夏の話~エピローグ
夏の話~エピローグ
「あ、先輩どこ行ってたんですか」
「ちょっと涼みに行ってた」
「まったく」
待ち侘びました。と付け加えた美菜ちゃんは藍色の浴衣を着ていた。
「似合ってるよ」
「女の子の浴衣姿を褒めるだなんて、明日は雨ですか」
「僕だってそれくらいはするよ」
「ほら、お祭り行きますよ!」
自然と僕の腕を取って、慣れないだろう下駄を鳴らして、照れを隠すように前へと進む。この後輩にはあとでりんご飴でも買ってあげよう。
この子にも、打ち明けなければならない日が来る。
僕は、この子に打ち明けることができるのだろうか。今の僕にその勇気はない。いっそ何も言わずに消えてしまう方が、幸せなのだろうか。
いや、僕は死ぬけれど死ぬわけではない。だからこそすごくこわかった。僕がこわいと思ったのは、いつか、僕がいなくなった後の彼女を見る時が来るかもしれないということだった。
消えるのがこわいって言う風には、思えなかった。
でも、美菜ちゃんが悲しむ姿を見ることは、吸血鬼になる以上にこわいってことがわかっているのに、僕はその勇気を持つことすら、こわかった。
しばらく進んだ後、不意に美菜ちゃんは止まって振り向いた。
「先輩」
「ん?」
「あの」
「なに」
「えと」
美菜ちゃんはその後の言葉を紡ぐことなく、立ち止まった。引いていた僕の手を離すと、胸に手を当てて深呼吸をしていた。
意を決して問いかけてきた後輩の顔は、とても赤かった。それは頬のそれなのか、夕日のそれなのか、僕にはわからなかったけれど。
「……先輩。いつ告白してくれるんですか?」
消え入りそうな声を、蝉の声がかき消した。かすかに聞こえてきたその言葉は、僕の心を一層ざわつかせた。
「あ、いたいた! かすがいくーん!」
それを打ち破るように聴こえてきた北砂さんの声に美菜ちゃんは、もう、と独り言つ。そして、もう一度僕の手を取って、強く引き寄せた。
「待ってますよ、未広先輩」





