わたしはいつから文化祭実行委員長になったんですか 1
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「リアリティがないなあ」
お化け屋敷で何評論家気取りのことを言っているんだろうな、なんて考えながら、薄暗い順路を進んでいく。時折周りで聞こえる女子たちの悲鳴を聞き流しながら、ゴールの方向へと足を進めていく。
ちなみに今僕が言ったのは、今しがた僕たちを脅かした吸血鬼についてだ。ドラキュラをモチーフにした1年4組のお化け屋敷のそれにはどうもリアリティがない。
牧穂さんでもいれば、違った出来になったのかもしれないが。
「リアリティって、ほんとの吸血鬼を見たことあるわけじゃあるまいし」
北砂さんは呆れつつも僕と一緒に進んでいく。実は見たことがあるなんておおっぴらに言えない所は、事情を知らない北砂さんの前では仕方がない。
「変な装飾とか化粧とかはいいから、もっと生々しさをね」
「はいはい、ファンタジーの影響受けすぎ」
うんざり調子で前へ前へと進んでいく北砂さんのあとをついていく。さんざん言ったけれど、なんだかんだこのお化け屋敷のクオリティは高い。人気が高いのもうかがい知れる。けれども、吸血鬼は吸血鬼じゃない。
「本当の吸血鬼って食べられるのかな?」
「食べられるとしてもおいしくないんじゃないのかな」
どこかで聞いたセリフだった。そのセリフを言った人が実は吸血鬼だったっていうオチだったし、もしかしたら北砂さんもそうなのかもしれない。ってないない。ただ単に料理の材料として使いたいだけだろう。
まあ、食べようとする前に返り討ちにあって血を吸われるのがオチでしょう。少なくとも僕が出会った吸血鬼たちならそうなるだろう。
こんにゃくの仕掛けにはさすがの僕たちもビビりつつ、回りきった。最後まで回りきった人たちには手作りお菓子をプレゼントってことらしく、出口にいた女子生徒が小さなマフィンを手渡してくれた。北砂先輩は笑顔を見せつつ、なかなか怖かったよ、と、ポンと頭を叩いた。
「料理部の後輩の?」
「味は保証するよ」
トリックオアトリートぐらい言ってやればよかったかなあ、何と思い返しながら、クラスを後にする。
「あー、こわかった」
「言葉と表情が一致してないんだけど」
「これでも結構内心ざわついてたんだから」
笑顔の北砂さんはとてもそうは見えなかった。ちなみに僕は全然怖くなかった。全然。
「付き合ってくれてありがとね」
「暇してたから大丈夫」
今日の校内文化祭の自由行動中。出店を回るもよし、クラスの出し物に従事するもよし、だったんだけど、特にやることもなくて、ちょうど休憩時間だった料理部部長の北砂さんに出会い、今一緒に回っている途中というわけだ。
新聞部ではバックナンバーの展示会をしているんだけれど、今は博人に店番をお願いしていた。文化祭デートは店番が終わった後にするらしい。リア充。
後で模擬店めぐりしましょうね、と意気揚々と言っていた鮫ちゃんは、今はクラスの友達と一次会をやっている最中らしい。僕たちと回る時は二次会だ。
エミールは様々なところからオファーがかかり、同じく模擬店巡り中。栄恵は生徒会長として見回りをしていた。
我が新聞部の部長に就任した美菜ちゃんはというと。
「美菜ちゃんに任せちゃって悪かったかなあ」
「いや、こき使っちゃっていいよ」
「こらこら、愛しの後輩にそんな事言ってやらない」
「いろいろ任せたのは北砂さんたちでしょうに」
君が言うな、と言わんばかりに苦言を呈してみせる。あまりにも働かせすぎでしょう、っていうのは本音なところ。
美菜ちゃんは大忙し。自分のクラスの模擬店でカステラを焼きつつ、料理部の助っ人で料理を作りつつ、なぜか生徒会と文化祭実行委員会のお手伝いまでさせられている。
僕が所属する新聞部は文化祭特別号と創刊から今までのバックナンバーのギャラリーを作って展示しておき、2日目の午後は模擬店をやるつもりだった。
「明日の模擬店が楽しみだな」
「そんな大層なものは作れないから期待しないでね」
「私が監修したんだから、繁盛してもらわないと困るんだよ」
そう、模擬店で出す試作品を味見してもらおうと料理部を訪れたのがすべての始まりだった。
最初はエミールの提案でタピオカ屋台を出そうと思っていたんだけれど、昨今のタピオカブームでタピオカをやる模擬店が多くて揉めに揉め、抽選で敗北したのだった。
抽選会に参加した榛ちゃん先生はすごく泣きそうな顔をしていたのを覚えている。そんなにタピオカが良かったのか。
『タピオカは校内で3つまでしか出せないんだって……』
すごくシュンとしていた。
「あとで榛ちゃん先生にタピオカ買って行ってあげよう」
「あれ、さっき3本くらいカップ持って歩いてた気がするよ」
タピオカに対する執念やいかに。





