第2話 門の調査
「やあ樹。実際に会うのは1年ぶりか?」
「ああ、浩次郎、久しぶりだな。」
「都合良く呼び出してしまって悪いな。早速なんだが、門の周辺の調査を依頼したい。」
「そんなことだろうとは思っていたよ。」
「樹の調査機はどれも優秀なものばかりだ。頼りにしている。」
今回俺が持ってきた調査器具は1つだ。
物質を調査する器具。
原子というものには陽子と電子が存在する。陽子の数は電子の数と等しく、また違う種類の原子では陽子の数も異なる。この事を利用した装置である。
まず、陽子と電子を引き剥がす。次に、内蔵されている強力な(より陽子とくっつきやすい)電子と引き剥がされた陽子を合体させる。その時、いくつの強力な電子(超電子と呼んでいる)が失われたか、で物質を判断する装置である。
原子というのは中心に陽子と中性子で出来た原子核というものが存在し、その周りを電子が漂うようにして構成されている。
原子核が変化する事はほとんどなく、物質が化合したり変化するときには持つ電子の移動によって起こるのである。
電子にはいくつか種類がある。
電子、反電子、超電子。
電子はそのまま、-の電気を持った粒子。全ての原子が持っているものだ。
反電子については、ややこしいので触れないでおこう。
超電子は、人によって生み出された陽子とくっつきやすい度合いが大きい電子のことである。その中でも、強力な順に、L電子、M電子、S電子と名付けられている。
俺の技術ではL電子を大量生産することはできなかったが、これを自由に操る事ができれば新たな武器も開発されるだろう。
とりあえず調査する事は異界門が何で構成されているか、という事である。
指示薬等も大量に持ってきたが、無駄になるだろうか?
サンプルだけを取って帰り、自分のラボで研究をしたい。浩次郎は許可してくれるだろうが、申し訳ない。
俺は今ヘリコプターに乗り、千葉の上空を彷徨っている。
下を見ればそこは地獄。生物1匹いない世界が広がっている。こんな真似を一瞬にして行った異世界人相手に、平和主義の国が対抗しようなど、冷静になれば面白い話だろう。
日本は平和主義とは言え、科学の発展から護身の為に銃器などを持つことは犯罪としていない。そう考えれば玩具を使う機会ができただけ、なにかもしれないな。
現時点では相手の戦力も分からない状態。たったの1000人とは考えにくいだろう。それにあの魔法のような力も気になる。化学兵器、核爆弾等で対抗できるのか、それについても考える必要がある。
そんなことを考えながら俺は門のところまで来ていた。
しかしこれは立派なものだ。カメラ越しのものとは迫力が違う。黒紫に光り輝くその門は、まるで黒曜石のようだが質が全く違う。落ちている欠片はいくつかサンプルとして持って帰ることにしよう。
早速俺は機器を取り出す。
門に機器を当て、調査をしていると、
シュパッ
俺のすぐ隣を矢が掠めていった。俺は、すぐに射線を遮るように門を盾にする。
ピンチの時こそ冷静に。まずは状況を確認しよう。
この場にいる人間は俺1人だけ。もう数十分もすれば先程帰っていった浩次郎や他の学者達も到着するだろう。しかしそれまで待つのは危険だし、何よりも戦闘用の人間が来るわけではない。待つという案は没になる。
敵は1人。見た感じ装備しているのは弓だけ。それも石器時代の時のような弓なので威力はそこまででもないだろう。急所を避ければ死ぬことはないと見れる。
加えて俺が持っている武器を確認する。持っているのは拳銃1本。AA2000というアメリカの自動拳銃だ。
ちなみにこの時代における銃器は、同じ種類でもパーツが違うだけで性能がかなり変わる。レーザー機能がついているだけで実弾銃ではなくレーザー銃になる。
実弾銃は肉体や防具で防げるが、レーザー銃は防げない。その代わりにエネルギーでできているレーザー銃は切れるのが早いし、別のエネルギーをぶつけられれば防ぐことができる。一長一短とはまさにこのことである。
相手が持っている武器は実弾型。それに比べ俺はレーザー機能付きのハンドガン1本。
この状況、装備だけで考えれば俺が負ける事はないのである。
しかしエネルギーをあまり持ってきていない以上、極力少ない弾数で敵を仕留める必要がある。
敵は今矢を番えていつでも撃てる状況だ。ここはあえて1発撃たせてから、その隙を撃った方がいいだろう。
俺は決意をすると拳銃を両手で握る。
そして地面を蹴り、走りながら門の裏から出る。いきなり出てきた俺に敵は冷静に矢を向け、構えている。
早く撃ってくれ…。
しかし一向に撃つ気配がない彼。それに対し俺が攻撃の姿勢を取った時だった。
シュパッ
俺目掛けて矢は放たれた。俺はそれをギリギリのところで躱そうとするが、俺の心臓めがけて飛んできた矢を避けきることはできず、脇腹に刺さってしまう。
しかしそれでも俺はAA2000を両手で持つことをやめず、倒れる最後の瞬間まで敵の心臓を狙い続け、倒れるその瞬間、トリガーを引いた。
ビュンッ
そんな機械音(?)と共に敵の胸は赤く染まっていく。
やったか…。
地面に倒れる敵、そして敵を失ったことで向く痛みへの意識。
鳴り響くヘリコプターの羽の音を他所に、俺の意識は飛んでいった。