意志が強い人が飲んだほうがいい 3
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「城見さんはなんで、吸血鬼の研究なんて始めたんでしょう」
僕のふとした疑問に、榛ちゃん先生はさらりと答えた。
「……わたしが血を吸われたからですよ」
とんでもない答えだった。
「じゃあ、榛ちゃん先生も」
「いや、わたしは吸血鬼にはなりません。その吸血鬼からもそう言われました。本当に血液不足だったみたいです」
あわあわしている僕に、榛ちゃん先生は慌てることなく口にした。
「本当に謝られました。トマトジュースがなくなっちゃったんだよねー、助かりました、って」
行き倒れになりそうだったらしい。ってそんな話どこかで聴いたことがあるような気がした。
「その後襲われたりすることはなくて、たまにご飯を食べに行ったりしています」
「まるで友達みたいですね」
「吸血鬼と人間が仲良くなれるのであれば、それは嬉しいことだと思うよ」
そう考えて言えるのが、榛ちゃん先生のいいところだった。
「城見くんはそれを考えて研究を進めているはずです。だから、安心して待っててもらえれば大丈夫です」
研究室に籠っているだろう城見さんに想いを馳せているらしい。榛ちゃん先生は遠い目をしていた。
「でも、春日井くんで良かったのかも。ひどい言い方だけど」
「どうして」
「もし他の人だったら、吸血鬼と人間はこんなに仲良くできてないってことです」
僕に視線を戻して、肯定のまなざしを向ける。
「人によっては、忌み嫌う存在かもしれません。でも、春日井くんはそうじゃない。吸血鬼と一緒に寝食を共にして、日常を共にしている。これってすごくいいことだと思うんです」
「なかなかできることじゃないとは思いますが」
賞賛の意味じゃなくて、単に経験的にという意味だけど。
「吸血鬼にとっても、春日井くんの存在はありがたいと思います。自分たちの存在を肯定してくれる存在は、きっと多くはないでしょうから」
紅茶を一口飲んで、榛ちゃん先生はカップに浮かぶ水面に寂しそうに目を落とす。
「わたしだったら受け入れちゃうかもしれないな、ってふと思いました」
「もどきになったらですか」
「うん。今の春日井くんと同じ」
見透かされていた。
「遺す人がいても、向かう世界が絶望じゃなければ。それでいいと思っちゃう」
言葉が出なかった。
「わたしは春日井くんが吸血鬼になっても春日井くんの先生でいますし、一緒に学食でご飯を食べます。けれど」
笑顔でありつつも、瞳の向こうに真剣さを携えて、榛ちゃん先生は言った。
「わたしは、仲良くするんだったら他の吸血鬼がいいと思います」





