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普通の高校生とヴァンパイアの四季  作者: 湯西川川治
秋の話
97/226

今から、わたしのことを話します 1

     1


 いつになく購買は戦場だった。

 まだマシな総菜パンは残っていそうだから人波に突っ込む覚悟ではあるけれど、出遅れた感は否めない。佐竹先生が引き留めなければ、僕はやすやすと焼きそばパンを持ち帰って教室にいたはずだったのに。

 さてどうしたものだろう、とふと隣を見ると、人波に突っ込む勇気がなく立ち尽くしている女子生徒の姿があった。よくよく見ると、文化祭の占い師だった。僕に気が付くと、ぺこりと頭を下げる。

「この間はありがとうございました」

「こちらこそ。もしかして出遅れちゃった?」

「はい、ちょっと授業の片づけが長引いちゃいまして」

 同じ境遇にいるみたいだった。人波を眺めながら二人してため息をつく。

「今日はパンの気分だったんですけど……」

「君は何がいいですか?」

「えーと。あまいやつを。出来ればメロンパンとか」

「了解いたしました」

「行くんですかあそこ!」

「チャレンジチャレンジ」

 もともと玉砕覚悟のつもりだったし、人の分までとなると力を発揮できそうだった。意を決して人波に突っ込むと、四方八方から圧を感じた。負けじと圧をかけていく。購買のおばちゃんが見えてきたところで僕は叫ぶ。

「おばちゃん! ピザパンとクリームパンとメロンパン!」

「あいよ!」

 よかった、まだ残ってた。袋に入ったそれを受け取り、おばちゃんの手のひらに小銭を渡して取引成立だ。

「はい、あまいやつ買ってきたよ」

 戻ってきて戦果を報告すると、彼女は顔をほころばせてお礼を言ってくれた。

「ありがとうございます! すごい」

「僕の分もゲットできたし、運が良かった」

 僕も総菜パンを確保することができたので、教室に戻ろうとすると。

「それじゃあせっかくですし、一緒に食べませんか」

 そう誘われたのである。


「成城、翠です」

 ——なるしろみどり。彼女はそう名乗って、ぺこりと頭を下げた。

「僕は」

「春日井未広さん、ですよね」

 自己紹介をしようとした矢先、成城さんの口から僕の名前が口を突く。

「知ってたんだ」

「校内新聞の部長さんですよね。新聞、毎週読ませてもらってます」

「ありがとう」

 初対面の人から僕の名前を聴くのはもはや慣れたので突っ込まないでおいたけれど、新聞をしっかり読んでくれている人がいて何か嬉しかった。

 成城さんと新聞の話とか、好きな購買のパンの話とかをしていたら、あっという間に昼休みの時間が過ぎていった。

 本当にありがとうございました、と言って自分の教室に戻っていく成城さんを見届けてから、僕は息を吐いた。

 絵に描いたような大和撫子だった。男子からの人気も高そう。隣のクラスだったのに僕は知らなかったけど。でも、どこか見た事がある気はした。

「どうしました、ボーっと突っ立っちゃって」

 聴きなれた女子の声に我に返る。美菜ちゃんだった。

「今の、翠先輩でしたね」

「お知り合い?」

「すごく優しい3年の先輩です。料理部の部員さんです」

 どこか見覚えがあると思ったらそうだったのか。北砂さん越しに成城さんを見ていたのかもしれない。

「翠先輩がどうかしたんですか?」

「いや、ちょっと話す機会があって」

 一緒にお昼を食べた、ということは何となく言わない方がいいと思ったので伏せておく。

「それであんなに鼻の下延ばしてたんですね」

 バレてた。

「お昼食べたことくらい隠さなくたっていいじゃないですか」

「いや、なんとなく美菜ちゃんには言いたくなかったっていうか」

「そんなくらいじゃ怒りやしませんから」

 だからいつもそうだけど、美菜ちゃんの怒りは言葉と表情と行動が伴ってないんだって。

「今日の部活は休みます。急なバイトが入ったんで」

 それだけ言って美菜ちゃんは行ってしまった。

 さて、お姫様の機嫌をどう直すかだ。


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