の顔はなんだか見覚えがあった。
ふと思い出した。彼女がどんな人間であったか…。
共同研究をしていた時、彼女は人体に対する薬を作ると同時に、副産物として毒薬を大量に作っていた。彼女は言っていた。
「毒は薬にもなるんです。使い方を間違えるから危ないんですよ。」と。
しかし彼女の本領は治療をすることではないことはよくわかっていた。
実験台に毒薬を淡々と飲ませていたのである。確かに研究の為なので文句は言えないが、人間としては好かれないタイプだろう。
そう、彼女も俺と同じ、探究心を満たすためなら周りのことを考えないタイプなのだ。
そんな彼女が俺と共に研究をしたいということは…つまり残虐なことをしても平気な俺と、ということだよな。
俺としても研究はしやすいから良いのだが、利害が一致しなくなった途端に殺されたりしそうで怖いな。彼女の笑顔の裏を考えたくはないものだ。
ちなみに敵の死体はしっかりと持ち帰ることにした。医者である彼女に任せよう。
俺は、採取した門のサンプルと、気体を入れた袋だけを持ち帰ってきた。帰ったらすぐに研究を始めよう。