わたしはいつから文化祭実行委員長になったんですか 2
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「春日井くんって、令奈の恋人だったの?」
いきなりそんな話を振られて、僕はタピオカを噴きかけた。
タピオカの話をしていたら飲みたくなってきたので、出店抽選に勝ったクラスのタピオカを買って歩いてきたら、北砂さんが不意に聴いてきたのだ。
「な、なに言ってんの」
「もう令奈はいないし、おとなしく白状しちゃいなよ」
「……恋人ではないよ。告れなかったもん」
「そっか」
想いを伝えられないまま逝ってしまったことに思いを巡らせているのか、死んだ親友に想いを馳せているのか、北砂さんの表情は晴れなかった。生前は結構仲が良かったから。
「今度はしっかり告白しなきゃダメだよ」
「北砂さんのことが好きです、って?」
「だから私はノー恋心だって言ってるじゃん」
北砂さんはからからと笑いながらタピオカを飲む。普段から公言しているからわかっているけどさ。
「春日井くんの好きな人くらい、私は知ってるんだから」
「もう周知の事実になってる気がする」
「外堀固められたんだから、そろそろ覚悟決めたらいかが」
外堀どころか内堀すら固められつつあるというのは秘密にしておくにしても、それも吸血鬼もどきと並ぶくらいの課題の一つだった。もっとも、吸血鬼になっちゃったら告白もできなくなっちゃうんだけど。
秋になってもまだ僕は吸血鬼もどきのままだ。
城見先生の研究が進んでいるけれども、なかなかうまくいかないのだ。勾玉の抜け殻の数が足りない。タピオカみたいに簡単につくれればいいんだけど、そんなうまい話もなく。
「とにかく卒業までに告白しないと」
僕の命の期限を知らない北砂さんは僕の気も知らないでそう言う。けれど、期限がなくとも卒業まで引っ張ってしまいそうなのは否定できない。
「卒業できるかなあ」
「留年するつもりかな」
「一緒に留年したら同じクラスになれるよ」
「それも面白そう」
吸血鬼になったらそれやってみるのも面白い、なんて邪な想像をしながら歩いていると、目の前に見知った二人組を見つけた。
「あ、未広先輩!」
「ミヒロ」
振り向いた鮫ちゃんとエミールは両手にタピオカを持っていた。
「甘いものめぐりの途中だね」
「この学校のみんな、センスバッチグ―だ」
「どこのクラスの奴もおいしいよね」
すでに結構な数を堪能しているらしい、
「未広先輩とサリー先輩も行く?」
「ついて行きたいけど、私はそろそろクラスに戻らないと」
あ、逃げた。
「じゃあ未広先輩はレッツゴー!」
引きずられて行く僕に笑顔で手を振る北砂さんだった。
「いやあ、満足しました。ね、先輩?」
「担担麺とか食べたいな」
僕のクラスの喫茶店のケーキを食べ終わって、僕は思わずつぶやいた。
多分学校中の甘いものを食べつくしたに違いない僕の胃は、何か塩辛いものを求めていた。
「打ち上げは涼み亭ですから、これくらいでへこたれてちゃダメですよ」
「まだ甘いもの行くの!」
マスターにナポリタンでも作ってもらおう。
「そろそろ僕も店番に戻らなきゃ。二人とも楽しんでおいで」
ふとスマホの時計を見ると、そろそろ新聞部の店番に戻らなきゃいけない時間だった。
「はーい、お付き合いありがとうございまーす! 行こうエミール先輩」
「あとは1年生のベビーカステラが残ってる」
2人は意気揚々と歩いて消えていった。まだまだあまあまに遊び歩く後輩たちを送り出して、クラスメイトに挨拶をしてから新聞部へ行こうとすると、
「占い屋さん、か」
僕の隣のクラスの出店が目に入った。ケーキ屋さんと占い屋さん。組み合わせは不思議とはいえ、ちょっと気になったので入ってみた。お土産にケーキを買っていくと、良かったら隣の占いも見て行ってとのことだったので、折角だから占ってもらうことにした。
「こんにちは」
薄暗い教室の一角で挨拶を交わしたのは、マントを被った女子生徒の占い師さんだった。ちょうど顔が見えなくて、怪しい感じには手が込んでいる。
「今日は何の運勢を占いましょうか」
椅子に座るなり、占い師にそう促される。うーん、何にしようか。せっかくだったら吸血鬼から人間に戻れる確率とか占ってほしいけれど、何言ってんだって言われてしまうからやめた。ベタなところでいくと……
「じゃあ、恋愛運で」
そう言うと、占い師はテーブルの上にあった丸い水晶に手をかざして『むーん』という擬音を発した。すると、水晶が紫色に光る。凝ってるなあ。
「うお、光った」
「あなたの未来を占っているところです」
LEDライトかなんか入れているんだろうけど、結構凝った演出だった。一段とその光が強くなって、やがて占い師は僕に短く一言を告げた。
「急げ」
「え?」
まるでさっきまでの占い師とは別人のような低い声だった。けれど、次の瞬間には、声のトーンは普通に戻って、僕の運勢を改めて告げた。
「今ある恋を急ぐのが吉でしょう、とのことです。好きな人、いるんですか?」
「はい、まあ」
「それじゃあなおさらです。頑張ってくださいね」
笑顔は見えないけれど、たぶん笑顔で背中を押してくれているに違いないような声だった。呼応するように水晶が光を増す。その発光が止まらなくて、思わず「まぶしい」と僕と占い師は目を覆った。占い師も予想外らしく「どうしよう」と呟く声が聴こえた。
お互いあたふたとしていると、やがて自然と発光が止まって、最初くらいの紫色に戻った。
「すみません、ご迷惑をおかけしました」
いきなりのことに謝る占い師のマントはなぜかめくれていて、暗がりながらも僕はその正体を確認することができた。でも、これ正体知っちゃいけないやつなんじゃないか。
「大丈夫、見なかったことにしますから」
思わず僕がそういうと、女子は慌ててマントを被りなおして「ごめんなさい」と胸の前で手を合わせた。そうは言いつつ、しっかりと顔を見てしまったのは忘れておくことにした。
「とりあえず、今恋をしているなら成就することを祈ってます。美菜ちゃんも待ってますから」
改めて占い師は僕にそう言って「ありがとうございました」と小さく手を振った。なんで美菜ちゃんの名前が、と思っているうちに次のお客さんを呼ぶ声が聞こえたので、僕は訊き返すことが出来ずに占い屋さんを後にした。
所詮占いだとは言いつつも、僕の恋愛運は急がば回れじゃないらしいことは確かだった。





