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普通の高校生とヴァンパイアの四季  作者: 湯西川川治
秋の話
99/226

今から、わたしのことを話します 3

     3


「昨日はすみませんでした、春日井さん」

 いっしょにお昼ご飯を食べている成城さんは、昨夜とは別人のように項垂れていた。口調もタメ口から敬語へと変わっていて、昨日のお昼と同じような感じだった。

「ちゃんと話をしなきゃいけないと思いまして」

 成城さんが昨夜言ったことだった。けれど、わざわざ僕のクラスを訪ねてきて無言で腕を引っ張っていくものだから、帰ったら何を言われるやら。新聞部の部室で一緒にお昼を食べることになったのだ。

 ちなみに今日のメニューは焼きそばパン。お昼はパン、夜はお米っていうのが成城さんのこだわりらしい。

「お米は一日一回食べないと落ち着かなくて」

 すごく賛同できることを言う成城さんに、深くうなずく。

「成城、こんなところに呼び出していったい何を」

「栄恵」

「未広もいたのか」

「わたしが呼んだんです」

 成城さんは栄恵に微笑んで、隣に促す。

 お昼ご飯を食べながら談笑しつつ、やがて話は本題へと移る。

「お二人には今から、わたしのことを話します。突拍子もない話ですけれど、吸血鬼を知っているお二人なら信じてくれると思って話します」

 お昼ご飯を食べている間に、栄恵には昨日の顛末を話しておいた。また美濃部か、と眉をひそめていた。ちなみに美濃部さんは無事だった。僕自身、成城さんが去った後のことはあまり覚えていなかったんだけど、今朝普通に美濃部さんと挨拶を交わして、特に体調も問題ないようだったので安心したのだった。

 意を決したように成城さんは口を開き始める。

「二重人格、と言ってしまえば簡単なんです」

 二重人格というフレーズから始まった成城さんの話は、要はこういうことだった。

 わたしの中にはあたしがいる。そんな言葉で表現した彼女の今は「わたし」で、昨日血を吸っていたのは「あたし」だということ。どちらも吸血鬼で「わたし」も「あたし」も、誰かの血を吸う存在であるということ。

「信じられませんか」

「いや、そんなことないよ」

「ボクもそうだ」

 数々の吸血鬼と出会ってきている僕たちが今更信じない理由も特になかった。証拠にって赤青に点滅する瞳まで見せてくれたし。これも何度見たことか。

 二重人格ということも、僕は昨日見たから信じざるを得なかったけれど、栄恵も特に否定することもなく、納得していた。

「それで、狩りの欲望を抑えきれなくなって美濃部さんの血を吸ったってこと?」

「それもあります。でもその行為に意味はありません。だって共食いですから」

 共食い。さらりと成城さんは言ったけれど、その言葉を額面通りに受け取るなら、その意味は明白だった。

「美濃部は吸血鬼ってことか。いや、ボクはあくまで推測でモノを言っているから、確定ではないけど」

 栄恵が僕の気持ちを代弁する。

「でも、彼女の言うことを信じるとするならば、確定ということ」

 断じるような栄恵に、成城さんは肯定も否定もせずに続けた。

「南柄高校の生徒会にはある伝統があります。各世代に一人は必ず、吸血鬼がいるということ」

 美濃部さんの名前を出さずとも、確定的な答えを紡ぎだしていく成城さん。

「代々引継ぎをしていくんです。下級生の吸血鬼を探して、生徒会に引き込む。それを繰り返すうちに伝統になっていったみたいです」

 おそらく牧穂さんが来る前から、この学校には吸血鬼がいたということだった。おそらくその伝統を作ったのが誰かというのは、僕は口にしなくてもわかる。

「でも、今の美濃部さんは違います。今の下級生に、誰一人として吸血鬼がいないから」

 一呼吸おいて、寂しげな表情で成城さんは続ける。

「いなければどうすればいいと思いますか? そうしてしまうんですよ」

 抽象的な表現でも十分に意味を理解することができた。

「ということは、次にターゲットになるのは、城崎みやび」

「ご名答です」

 吸血鬼がいないのであれば、吸血鬼にしてしまえばいい。言葉にしてみると背筋が凍るようだった。生徒会の後輩には城崎副会長しか2年生がいない。後はみんな1年生だった。

「わたしはそんなゆみ……美濃部さんを止めるために動いてます」

「昨日もそのために?」

「はい。ちょっとした諍いと手違いでああいう形にはなってしまいましたが」

 成城さんは苦笑いを浮かべる。

「血液の補給を忘れてしまって。あたしが出ちゃったんです」

「全然印象が違うからビックリした」

「そりゃそうですよね、普段こんな感じの人間がいきなり豹変しちゃうんですもん」

「たとえば今も入れ替わることができるのか?」

「できる、んですけど、あいにく今は寝ているらしくて」

 ちょっと見てみたかったらしい栄恵のリクエストは後日かなえてもらうとして。

「美濃部さんもちょっと強情なところがあって。話し合ってるうちに喧嘩になっちゃったんです。しかもあたしが出て来ちゃったんです」

「美濃部の性格だったらわかる」

「でもそんなに強く守らなければいけない伝統なのかな」

「伝統っていうのは、いつの間にか守らなきゃいけないっていう観念に駆られるのは仕方ないことだ。打ち破るのは勇気がいる」

「使命感に駆られているんでしょう、きっと」

 栄恵と成城さんは難しい顔をする。

「にしてもだ、じゃあ美濃部の前は誰が吸血鬼だったんだ」

 栄恵の脳裏に浮かんでいるのはおそらく前代の生徒会メンバーだと思う。2年間生徒会に所属していた栄恵としては気になるところだろう。

「水口さん、驚きますよ」

「言ってくれ」

「美濃部さんの前の吸血鬼は、前生徒会長の吉岡真夏です」

 声が出せないほどに栄恵は目を見開いた。

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